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24.ルシアの供述

騎士団はルシアを、サリエラが住んでいる王都の本邸ではなく、ユシベル領の、それもあまり人の住んでいない区画に建てられた屋敷に運んだ。


そこはまじないにかけられた者を収容する為の建物であり、頑丈な石の壁でできていた。その壁にも怪しげな文様がびっしりと書き込まれており、それらはまじないを跳ねのける力があるのだという。


大昔、まだユシベルがひとつの家門となる前の時代には争いごとも多く、この施設も利用されていたのだが、今は、ひと月に一度、管理人が掃除をする程度である。


埃っぽい建物に連れてこられたルシアはその直後から、騎士団による取り調べを受けていてそれは今も終わっていない。



ルシアの話す内容は荒唐無稽でとても信じられるものではなかったからだ。






「わたしはもう何度もこの人生を繰り返しているんです」


騎士団の詰問にルシアはありのままを告白することにした、侯爵をたばかった罪は重いが、隠し立てすることなく真実を打ち明ければ減刑をしてもらえるかもしれないと考えたのだ。


「でも、何度やりなおしてもライオット様はサリエラの夫になってしまう。わたしは彼をお慕いしています、結婚したかった、ただそれだけなんです」


ルシアは涙ながらにライオットへの愛を語っているが、聞かされている側の騎士たちは困惑するばかりだ。


「ライオット様にかけた呪術はどうやって学んだのですか?」

「呪術ってなんのことですか?」


ルシアの疑問に答えたのはライオットの従者だった。


「あなたと面会しているときのライオット様は明らかに異常でした、あなたがそう仕向けたからではないのですか?」


そう言われてルシアは老婆の薬を思い出した。


「教会で知らないお婆さんから薬をもらいました」

「それをライオット様に飲ませたのですか?」

「いいえ、わたしが飲みました。これを飲めば思い通りの愛が得られるって言われて」

「あなたは見知らぬひとから手渡された薬を口にしたのですか?」


騎士の呆れた口調にルシアは反論した。


「もう数えきれないほどやり直してるのよ?それなのにどうやってもライオット様の妻になることはできない。怪しい薬にすがるくらいしかわたしに残された道はなかったのよ」


そう言ってさめざめと泣き伏すルシアを前にして、取り調べをしている騎士たちは顔を見合わせるばかりだった。





一方の子爵夫妻はルシアとは引き離され、サリエラと同じく、本邸へと招かれた。


「わたくしはルシアと一緒にいます!」


ルシアをひしと抱きしめて放そうとしない夫人には母親としての顔がありありと浮かんでいたが、如何なる理由があろうとも騎士が主人の命令に背くことはないし、今のルシアは呪術を扱う危険人物だということになっている。


カガル夫人を彼女と一緒にいさせることは夫人の身の危険にもつながる。


「ルシア様おひとりだけを移送するよう侯爵様から命令を賜っております」


侯爵の下知であると言われたら幾分、正気をそがれている状態の夫人も反論することはしなかった。


ふたりは本邸の奥棟の一室へと留め置かれた。

そこはルシアを監禁している屋敷と同じように、まじないを受け付けない細工がされている。


最初のうちはルシアに会わせろとわめいていた夫妻だったが徐々におとなしくなり、ふた月が過ぎようかという頃に、突然、正常に戻った。



「あの、ここはどこでしょうか」


子爵は入ってきた給仕係に丁寧に質問し、彼女の身の安全のために一緒に入室した騎士はその様子に驚きながらも答えた。


「ここはユシベル侯爵様のお屋敷内です」


それを聞いた子爵夫妻は首をかしげながら、


「あの、何故わたくし共がユシベル様のお屋敷にいるのでしょうか」


と言った。


「ルシア嬢に同行するとおっしゃられたのでひとまずこちらに来て頂いたのですが」


「ルシアまでもがこちらでご厄介になっていると?それはいけません、すぐにでもお暇を」


慌てるカガル子爵に騎士は侯爵に伺いを立ててくるからと言って、彼らをその場に引き留めた。



戻ってきたときはライオットが一緒で、彼は正気に戻った二人を喜んだ。


「よかった、おふたりも目が覚めたのですね」


「ライオット様、いったい何が起こっているのでしょう。わたしも妻も、気が付いたらこちらにお邪魔していたという次第でして」


困惑する夫妻の様子にライオットは目を細めて喜んだのだった。




子爵夫妻のことはサリエラにもすぐに知らされた。


思いがけず長く滞在することになったサリエラは、教育の一環として実務を担当し始めていた。


そのときも与えられた部屋で執務をこなしていると、そこにライオットがやってきたのだ。


「サリエラ、子爵夫妻が元に戻ったらしい」


「それは本当ですか」


思わず立ち上がったサリエラは、インク瓶を倒しそうになったほど驚いている。


「騎士からふたりの様子が変わったと報告が来た。これからわたしが会ってくる」


「わたくしも参ります」


すかさず立候補するサリエラをライオットは止めた。


「いや、まずはわたしだけで会ってくる。

君を害そうと企んで、芝居をしている可能性もないとは言い切れない」


両親はそんなことをしないと言いたかったサリエラだったが、子爵の命令で無理やり馬車に詰め込まれて、ここに送られたことを思い出した。


言葉を飲み込んだサリエラの肩にライオットはそっと手を置き、


「わたしはもう二度と君を傷つけないと誓った、だからわかってほしい」


と言った。


サリエラは何度か、言いかけては口を閉じを繰り返してからやっと、


「お心遣いをありがとうございます」


と言ったのであった。




ライオットによって子爵夫妻に危険性がないことが確認されてから、サリエラもふたりに会うことを許された。


念のため、騎士とライオットがそれに立ち合い、場所も子爵夫妻が長く滞在していた、まじない防護機能のある殺風景な部屋での対面である。


「お父様、お母様」


サリエラは恐る恐るというように子爵夫妻に声を掛けた。


「サリエラ、無事だったのね」

「心配をかけてすまなかった」


穏やかな微笑みを浮かべる夫妻はサリエラの知っている両親そのものだ。


「いいえ、いいえ。お元気になられたのならそれだけで」


サリエラは溢れ出る涙にそれ以上の言葉を続けられなかったのだった。

お読みいただきありがとうございます

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