第10話 星の記録者と静かなる村3
朝の空気は澄み渡り、雲ひとつない青が広がっていた。
「……この先だよ。村の裏手にある山道を登っていくと、崖の手前に古い石段がある。そこが、神殿跡の入口」
先頭を歩くレアンは、少し緊張した面持ちだったが、足取りは迷いがなかった。
「すごいね、レアンくん。こんな場所、よく知ってたね!」
凛花がにこにこしながら声をかけると、レアンは照れくさそうに笑った。
「……子供のころ、ひとりで冒険して見つけたんだ。でも中には怖くて入れなかった。
でも今日なら、行ける気がするんだ。……お前たちと一緒なら」
蒼真は無言で頷いた。その目は冷静だが、どこか遠くを見つめているようだった。
やがて、山道を抜けた先に、苔むした石段が現れる。
その上には、崩れかけた柱と、蔦に覆われた石の門――確かに、かつて“神殿”と呼ばれた面影があった。
「……ここだ」
レアンが一歩踏み出すと、凛花の目がぴくりと揺れる。
「……星の匂いがする。中に、なにかある……大事なもの……」
「気をつけて行こう。何があるか分からない」
蒼真は剣の柄に手をかけながら、ゆっくりと石段を登っていった。
中は薄暗く、長い時の中でほとんどが崩れかけていた。
しかし、中央の祈祷室のような場所だけは奇妙に形を保っていた。
――そしてその中央に、ひとつの“浮かぶ石板”があった。
無数の古代文字が光を放ち、凛花の近づく足音に呼応するように、ふわりと輝き始める。
「これ……!」
凛花がそっと指を触れた瞬間、空気が震えた。
視界が、光に包まれる。
蒼真とレアンは一瞬、妹の姿が見えなくなったことに驚くが――すぐに彼女の周囲に幻のような光景が浮かび上がる。
それは、かつてこの地に生きた“記録者たち”の記憶だった。
広大な空。星と語らう巫女。
人々を導く力を持ち、戦火の中に記録を託して消えた“星の守人”たちの物語。
そして、凛花に語りかける幻の声。
「……汝は“記録者の末裔”……世界に散らばる記憶を辿り、希望を繋ぐ者……」
凛花が目を覚ましたのは、ほんの数十秒後のことだった。
「……見たの。星の記録、空の巫女……そして、私と同じ目をした女の人が……」
蒼真がそっと肩に手を置く。
「おまえの力、少しずつ見えてきたな」
「うん。でもまだ全部じゃない。もっと、探さなきゃ」
レアンはその様子を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「……やっぱり、お前たち……ただの旅人じゃないんだな」
蒼真は、迷いのない目でレアンを見る。
「俺は……妹を守るために旅をしてる。それだけは確かだよ。
その先に何があるかは、まだ分からない。でも――」
レアンは頷いた。
「うん……分かってる。俺はここまで。これ以上は……お前たちの旅だ」
凛花がそっとレアンの手を握った。
「ありがとう。レアンくんに出会えてよかった。……また、会おうね」
レアンは、何かを飲み込むようにして小さく笑った。
神殿の外に出ると、陽の光がまぶしかった。
村の風は変わらず、静かに吹いている。
その中で、蒼真はふと空を見上げた。
(記録者の末裔……。凛花の力は、この世界の鍵なんだ)
そしてその鍵は、すでにいくつもの者たちの関心を集めている。
兄妹の旅路は――次なる“星の記録”を探す道へと続いていく。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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