AI×ショートケーキ×書き始め『聖なる夜に』
私:ショートケーキを題材に短編小説を書きます。最初の一文を考えてください。
AI:素敵なテーマですね!では、こんな一文はいかがでしょうか?
「真っ白なクリームに包まれたショートケーキが、彼女の心に甘く切ない思い出を呼び起こした。」
真っ白なクリームに包まれたショートケーキが、彼女の心に甘く切ない思い出を呼び起こした。
あの日、あの時、自分の気持ちを素直に伝えていれば、今私の目の前には彼がいたのだろうか。
ジングルベルのメロディーとカップルたちの笑い声をBGMにショートケーキを食べながら、ふとそんなことを考えてしまった。
私の誕生日は十二月二十五日である。
同じようにクリスマスが誕生日、またはクリスマス近くが誕生日である人なら激しく同意してくれると思うが、生まれてからずっとクリスマスのお祝いと誕生日のお祝いはひとまとめにされてきた。
ケーキと言ったらクリスマスケーキ。食卓に並ぶ料理もローストチキンやグラタン、シャンメリーなどクリスマス一色だ。
母が腕によりをかけて作ってくれていたのは本当だし、私が好きな料理も用意してくれていた。
けれども、1年に1回しか見ない丸鶏やテーブルに飾られたポインセチアを見ると、やはりこれはイエス・キリストを祝うための食卓なのではないかと考えてしまう。
プレゼントだって誕生日とクリスマスを一緒にされる。
六月生まれの弟は別々に買ってもらっていたのに、私は毎年一つしか貰えなかった。「誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントを別々に買って欲しい」とお願いしたこともあるけれど、苦笑いされただけで次の年もやっぱり1つだった。
忘れてしまっただけだったのか、お姉ちゃんなんだから我慢しなさいということだったのか。
10回目の誕生日を過ぎたあたりから、もう何も言わなくなった。
こういうものなのだと思うようになってしまった。
私の誕生日はみんなにとっても待ち遠しい日であって。
私のためだけに祝われる日ではなかった。
たった1日、あの日を除いては。
大学3年生のクリスマス、サークル内でクリスマスパーティを開催することになった。
彼氏・彼女がいない人だけが集まって存分に飲み食いしようぜ、という半分悲しい企画だったが、そんなことは気にならないくらい楽しかった。
比較的部屋が広い仲間の家に押し掛け、ピザやフライドチキン、バケツいっぱいのポテトなど食べたいものを片っ端からテイクアウトして持ってきた。近所のスーパーでビールとチューハイ、ウコンが入った栄養ドリンクを大量に買い込んで冷蔵庫に入れ、誰が何を飲んだか分からないくらい缶を開けた。
みんな大いに飲み食いし、「俺独り身でよかったっす!」と声を張り上げる仲間に対して盛大な拍手と同意を寄せ、サークルの仲間が恋人と仲睦まじい写真をSNSでアップする度、全員で冷やかしのコメントや大量のいいねを送り付けた。
当人にしてみればさぞ迷惑だったであろうが、たった1人の大切な人と過ごせる夜を羨ましいと思う気持ちの裏返しだったのだと思う。
食べ盛りの大学生十数人が大量の料理をきれいさっぱり胃袋に収めた後、1人の後輩がクリスマスケーキを持って部屋にやってきた。
その日もケーキ屋でアルバイトをしていた彼はまだパーティがお開きになっていなかったことに安堵しつつも、2つのケーキ箱を受け取ろうとする仲間に対して、
「ダメです。まだ仕上げが終わっていません。」
と突っぱねた。
スーパーで買った苺でも乗せるのだろうか、と思いながら台所に消えた彼を待っていると、突然部屋の電気が消えた。
停電かとざわめくリビングに、彼がオレンジ色に光る明かりを連れて戻ってきた。
彼の手には、21本のろうそくが立ったホールのショートケーキがあった。
「お前、びっくりさせるなよ。」
と言う仲間に対して、彼は当たり前のように、
「え?だって今日、美幸先輩の誕生日じゃないですか。」
と告げた。
お誕生日、おめでとうございます。と。
彼は真っ直ぐ、私の目の前にケーキを置いたのだ。
ケーキの真ん中には、トナカイとサンタクロースに挟まれて笑う女の子の砂糖菓子。
みんなが歌うバースデーソング。
ハッピーバースデートゥーユー、と歌が終わると同時にろうそくの明かりを消す。
