その8
1
文化人類学を専攻している女子大生の松下美桜は、梅雨時期の雨の中、通学路の途中に捨てられていた白猫を拾って以来、彼女を介して、妖怪やあやかし、物の怪や幽霊、怪異に魔といったこの世ならざるものと意思疎通ができるようになった。なぜならばプルウィアという名のその白猫は、老齢で人の言葉を話すことができるようになった化け猫だったのである。
美桜には、学部こそ異なるが同じ大学に通う乃々花という妹がいて。彼女自身がカイトと名付けた懐中時計をいつも持ち歩くようになって以来、姉と同様に、乃々花はカイトを介することでこの世ならざるものと意思疎通ができるようになった。
その時計は、造られてから一〇〇年余りの時を経ていて、江戸時代からずっと成仏できずにいた霊魂が宿って付喪神となっていたのである、
そのため、美桜や乃々花の元には直接、あるいは言伝の形で間接的にでも、彼らからの相談事や依頼が持ち込まれるようになり。そういう意味での“何でも屋”になっていった。
2
雷獣。落雷とともに現れ、人に害するといわれる日本の妖怪。その伝承は日本各地にあり、その姿でおおむね共通しているのは「体長約六〇センチ、前脚が二本、後ろ脚が四本、指はそれぞれ五本で大きな爪が生えていて、尻尾は二つに分かれている」というもの。また、「小動物やトウモロコシを食べる」、「鋭い爪を使って木を駆けあがる」といった特徴から、その正体はハクビシンで、後ろ脚が四本というのは何かの見間違いなのではないかという説が有力である。
「ふだんは地上にいるが、夕立が降って雷が鳴ると空へ駆けあがり、雷とともに落ちてくる」と伝えられているが、事実はそれと異なるらしい。ある日、美桜の元を訪れたハクビシンに似た動物は、プルウィアを介してあることを美桜に依頼した。それを聞いた美桜は耳を疑った。
「なんですって?」
『聞こえなかったか? 「空の上へ帰るのを手伝って欲しいのです」だそうだ』
ハクビシン(白鼻芯、白鼻心)は、ジャコウネコ科ハクビシン属に分類される食肉類で、タヌキやアライグマ、アナグマ、イタチに似ている。和名のその名の通り、額から鼻にかけて白い線があることが特徴である。普通のハクビシンは地上に住処があるが、依頼者のハクビシンに似た動物は「空の上に住処があるのです」のだそうだ。
このハクビシンに似た動物は体長が六〇センチほどと、ハクビシンよりも小柄。そのうち、尻尾は二〇センチ前後で、体毛は全身に渡って薄赤く黒味がかっている。そしてハクビシンと同じように、鼻から額にかけて白い線がある。
『「人間の皆さんが雷獣と言っているのはたぶん私たちのことです」と言っている』
「そうなの? あ、自己紹介が遅れたわね。アタシは、松下美桜。こっちの白猫はプルウィアって言うんだけど、あなたの名前は?」
美桜はプルウィアを介して雷獣に訊いた。
『「こちらこそ、自己紹介が遅れてすみません。私の名前はライカと言います」と言っている』
「そうなのね。でもライカ、空の上に帰るって、具体的にどうやって?」
『「夕立が降って雷が鳴れば、空の上に駆け上がって行くことができます」だそうだ』
「ならアタシを頼らなくても、夕立を待てばいいんじゃない?」
『「それはごもっともですが、私は地上に来たくて来たわけではなく誤って空から落ちてきたので、できるだけ早く住み処へ帰りたいのです。いつ降るか知れない自然な夕立を待ってはいられません。人間の技術力で、人工的に夕立を降らせることはできないでしょうか」と言っている』
「そういう事情なら、できるだけ早く住み処に帰りたい気持ちは分かるけど……でもそれは、やってみないと分からないわ」
『「やってみていただけるんですか?」』
「ええ。でも本当に、可能かどうか分からないから、もし無理だったらごめんなさい」
『「やってみていただけるというだけで有り難いです。また来ます。吉報を期待しています。それでは」』
