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25.事件の全貌

それから数日して、侯爵夫妻、ライオット、サリエラ、子爵夫妻の六人はユシベル本邸の一室に集まった。


見たこともないような像が置かれ、不気味な文様が彫り込まれた趣味の悪い壁の室内に、子爵夫妻もサリエラも居心地悪そうな顔をしているが仕方がない。


「ここは防音の呪術が施された部屋です、今から話す内容は外に漏れては困りますからな」


侯爵の言葉に子爵家の三人はそれぞれに複雑な表情を浮かべつつ、椅子に座った。


全員が席についたところで侯爵は口を開いた。


「ルシア嬢の供述をお伝えしましょう」


侯爵の目くばせを受け、騎士は報告書を読み上げたのだが、それを読んでいる騎士自身も含めて、居合わせた全員が困惑の表情を見せた。


「繰り返す人生に老婆の薬ですか」


どうにか言葉を絞り出したのはカガル子爵であったが、その一言も困惑という表現がぴったりの声色であった。


「ルシア嬢は教会で会った老婆から『愛を得られる薬』を受け取り、それを自ら飲んだと言っています。ライオットを想うが故の行動だった、と」


「教会に行ったことは本当です、ルシアが出かけるというのでメイドを付けましたからよく覚えています。でも老婆の話なんてわたしは聞いていません」


そう言ったのは子爵夫人だ、女主人である彼女は使用人のすべてを掌握する立場であり、使用人は彼女に報告する義務がある。

しかし、ルシアに付けたメイドは老婆の話を夫人にしなかった。となるとそのメイドもグルの可能性がある。


「教会という聖域の中では身分差はないものとされます。とは言え、面識のない者が貴族令嬢に話しかけること事態があり得ません。

我々も不思議に思い、失礼ながら同行したというメイドに話を聞かせていただきましたが、彼女は老婆など知らないと言いました」


「そのメイドが嘘をついている、ということはないのか?」


「侯爵様のご命令による聞き取りだと言っても、知らないの一点張りでした。

嘘をついているようには見えませんでしたし、本当に見ていないのでしょう」


「ではルシアが嘘をついているのでしょうか」


子爵夫人の疑問に応じたのは子爵だった。


「だいたい人生を繰り返しているなど、それ自体があり得ない話だ。ルシアはたぶんもう」


そこまで言って、彼は黙ってしまった。


『たぶんもう正気ではないのだろう』


子爵の飲み込んだ言葉に夫人は悲しげな溜息をつき、そんな夫人の手をサリエラはそっと握った。


全てがルシアの仕業であるのならひどいことをされたとは思うが、それでもサリエラにとってはたったひとりの妹だ。

妹が気狂いになったと聞かされて、諸手を挙げて喜ぶようなサリエラではない。


妻と娘の様子をしげしげと見つめ、しばらく瞑目していた子爵だったがやがてゆっくりと目を開けると宣言した。


「ルシアの処分はユシベル侯爵様にお任せいたします。

どんな事情があろうとも侯爵家を謀ったことは事実です、どのような沙汰を下されようとも、わたくし共は反論致しません」


そうして深く頭を下げた子爵に夫人は涙を浮かべながらも同じように頭を下げ、サリエラもそれに倣った。





その日のうちに子爵夫妻はカガル邸へと帰っていった。

サリエラも一緒に帰るつもりだったが、それはライオットに止められた。


「サリエラはここに残ってもらいたい」


「何故ですか?両親が帰るのですから、わたくしがこちらで厄介になる理由がはございません」


「ルシアがどうやってまじないを手に入れたのか、肝心なところはなにもわかっていない。

敵はまた、君を狙うかもしれない」


何度も人生をやり直しているだの、老婆から妙薬をもらっただの、たとえそれがルシアにとっての真実だとしても、侯爵家として信じるわけにはいかないのだろう。


彼らはルシアにまじないを授けた者がいると考えており、その者こそが彼らにとって捕らえるべき相手であり、打ち倒すべき敵なのだ。


その者が明確になっていないうちは、狙われたサリエラを自由にさせることはできないと言っている。


視線を落とし、黙ってしまったサリエラにライオットは言った。


「わたしが同行すれば会いに行ける、なるべく時間を作るから」


ライオットの申し出にサリエラは弾かれるように顔を上げて言った。


「いいえ、結構です。ライオット様はお忙しくされていますし、わたくしにも執務がございますから」


「遠慮しないで。執務ならわたしも手伝う」


「いけません、ユシベル夫人に知られたら叱られてしまいます」


「母上は怒らないと思うけど。

でも、そうだな。もしそうなったらわたしも一緒に叱られることにしよう」


サリエラの困惑した表情にライオットは微笑んだ。


「今度こそ君を守ると言った、だから母上の怒りからも守ってみせるよ」


それが冗談であるかのように彼は声を上げて笑ったが、サリエラは難しい顔をすることしかできなかった。

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