その7
1
姉妹でともに女子大生である松下美桜と松下乃々花はそれぞれ、プルウィアという名の白猫や、カイトと名付けられた懐中時計を介して、妖怪やあやかし、化け物や幽霊、怪異や魔といったこの世ならざるものと意思疎通ができる。というのも、白猫は老齢で人の言葉を話すことができるようになった化け猫であり、懐中時計は造られてから百年ほどの時を経て、江戸時代からずっと成仏できずにいた霊魂が宿った付喪神だからだ。二人ともすっかり慣れてしまって、例えば目の前にお化けが出ようとも、例えば道端のカエルが喋っても、慌てず騒がず対処できる。というか、できてしまう。
そのため、美桜や乃々花の元には直接、あるいは言伝の形で間接的にでも、日々彼らからの相談事が持ち込まれるようになり。そういう意味での“何でも屋”になっていった。
2
幽霊とは。死んだ者が成仏できず姿を現したものあるいは、死者の霊が現れたものを指す概念であり。昔は、生者に何かを告知したり要求するために出現するとされていた。実際、美桜が何でも屋を始めた頃には、動物霊が、生前世話になった者や元の飼い主に何かしらのサインを送っていた。
しかし一般的には、次第に怨恨にもとづく復讐や執着のために出現していると考えられるようになり、「幽霊は凄惨なもの」という印象が強められていって、今日に至る。
美桜や乃々花の元にも、「加害者に復讐したいので手を貸して欲しい」だとか、「自分を殺した奴がどんな死に方をするか見届けるまでは死んでも死にきれない」という理由で成仏できずにいる浮遊霊が訪れることも決して少なくない。だが二人とも、そういった類の相談は受け付けないように半ば無視していた。
ある日、その日の分の受講を終えて帰宅した乃々花のアパートの前に、男性が待っていた。
「おかえりなさいませ、そしてお初にお目にかかります乃々花 嬢」
まるで主である令嬢を出迎える執事のように恭しく挨拶したのは、
「はい、初めまして……って誰?」
「自分は、妖狐のコ・ユンファと申します」
過去に二度ほど美桜の元を訪れたことのある、男子大学生姿のユンファであった。
「ああ、あなたがあのユンファさん。待たせてしまったみたいでごめんなさい。とりあえず、中に入って?」
乃々花が玄関のドアを開けて、ユンファに中に入るよう、促す。
「恐れ入ります、お邪魔します。しかし、〝あの〟とは、どの事でしょうか」
「お姉ちゃんから聞いた事だけど、聞かない方がいいと思うよ。きっとしばらく立ち直れないくらい、聞いた事を後悔するから」
「なら止めておきます」
「うん、それが賢明だと思う。――ところで、そんなユンファさんが私に何の用ですか?」
「姉御に悪い報せがありまして、その事で乃々花嬢に相談に伺った次第です」
乃々花は、ユンファが美桜のことを姉御と呼び、プルウィアのことを姐さんと呼んでいることは知っていた。
「そうなんだ。いまコーヒー用意するから、適当なとこに座って待ってて?」
「ありがとうございます。ですがお構いなく」
そう言いながら、リビングの座布団が敷かれたところに座った。
「そういう訳にはいかないよ。――はい、インスタントですがどうぞ。お砂糖とかミルクは要らなかった?」
「恐れ入ります。はい、ブラックで大丈夫です」
「そう?」
と言って、乃々花はユンファの向かいに座り、
「お姉ちゃんに悪い報せって、具体的には?」
「姉御が悪霊に狙われているのです」
「えぇっ?」
3
「正しくは、悪霊化した幽霊に狙われているのです」
「どうしてそんな事に?」
問う乃々花に、ユンファは「いただきます」とコーヒーをひと口すすってから答えた。
「言ってしまえば、逆恨みです。「俺の相談に乗ってくれなかった!」という」
「あぁ、ついに出てきたか、そういう幽霊が。アレでしょう? そのヒトの相談ってあの「自分を殺した奴に復讐したい」とか何とか」
「はい、まさしくその通りです。出るべくして出てきたと言いますか、むしろ、今まで出て来なかったのが不思議なくらいですね」
ユンファはそう言って、ふた口目をすする。
「わたしもそのテの相談は半ば無視してるから他人事じゃないんだよね。対処法ってあるの?」
乃々花に問われてユンファは、
「これは完全に、そっち方面に長けた知人からの受け売りですが」
と一言断りを入れてから、
「悪霊退散の、神社で祓ってもらったり、呪文やお札、御守りにパワーストーンと多様にありますが、いずれにしても大切なのは、それらのうちからその人に合った方法を選び取ることだそうです」
「悪霊吸引のお札とかは? 昔そんな漫画やアニメがあったような気がするけど」
「それは素人には扱いが難しいものらしいですから、止めておいたほうがいいと思います」
「そうなんだ。でもそういうものが、あるにはあるんだね」