そう言って、後ろ足で立って美桜に向かってお辞儀をして前脚を振ると、雷獣はどこへともなく去って行った。
3
雷獣が去ったあと、美桜はノートパソコンのディスプレイとにらめっこをするように、夕立について調べていた。そこへプルウィアがやってくる。
『首尾はどうだ?』
「んー、まだ夕立のメカニズムが分かったくらい。だけどひとつだけはっきりしたわ」
美桜は目をディスプレイから離さずにプルウィアの問いかけに答えた。
『夕立のメカニズム?』
「そう。まず、午前中から正午にかけて、太陽の光が地表面を熱する。すると、地表面近くの空気は徐々に温度が上昇する。これに伴って、空気中に蓄えられる水蒸気の量が増加するの」
『ふむ』
「このため、下層の、地表付近の大気には【温かく、湿潤な軽い空気】が存在することになる」
『ふむふむ』
「大気の温度は高度が上がるにつれて低くなっていくから、【温かく、湿潤な軽い空気】の上には【冷たく重い空気】が存在するの。その状態を、テレビの天気予報でよく聞く【大気が不安定になる】って言うんだけど。温かい軽い空気は上昇し 、冷たく重い空気は下降するのね?」
『ふむふむふむ』
「これによって上昇気流が生まれて、いま言ったように上空は地表に比べて温度が低いために、地表付近から上昇してきた温かく軽い空気は冷やされて、空気中の水蒸気が凝結し水の粒をつくり。そして雲を作る」
『なるほど』
「上昇気流の影響で雲は積乱雲となってより上へ上へと発達する。この時、雲の内部では水の粒同士が衝突をして次第に粒の大きさが大きくなり、重くもなる。で、大きくなった水の粒に対する重力の影響が上昇気流の効果より大きくなると次第に落下をはじめ、大雨となる。――これが、夕立のメカニズム。夏場に多いはずだわ」
『なるほどな。で、つまるところは?』
「お手上げよ。とてもじゃないけど、アタシ達だけじゃどうにもならない。実験のしようが無いわ」
美桜は、両手をキーボードから離して肩をすくめた。
『そうか……。人工的に降らせるのが無理ならば、夕立が起きやすい場所というのはないのか?』
「あー、どうかしら。でも、積乱雲が発生しやすい状況を考えればその答えが見えてきそうね。その線で調べてみるわね」
言うが早いか、美桜は両手を再びキーボードの上に置いた。
『うむ』
タイピングすること、十数秒。
「――分かったわ」
『早いな』
「例えば、水蒸気の多い川沿いとか、空気の対流が起こりにくい盆地とか。それと山沿い。物理的に上昇気流が発生しやすいから、積乱雲ができやすい。だから極端な話、夏場に、盆地で、山沿いで、さらに川沿いの地域であれば、局地的な夕立が起きても不思議はないかも」
『近郊で言えば、C盆地にあるC山地沿いで、A川水系の上流部とかか』
「そうね。それか、地表面が暖まりやすく上昇気流の発生しやすい都市部。コンクリートに囲まれて、ヒートアイランド(都市温暖化)になると、そこに局地的な積乱雲が発生して、夕立――となりやすそう」
『どっちの方が夕立発生の確率が高い?』
「どっちかしら。分からないけど、なるべく人目を避けたいからライカにはC山地の方を提案しましょう」
『やはりそうなるか』
そう言って、プルウィアは苦笑いした。
4
翌朝。美桜が外の空気を吸いに行こうと玄関のドアを開けると。居ても立ってもいられなかったのか、期待に目を輝かせているライカがいた。それを見た美桜は家の中に向かって叫んだ。
「プルウィアー、同時通訳お願いーっ」
プルウィアが来て同時通訳の準備ができると、美桜はまずライカに謝った。
「昨日は期待させるようなこと言っちゃったけどごめんなさい。いろいろと調べてみたけど、人工的に夕立を降らせることは難しいことが分かっちゃったの」
『「そうですか……」』
それを聞いたライカは目に見えて落胆した。
「その代わり、自然に夕立が起きやすい場所なら分かったわ」
