第1話 異世界への扉
夕暮れの放課後、風に舞う桜の花びらが、春の訪れを告げていた。
「凛花、ほら手、ちゃんとつないでないと転ぶよ」
「うんっ。おにいちゃん、今日は公園寄ってく?」
その日も蒼真は、妹の手を引いて歩いていた。
小学五年生の蒼真と、病弱な小学一年生の凛花は、二人で帰るのが日課だった。
両親は共働きで、家には遅く帰ってくる。
だから、蒼真は“お兄ちゃん”としての自覚を強く持っていた。
凛花は生まれつき身体が弱く、長く外で遊ぶこともままならない。
でも、今日は珍しく元気そうで、公園に行きたいとねだったのだった。
「……ちょっとだけだぞ。走ったらダメだからな?」
公園のすべり台、ブランコ、小さな砂場。ふたりだけの王国みたいな場所。
凛花の笑顔が、夕焼けの光に照らされて金色に輝いて見えた。
そのときだった。
空気が、音を失ったように重くなる。
地面が、風が、空が――世界が、少しずつ歪んでいく。
「……っ!? 凛花、こっち来い!」
咄嗟に蒼真が妹を抱き寄せた瞬間、目の前の空間が、まるで割れたガラスのように砕け散った。
音もなく開いた「扉」。
それは、二人を呑み込む異世界への渦だった。
気がつくと、見知らぬ森の中に倒れていた。
葉は赤く、空は二つの月が昇っている。空気はどこか澄んでいて、けれど馴染みがない。
「……夢、じゃないよな」
蒼真は自分の頬を叩いた。
痛い。
現実だ。
そして、隣で倒れていた凛花が、小さな声で目を開ける。
「おにいちゃん……ここ、どこ……?」
「わかんない。でも、大丈夫。俺がいるから」
蒼真は震える妹の肩を抱きしめる。
その瞬間、空から何かが降ってきた。
――否、「人」が。
「こいつらか……星詠みの気配は」
現れたのは、漆黒のローブを纏った男たち。顔は仮面に隠れ、手には黒い槍。
その目は、まっすぐに凛花を見ていた。
「お前ら、何だよ……っ! 妹に近づくな!」
蒼真は立ちふさがる。小さな体で、剣すら持たずに。
「その子は、“星詠みの器”。我ら《虚夢の教団》が預かる。お前は退け」
「やだ……おにいちゃん……こわいよ……!」
妹の声が、蒼真の胸に火をつける。
(こいつらは……妹を、連れて行くつもりだ!)
そのとき――
蒼真の胸に、光が灯った。
それは彼が転移した瞬間に宿された、“守護の加護”。
蒼白く輝くその光は、空間を歪ませ、彼の手に一本の剣を生み出す。
「……凛花に、指一本触れさせねぇ……!」
剣を構える蒼真の背に、凛花の手がそっと重なる。
そして、彼の力に呼応するように、凛花の瞳が輝いた。
「おにいちゃん……見えるよ。星が、あなたを導いてる……」
その瞬間、教団の男たちが動いた。
だが蒼真は、まるで見えない力に導かれるようにその攻撃を避け、剣を振るう。
――戦いは、始まったばかり。
異世界で目覚める“兄の加護”と、“妹の力”。
これが、全てを敵に回してでも家族を守る、兄妹の戦いの幕開けだった。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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