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18.ルシアの物語(ルシア目線)

始まりはいつもこの場面だ。


庭園でうずくまっている幼いルシアにライオットが手を差し伸べる。その手に触れた瞬間、ルシアはこれが繰り返す生であることを認識し、同時に恋に落ちるのだ。


いつかの再会を夢見て、その日のために立派な淑女になろうと勉強や社交に精を出す。

そしてようやく会えたその人は、姉の婚約者として目の前に現れる。



「初めまして」



彼はルシアとの出会いなどなにひとつ覚えていない。その美しい微笑はいつも彼女の心をズタズタに切り裂く。


彼の眼に映るルシアは婚約者の妹でしかなく、それ以上でもそれ以下でもない。



ユシベル侯爵夫人には優秀な女性が選ばれるのだからと必死で勉強をし、サリエラに勝るほどの成績を修めた人生もあった。


しかしそのときも、ルシアはライオットの妻にはなれなかった。


彼女に来たのは王太子からの縁談。


王太子妃に望まれるなど貴族女性にとってこれほどの誉はなく、侯爵位のライオットのことなど眼中になくなるかと思い承知したが、結果は惨敗だった。


王太子は正しい王族らしく自身の婚姻を義務としか考えておらず、ルシアを冷遇することはなかったものの、愛情を持つこともなかった。


ルシアも彼らと同じように考えることができればよかったのだろうが、どれだけ人生を重ねてもライオットへの思慕は薄れることはなく、ルシアはどの人生でも彼の愛を求め続けたのであった。




何度目の人生だったか、もう思い出せないほど繰り返す時の中で、ライオットとの再会の日を目前に控えたルシアは、教会へと出向くことにした。


「急にお祈りだなんて、どうかなさったんですか?」


馬車に同乗しているルシア専属の若いメイドはしきりと首をかしげているが、ルシアにしてみたらごく自然の流れだった。


ルシアはずっと疑問に思っていた、何故、自分だけが人生を繰り返しているのか。


最初のうちはライオットと結ばれさえすれば人生が終わると思っていた、しかし途中からそれも疑わしいと思い始めた。



この繰り返す生は永遠に終わらないのではないか



永遠の命を与えられたところでそれを楽しむほどの余裕もないルシアは、ついに神に祈ることにしたのだ。


「神様にお願いがあるのよ」


ルシアの言葉にメイドはくすりと笑って、

「まだまだ子供ですねぇ」

と言った。




聖堂の中はちらほらとひとがいるだけで、静かな空間であった。


「あなたは外で待っていて」


ルシアはメイドに命じるとひとりで聖堂の中に入っていった。


ひんやりとした空気の中、ルシアは祈りの場に跪き、必死で神に願った。


それが功を奏したのか、今までとは違う要素が生まれた。


「お嬢さんにこれをあげよう」


深くローブを被った人物がルシアの前にいた。


子爵位とはいえルシアはれっきとした貴族令嬢であり、その彼女に得体の知れない人物が近づくなど許されない行為だ。


「あなた、何者?」


ルシアの言葉にその人物はうっそりと笑った。


「神の使いとでも思ってくれればいいさ、そのほうが受け取りやすいだろう?」


「それは何なの?」


「思い通りの愛が得られる薬だよ。

それが例え嘘偽りの愛だとしても、あんたの望む姿をその男は見せてくれるだろうさ」


その言葉にルシアは息をのんだ。


ルシアの切望するライオットの愛がこれで手に入るというのか、いや、そんな旨い話があるわけがない。これはデタラメ、中身はなんでもないただの水だ。


「そんなものを貴族令嬢につかませるなんて、なにを企んでいるのかしら?」


「熱心に祈っているその姿が気の毒になっただけさ」


無作法にもルシアに近づいたその怪しげな人物は誰にとがめられるでもなく、悠々と聖堂から出ていった。


しばらく出入口をぼんやりと眺めているとメイドが顔をのぞかせた。


ルシアと目が合ったことで礼拝は終わったと思ったのだろう、彼女はスタスタとルシアの傍に歩いてきた。


「もうお屋敷に戻る時間ですよ」


見知らぬ老婆と話をしていたことをとがめられるかと身構えたルシアだったが、彼女はなにも言わなかった。


「わかったわ」


ルシアは、メイドからの追及がなかったことに安堵しつつ、小瓶を袖の中に隠すとそれを持ち帰ったのであった。




ある日の晩餐の席でサリエラは翌日、ライオットが訪問予定であることを告げた。


「くれぐれも粗相のないように」


カガル子爵の言葉に家令が頭を下げて承知をし、そのあとサリエラがルシアに言った。


「ルシアは明日も出掛けるの?」


ライオットと会いたくないルシアは、彼が来る日には必ずなんらかの集まりに参加することにしていた。


ライオットが決して振り向いてくれることはない。

彼は姉の婚約者としてこの屋敷を訪れ、ルシアには婚約者の妹に対する顔しか見せてくれない。


「えぇ、いつもいなくてごめんなさい」


「いいのよ、そうやって気軽に集まりに参加できるのも今のうちだけだもの。

楽しんできてね」


サリエラの言葉にカガル夫妻も賛同の笑みをこぼしている。


ルシアが方々に出かけている理由をこの人たちは、学園に入る前に社交の輪を広げておきたいからだと思っている。

本当は、ライオットに恋い焦がれた結果、彼に会いたくないからだと知ったらどんな顔をするのだろうか。


苦い想いを、ルシアは貴族令嬢らしく美しい笑みで隠した。

お読みいただきありがとうございます

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