『「本当ですかっ?」』
落ち込みから一転、ライカは弾かれたように顔を上げた。
「ええ。空気の対流が起こりにくい盆地の、物理的に上昇気流が発生しやすくて積乱雲ができやすい山沿いの、水蒸気の多い川沿いの地域。夏のいまの季節、そういうところが午前中から晴れていて、地上と上空の気温差があればあるほど、午後に夕立が起きる確率はかなり高いと思うわ。実際、ちょうど今朝の天気予報で、午前中晴れマークで午後から夕方にかけて天気が急変するっていう地域があったから、そこへ行ってみる?」
『「はい、ぜひっ」』
その目に期待の輝きを取り戻して、ライカは二つ返事で答えた。
午前中に、数枚のバスタオルと着替えとペット用のキャリーバッグを準備してからレンタカーを手配して。一三時過ぎに出発して、高速を使わず移動すること二時間四〇分ほど。一行は、S県S市から県内のC市へとやって来た。車内に体毛を残すわけにはいかないので、プルウィアとライカには、本来は一匹用なので多少狭いだろうが、一緒にキャリーバッグに入ってもらっていた。
「午前中はカンカン照りで、本当に夕立が降ってくるのか心配だったけど。行く先に積乱雲になりそうな雲があるわね」
美桜はそう言って、夕方までにはまだ時間があるからということで。事前調べで見つけた、ここの市の名物が売りだという飲食店に入り、そのボリュームに驚きながらもなんとか平らげて店を出ると。空は一面、雨雲に覆われていた。
「驚いた。お店に入る前とは打って変わって、空気が湿っていて今にも降って来そうな感じね。でもできればもう少し山沿いで河原の方へ行きたいんだけど、それまで持つかしら」
『時間的にはそろそろ夕刻だ、たぶん持ちそうにないな』
プルウィアがそう言った途端、ぽつりぽつりと雨粒が落ちてきた。
「大当たりね。仕方ない、この機を逃すわけにいかないから、ここで放すことにするわ」
美桜は車を路肩に寄せて停まらせてから、キャリーバッグを持って車から降りた。すると、それを待っていたかのようにバケツをひっくり返したような大雨が降ってきた。肝心のレインコートを持ってくるのを忘れていたことを今さら思い出して、大雨をまともに浴びた美桜はずぶ濡れになりながら、
「さあ、予定と違うけどここでお別れよ、ライカ。この後はどうするの?」
と言って、キャリーバッグを解放した。
『「はい。帰るにはうってつけの夕立です。有り難うございます。本当にお世話になりました」』
ライカはそう言うとバスケットから出てきて、後ろ足で立って美桜とプルウィアにお辞儀をすると。宙空に向かって跳躍した。
「『――嘘!』」
それを見て、美桜もプルウィアも目を疑った。雨の中、右上から左上へ、そこからまた右上へと、まるで目に見えないブロックから目に見えないブロックへと飛び移るようにして、ライカは何もないところを、しかし確かに空の上に向かって駆け上がって行った。それまでの間、何回か雷鳴は聞こえたが落雷はなかった。
誰かが彼女たちを監視でもしているのか、それともただの偶然か。美桜たちが車に戻ると雨はピタリと収まった。
「うわあ、まるで泳いで川を渡ってきたみたい。あなたもずぶ濡れね」
と言って、美桜は用意してきたバスタオルで自分より先にプルウィアの全身を拭いてやる。
「車のレンタル期間、明日にしておけばよかったわ。このまま返すわけにはいかないもの。延長利くかしら」
『この濡れ様だと、明日になっても乾いているかどうか分からんぞ?』
「その時はその時よ。それにしても、すごいものを見てしまったわね。まさか本当に宙空を駆け上がっていくとは思わなかったわ」
『そうだな。さすがに、これを誰にも言うわけにいかないのは残念ではないか?』
「乃々花には話すわよ? もし訊かれたら、だけどね」
『そうか』