再び明るくなった部屋に、彼がもう一つのケーキを持って戻ってきた。2つ目のケーキはブッシュドノエルで、こちらには柊とサンタクロースの砂糖菓子が飾られていた。
あの日、私は初めて私のためだけに用意されたケーキを食べた。
もったりとしつつも口溶けの良い生クリーム。ふんわりと卵の風味が残るスポンジケーキ。酸味の強い大ぶりの苺が甘いケーキとクリームで満たされた口をきゅっと引き締める。
彼が働くお店は駅中にあるチェーン店で、ミシュランに乗るようなクオリティではない。
けれど、今日彼が用意してくれたケーキは、私が今まで食べたショートケーキの中で一番美味しかった。
一体、彼はどんな気持ちでケーキを用意してくれたのだろう。
周りの人たちがクリスマスケーキを予約する中で、1人だけバースデーケーキを予約した時は何を思ったのだろう。このケーキを受け取った時、部屋まで運んでくれた時、最後の飾りつけをしてくれている時、ずっと私のことを考えてくれたのだろうか…。
彼のことは今まで「可愛い後輩」としか見ていなかった。でも、彼が私にサプライズを用意してくれたあの日から、私は彼のことを意識し始めた。
彼は今何をしているだろう。将来は何になりたいのだろう。どんな女性がタイプだろうか。それとももう彼女がいるのか…。
けれど、自分から行動を起こすことはできなかった。
初めて好きになった人に、自分の気持ちを打ち明けることが怖かったのだ。
変に思われたらどうしよう。今までの関係性が変わってしまったらどうしよう。興味本位で声をかけて変な空気になってしまうくらいなら、このままでいい。
そう考えているうちに年が明け、学年が変わり、就職活動が始まった。
就活に本腰を入れた私は1週間に1回しか大学に行かなくなった。サークルを引退して彼に会う機会もなくなり、たとえすれ違っても「お疲れ様」と挨拶を交わすだけの間柄になってしまった。同じサークルだった友人も口を開けばガクチカ、自己PRと、プライベートな話ができる雰囲気ではなかった。
激動の就活を乗り越えてなんとか内定を掴んだという時にはもう卒業間近で、次の生活に向けて頑張れという圧が私の背中を押し続け、留まることを許さなかった。
私の恋心はクリスマスパーティの思い出とともに心の奥底に封印されたのだった。
社会人になって3年目の夏、1通のはがきが届いた。
ミモザの花があしらわれたはがきには彼の名前と、彼と同じ苗字を名乗る女性の名前が書いてあった。
―昨年、婚約致しました。
2人とも派手な結婚式や披露宴は苦手ですので、写真のみでご報告させて頂きます。
先輩、お元気ですか。またいつか、みなさんとお会いしたいです。
メッセージの裏には、純白のタキシードに身を包んだ彼と真っ白なウェディングドレスを着た女性が写った写真が印刷されていた。彼らは手を取り合い、お互いの顔を見つめ合いながら幸せそうに微笑んでいる。
別段、彼らの姿を見て悲しいとも悔しいとも思わなかった。
チャペルの窓から差し込む日の光を浴びて、ともに未来を歩んでいこうとする彼らは幸せそのものであったし、心の底から祝福したいとさえ思った。
けれど、なぜかあの写真を見た時、あの日食べたショートケーキの味が、やけに鮮明に思い出されてしまったのだ。
店内に流れていたジングルベルがきよしこの夜に変わる。
夜の9時を過ぎているが、このカフェにはひっきりなしにカップルがやってきては去ってゆく。
ねぇ、この後どうする?さっきのイタリアン美味しかったね。駅前のイルミネーション見て帰ろうよ。今日は君の家に行きたいな。あ、さっき撮った写真まだSNSにあげてない。…
もし、あの日、あの時。
私が自分の気持ちを彼に伝えていれば、今ここで一緒にケーキを食べていたのだろうか。
彼と一緒にイルミネーションを見て、手をつないで、一緒に温かい家庭に帰る。
そんな未来もあったのだろうか。
私が歩んできた道が間違っていたとは思わない。
けれど、もしあの時勇気を出していたらと思わずにはいられない。
私は今日で30歳になる。女の結婚はクリスマスケーキなんて言われていた時代もあったけれど、そんなものはとうの昔に過ぎている。
いつか一緒に、バースデーケーキを食べてくれる人は現れるのだろうか。
恋人たちの明るい声が、ネオンの光とともに夜の闇に溶けてゆく。