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5.ドレスの評判

それからしばらくして、十枚を超えるドレスと、それぞれに合わせるアクセサリーや靴といった小物がカガル邸に届けられた。


贈り主は言わずもがなのライオットで、添えられたメッセージカードには、

『今後はこのドレスを着るように』

という命令文が記されていた。



大量のドレスはサリエラの衣裳部屋には収まり切らず、空き部屋に保管されることになった。


様子を見に来たルシアは思わず呆れ顔をしている。


「これをライオット様がご用意なさったの?」


この量にも呆れていたのだろうが、彼女が言いたかったのはおそらくデザインだろう。



一般的に、茶会では明るい色の清楚なイメージのドレスを、夜会には濃い色の、少し露出の高いデザインのドレスを着ることになっている。


しかし届けられたドレスは色こそ様々な種類があったものの、首元はどれも詰まっていて色気など皆無。

喪中の未亡人ですら、もう少し隙のあるドレスを選ぶに違いないと思えるくらい、きっちりと胸元のつまったデザインばかりであった。



「もうすぐ王家の夜会だけど、お姉様はどれを着ていかれるの?」


ルシアが心配そうな顔をしているが、それはサリエラも同じだ。


色の濃いものはたくさんあるが、詰まりすぎた首元ではどれも夜会にはふさわしくない。

しかし高位貴族であるライオットから着てこいと命じられたのだから、それに従わないわけにはいかない。


大量に吊るされたドレスの中から、一番上等そうな生地で仕立ててあるのであろう紺碧のドレスを指さした。


「これ、かしらね」


すっきりとデコルテがあいていれば人目を惹く素晴らしいデザインのドレスだったろうに。


残念になってしまったドレスを指差したサリエラに、残念な目を向けたルシアであった。






今回の王家主催の夜会は、王太子の婚約者を披露する為のものであった。


お相手は他国の第二王女、基本的に王族には同じ王族の娘がふさわしいとされている為、選ばれた女性であった。


彼女はこれからこの国の王宮に住み、一年をかけて文化やしきたりを含む王妃教育を受けていくことになっている。


今夜のパーティは彼女の社交の皮切りを意味していた。



華やかなパーティー会場だというのにサリエラの心はどうしても沈んでしまう。


婚約者の妹に心変わりした男と結婚しなければならない自分と、王妃という重圧を背負わされた彼女、いったいどちらが悲劇のヒロインなのだろうか。


愚にもつかない考えにおぼれそうになり、頭を振ってそれを打ち消した。



「どうかしたのか?」


サリエラが大仰に首をふったことで彼女をエスコートするライオットは怪訝な顔を見せている。


「いいえ、なにも」


サリエラは貴族令嬢らしく美しい笑顔でそれに応じ、ライオットはしばらく黙って見つめていたが、やがてその視線は外された。



ライオットから贈られたドレスは、着てみるとそれほどおかしなことはなかった。


確かにデコルテは見えないようになっているのだが、薄いオーガンジーになっており肌が透けて見える。


見えそうで見えない、それがかえって色気を漂わせ、サリエラのドレスは特に女性たちに好ましい装いとして注目を浴びた。



といっても、それはサリエラが女性専用の休憩室に入ったときにわかったことで、面識のない令嬢から声をかけられたのがきっかけだった。


「あの、失礼ですが、そのドレスはどちらで仕立てられましたの?」


いきなり話しかけられたことに驚いたサリエラではあったが、相手の令嬢に悪意は見えず、特に含みのない質問だと判断した。


「頂いたドレスなので工房はうかがっておりませんの。よろしければ確認してお知らせしましょうか?」


サリエラの申し出にその令嬢は、是非に、と鼻息も荒く返事をし、ふたりのやりとりを伺っていたであろう周囲の令嬢もそれに便乗した。


「わたくしにも教えていただけますと嬉しいわ」

「わたくしも」


サリエラは内心ではひどく驚いていたが未来の侯爵夫人として感情を表に出すことなく微笑んでみせた。


「かしこまりました。では後ほど、当家のメイドからみなさまにお伝えするようにしますわ」


中には仕立て屋を教えたがらない令嬢もいる中で、サリエラの寛大な対応に笑顔が広がっていく。


「とても素敵なデザインですわね」


「首元が詰まりすぎていて夜会にそぐわないのではと心配しているのですが、おかしくはありませんか?」


「見えそうでもきちんと見えないのがいいわ。胸元をじろじろと見られるのは嫌よ」


サリエラと会話をしている令嬢の言葉に、誰もが大きく頷く。


「娼婦ならそういう必要もあるのでしょうが、わたくしたちはそれほど見せなくてもいいと思うわ」

「きっちり隠すわけでもなく、かといって明け透けに見せもしない。程よいのよね」


それから令嬢たちのおしゃれ談義が始まった。


やはり同じ年齢の令嬢との話は楽しく、しかし、各自、パートナーを待たせている手前、あまり長居はできない。


「みなさま、おなごり惜しいですけれど、また」


令嬢たちとそう言いあって会場に戻ったサリエラはライオットを探したのだが、彼は苦も無く見つかった。



というのも、彼はルシアとダンスを踊っていたのだ。

お読みいただきありがとうございます

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