「ええ。――とりあえず依頼はうまくいったけど、いつまでもこの格好のままでいたら風邪ひいちゃう。着替えたら、余ったバスタオルをシートカバー代わりにしてまっすぐウチに戻りましょう」
『それはいいが、来た時と同じようにくれぐれも安全運転でな』
「分かってるわよ。ペーパードライバーだって自覚はちゃんとあるから、無茶な運転はしないわ」
『そう願いたい』
5
同じころ。美桜が観た天気予報にはなかったが、別の天気予報によるとS市にも局地的に夕立が発生すると予想されていて。実際にその通りになり、こちらでは何度か落雷もあった。帰宅途中だった乃々花とその友人である一ノ瀬さやかはフード付きのレインコートを持っていたので濡れずには済んだ。しかしそこで二人とも、信じられない光景を目の当たりにした。
一匹の何らかの動物が落雷とともに空から落っこちてきたのである。乃々花が落下地点に駆け寄ってそれを受け止めると、それはハクビシンによく似ていた。見たところ、気を失っているらしかった。
それからすぐに、夕立は収まった。さやかも駆け寄って、二人して「何の動物だろう?」と首をひねって、乃々花がカイトにたずねると。カイトは「これは雷獣だな」と答えた。
「らいじゅう?」
とさやかが鸚鵡返しして、乃々花が、
「ということは、妖怪や物の怪の一種なの?」と問いかけた。
「左様、雷に獣と書いて雷獣という。今ではそうでは無いだろうが我らの時代には雷という現象そのものが怪異だったため、知名度が高く恐れられていた」
「そうなんだ。空から落っこちてきたということは、空の上にお家があるんだろうね。だったら、帰してあげなきゃ」
「そうだね。でも、どうやって?」
「んー、どうやってだろう……――ねえカイト、雷獣さんと話すことはできる?」
「我の記憶に間違いが無ければ、雷獣は人の言葉を聞き取ることも、話すこともできないはずだ。なので、我が通訳しよう」
「ありがとう。――もしもし、雷獣さん? 私の声が聞こえますか?」
「「ん……。ん? ここは? それに、あなた方は誰ですか?」」
乃々花の呼びかけで、雷獣は意識を取り戻した。立ち上がって辺りを見回して、乃々花たちに問う。
「良かった、気がついて。ここは地上だよ。私は、松下乃々花。こっちは一ノ瀬さやかで、この時計はカイトって言うの。あなたの名前は?」
「「僕は、フルグと言います。ここが地上ということは、雷と一緒に落ちてきてしまったようですね」」
「そうなの。それで、すぐにでも空の上に帰してあげたいんだけど、帰し方が分からなくて。あなた自身は帰り方、分かってる?」
「「そうでしたか。それは有り難うございます。帰り方は分かっていますが、すぐには無理だということも分かっています」」
「どういうこと?」
「「なぜそうなのかは僕にも分かりませんが、夕立が降って雷鳴が鳴らないと、無理なんです」」
「そうなんだ……うーん、それは困ったね」
「夕立って、そんな頻繁に降るものじゃないしね」
後ろ頭に手をやる乃々花と、頬杖をついて首を傾げるさやか。続いて乃々花が、
「とりあえず、私の家に来る? 次の夕立が降るまで」と言った。
「「有り難い申し出ですが……、よろしいのですか?」」
「うん。ここで出逢ったのも何かの縁、かもしれないしね」
と、乃々花は微笑んで言った。
「「有り難うございます。お言葉に甘えて、お世話になります。よろしくお願いします」」
フルグは後ろ足で立って、三度お辞儀をした。
「こちらこそ、よろしく」
そうして、期間限定ではあるが、乃々花の家には物の怪の家族がまた一人(?)増えた――のだが。フルグが乃々花の家族だった期間は、そう長くはなかった。
6
改めて夕立とは、にわか雨の一種であり、午後から夕方、夜にかけて降る雨のことを言う。午前中からの日射により地表面の空気が暖められて上昇気流を生じ、水蒸気の凝結によって積乱雲を形成して降雨をもたらすという過程を取る。上昇気流、上空と地表付近の大きな気温差、高温多湿の空気の三つの条件が揃うと、大気が不安定になり夕立の雲が発生する。
