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14.戻ったライオット(ライオット目線)

ライオットが目を覚ますとそこは見慣れた自室であった。カガル邸の茶会に出掛けたはずなのにいつの間に帰ってきたのか、まるで記憶がない。


「ライオット様、起きていらっしゃいますか?」


ノックの音に続いて従者の声がする。


「あぁ、今、起きたところだ」


ライオットの返事で従者は入室した。


「お加減はいかがですか?顔色はずいぶんと良くなられたようですが」


「カガル邸に行っていたはずだが、わたしは体調を崩したのだろうか?」


ライオットの言葉に従者は少し表情を曇らせたがすぐに明るい笑顔になり、


「旦那様と奥様が久しぶりに食事を共にとおっしゃられております、支度をしましょう」


と言って部屋のカーテンを開けてから、彼の衣類を用意するため、隣接するクローゼットルームへと入っていった。




身支度を終えたライオットがダイニングへ入ると侯爵とその夫人は食前酒を楽しんでいるところだった。


「遅くなりました」


ライオットの謝罪にふたりは笑顔を向ける。


「お先に始めさせてもらってるわ」

「珍しいシャンパンが手に入ったんでね、さっそく飲むことにした」


ライオットが席に着くとすぐに同じものが給仕され、それに夫人が乾杯の言葉を述べた。


「息子の生還に、乾杯」


侯爵もグラスをかかげて乾杯をし、ライオットは苦笑しながらもそれに続いた。


「大袈裟ですね、少し体調を崩しただけですよ」

「いや、脅威だよ」

「脅威?」

「そう、明確な脅威だ。

ユシベルは外敵からの攻撃を受けたのだ。対象はお前、仕掛けてきたのはルシア嬢だが単独犯ではないと考えている」


侯爵は極めて穏やかな口調でそう言っているが、それが冗談でないことはライオットにもすぐにわかった。


彼はグラスを置いて居住まいを正し、侯爵に言った。


「一体なにが起こったのか、教えていただけますか?」


「もちろん。だが、食事を楽しみながらにしよう」


大事な話をするときはお茶の給仕すら断るときもある侯爵にしては珍しい。


訝しげな顔をするライオットに夫人はくすりと笑い、


「お食事をしながらでないと話ができないのですって」


と言った。


侯爵はフンっと鼻を鳴らして、


「にわかには信じがたい話だ、酒でも飲まなねばやってられん」


と言い、給仕にメインを持ってくるように指示を出したのであった。





一部始終を聞いたライオットはひどく驚いた顔をしており、誰の目にもそれが演技には映らなかった。


「わたしは何ということをしてしまったのか」


項垂れるライオットに侯爵は質問をする。


「本当に覚えていないのか?」


「訪問したところまでは確かに覚えているのですが、いつの間にか帰りの馬車に乗っていて、まさかサリエラとの交流の時間、居眠りしていたとも言えず。

その上、従者にサリエラとの婚約破棄を勘繰られてしまい、それが外部に漏れては大事になりかねませんから、彼を叱責したのです」


その場に呼ばれた従者にライオットは念押しの問いかけをした。


「わたしはそれほどに酷い態度だったろうか」


「酷いと申しますか。ルシア様と非常に親密にされておられまして、誰が見ても誤解を招くような状況でした」


「サリエラは同席していたのか?」


「さすがに同席の場でルシア様と手を繋いだりはなさいませんでしたが」


従者の言葉にライオットは思わず声をあげた。


「わたしがルシア嬢の手を取ったというのか?」

「取ったと言いますか」


口ごもる従者に侯爵が言う。


「はっきり言ってやれ。仲良く手をつないで、そのうえ見つめあっていたと」


容赦のない物言いにライオットはついに頭を抱えた。


「そんな、あり得ない。わたしがルシア嬢と親密にするなど」


「そうかしら。なかなか可愛らしいお嬢さんじゃない」


夫人のからかうような言葉にライオットは反論する。


「やめてください、母上。

ルシア嬢はサリエラの妹、わたしにとってはそれ以上でもそれ以下でもありません」


その言葉に目を丸くした従者の顔を見てライオットは苦い顔をした。


「お前のその顔がすべてを物語ってるよ」


「し、失礼しました!」


従者は慌てて真面目な顔をして見せたがそれに侯爵夫妻は笑い、ライオットは項垂れた。


「言い訳のしようもありません、サリエラの妹だからと油断しました」


「全くだ、お前は次期当主。如何なる時も敵意に備えねばならんというのに」


それに夫人は首をかしげた。


「そうかしら、わたしはただの恋心だと思うけど」

「実の姉の婚約者を好きになったというのか?」

「恋というものは誰にも制御できませんわ」


夫人はそれが冗談であるかのように笑い、ふたりの男は顔を見合わせたのであった。

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