近年では、地表面が暖まりやすく上昇気流の発生しやすい都市部も、コンクリートに囲まれて、ヒートアイランド(都市温暖化)になると、そこに局地的な積乱雲が発生し、夕立となりやすい。
それらを調べ上げた乃々花たちは、都市部での夕立をフルグとの別れのシチュエーションに選んだ。
まず“今日のS市は、午前中は晴れますが、お昼から天気が急変し、午後から夕方にかけて、都市部などで局地的なにわか雨に見舞われるでしょう”との朝の天気予報を受けて、次に雨雲レーダーによる予測を参考にして夕立が降りそうな地域にあたりをつけて。続いてレンタカーを手配してその場所まで行って、車内で雨を待っていると。ぽつりぽつりと二、三滴、フロントガラスに雨粒が落ちてきたと思ったら次の瞬間、バケツどころか浴槽をひっくり返したような大雨が降ってきた。文字通りの土砂降りだった。それを見て、車内では、フルグとの別れのセレモニーが執り行われた。
「「皆さん、短い間でしたけど、大変お世話になりました。一日でも早く僕が空の上に帰れるようにいろいろと調べて下さって、本当にありがとうございます。この御恩は、一生忘れません」」
フルグは後ろ足で立って、深々と礼をした。
「元気でね」
「「はい、乃々花さんもお元気で」」
「雷に気をつけてね」
「「そうですね、気をつけます。さやかさんもお気をつけて」」
「達者でな」
「「#$%&%$#“+*」
「何て言ったの?」
乃々花が訊ねると、
「「カイトさんもお達者で」と言ってくれた」
それぞれとやり取りすると、スライドドアが開かれて。フルグは乃々花たちに背を向けて外へ向かって跳躍し、雨が降りしきる宙空を駆け昇るようにして、空の上へと帰って行った。それから二〇分ほど経過したころ、夕立は止んだ。
7
後日のこと。
「なんだ、じゃあ乃々花たちも、雷獣を空に帰してあげたのね」
フルグの一件を美桜に伝えようと乃々花が電話すると、思いがけない言葉が返ってきた。
「乃々花たちもってことは、お姉ちゃんたちも?」
「ええ、ライカっていう雷獣からの依頼でね、「空の上へ帰るのを手伝って欲しいのです」って言われて。夕立が降って雷鳴が鳴らないと帰れないって言うから、まず夕立のメカニズムを調べることから始めて、終いにはずぶ濡れになりながら何とか帰してあげて。ほんとに大変だったわ。乃々花たちもそうじゃなかった?」
「私たちはお別れの挨拶をレンタカーの車内でやって、外に出たのはフルグだけだったから、濡れずに済んだよ?」
「そうか、その手があったのね。今更だけど、アタシもそうすれば良かったわ」
「あははっ」
「なにー? 何がそんなにおかしいの?」
「いやあ、お姉ちゃんらしい失敗談だなあと思って」
「そう?」
「うん」
「まあ、ライカを空に帰してあげたい一心だったから、他の事が見えてなかったのよね、きっと」
「そうだね。実にお姉ちゃんらしい話」
「それは褒めてるの?」
「もちろん」
「気のせいか、そうは聞こえないわ」
「それこそ気のせいだよ」
「うーん。――まあいいわ。雷獣についてもそうだけど、夕立について調べるのは思いのほか楽しかったし。勉強になったわよね」
「うん、それは私もそう。調べてて楽しかった」
「だけど来年の夏は、雷獣が地上に落ちてこないことを願うわ」
「もし落ちてきたその時は、今度はみんなで空に帰してあげようよ、きっと楽しいよ?」
「どこまでもプラス思考ねー。実に乃々花らしい話」
「それは褒めてくれてるの?」
「もちろん」
「気のせいか、そうは聞こえないんだけど?」
「それこそ気のせいよ。それと、さっきのお返し」
「やり返された!」
「ふっふっふ。やられっぱなしのアタシじゃないのよ。それじゃ、またね」
「悔しいなー。でもうん、またねー」
そうして姉妹は、ほぼ同時に電話を切った。