「どうでしょう。それは知人も実物を見たことが無いそうですから、その辺はなんとも言い難いですね」
と言ってみ口目。カップの半分くらいまで飲む。
「そうかぁ……」
「そういう訳で、改めてここで相談なのですが」
「はいはい?」
「妹君から見て、どの方法が姉御に合っていると思いますか?」
「そうだなぁ……私から見ると、基本的に気の強い人だから呪文やお札も良いかもしれないけど、御守りやパワーストーンの方が合っているように思うかな。穢がれを浄化するクリスタルとか、誕生石であるアメジストとか、そういう石は元から好きだし、イミテーションじゃなくてれっきとした本物の天然石を持ってるくらいだからね」
「なるほど。では、呪文とパワーストーンの二本柱でいきますか」
「そうだね。本人が乗ってくれるかどうかは何とも言えないけど、提案するだけしてみよう」
4
カイトを連れた乃々花とユンファは、善は急げとばかりに、さっそく美桜の住むアパートにやって来た。だが、インターホンを押す直前になって手が止まる。
「待って。勢いで来ちゃったけど、帰って来てるかな」
「在宅確認の電話をしておけば良かったでしょうか」
「良いや。居なかったら、プルウィアに伝言頼んで日を改めよう」
「そうですね」
そう結論付けて、乃々花はインターホンを鳴らした。
『はい、松下です』
数秒後、応答したのは、プルウィアだった。
「あぁ、まだ帰宅してなかったー」
「残念でした」
『なんだ、乃々花と――男の方はユンファか? 珍しい組み合わせだな。二人そろって、美桜に何か用か?』
「ぜひ姉御の耳に入れておきたい件がありまして伺ったのですが、不在なようなのでまた日を改めます」
「私もそうするわ」
『そうか? 何か美桜に伝言でもあれば、聞いとくぞ?』
「そうでした。では今日から、クリスタルやオニキスのついたアクセサリがあればそれを身に着けて、可能な限り肌身離さないようにして下さい。とお伝え願えますか?」
「寝る時もねー」
『クリスタルやオニキス? なんだ、魔除けか?』
「まあ、似たようなものです。伝言、願います」
『ああ、分かった。せっかく来たのに、すまなかったな』
「いえ、事前にアポイントメントを取っていなかった自分たちが悪かったのです。次回はアポを取ってから伺います。ではまた、後日」
「またね、プルウィア。お姉ちゃんによろしく」
『ああ、またな』
二人して、乃々花の家へ戻る道すがら。
「やっぱり、勢いだけで来るもんじゃなかったね」
「そうですね」
お互いに苦笑する乃々花とユンファに向けて、カイトが声を上げた。
「お二方とも笑っておられるが、パワーストーンによる魔除けだけで良いのか? 事態は、急を要するのでは?」
「まだ、今のところは大丈夫です。姉御が悪霊に襲われるのは月が満ちるころですから。まだ、狙われている段階で、猶予があります」
「そうか、それならば良いのだが。要らぬ気をまわしたな。失礼した」
「いえ、そんなことはありません。むしろこちらの説明不足でした。失礼したのはこちらの方です。申し訳ありません、カイト殿」
そう言って、ユンファはカイトが収まっている乃々花の懐に向かって頭を下げた。
「でも満月まで、あと何日もないよ。こういう時に限って、すれ違いが続いたりするよね。大丈夫かな」
「大丈夫、と信じていましょう。今は」
不安そうな表情を浮かべる乃々花にユンファは、真っ青な空に浮かぶ、上弦を過ぎたいびつな白い月を見上げてそう言った。
翌日。乃々花が朝一番で電話をかけると、
「お早う、乃々花。あなたの方から電話なんて珍しいね。どうかした?」
もしかしたら繋がらないかもと思っていたが、無事、美桜に繋がった。
「ああっ、お姉ちゃん。良かった、連絡が取れて」
「大げさね、ほんとにどうしたの?」
「ユンファからの伝言はちゃんと聞いた?」
「ええ、プルウィアから聞いたわ。要するに魔除けをしておけっていうこと?」
「ええ。でもそれはまだ準備段階よ」
「どういうこと?」
「今日は空いてる時間ある?」
「ある……けど」
「そっちのアパートで会える?」
「午前中は受講があるから無理だけど、午後からなら――」
「なら詳しい話はその時にするよ。午後に、ユンファと一緒にそっちに行くから」
「ユンファと?」
「そう、分かった?」
「分かっ……たわ」
「じゃあその時に。ごめんね、こんな朝早く電話して」
「それはいいけど……ほんとに何? 近いうちにアタシに何かあるの?」
「それも含めて午後に全部話すよ、じゃあね?」
「うん、じゃあ……ね?」
そこで美桜との電話を切ると、乃々花は続いて、ユンファに電話をかけた。
「もしもし? ごめんね、こんな朝早く。今朝いまさっき、お姉ちゃんと連絡が取れたの。今日の午後からならウチにいるっていうから、お昼にこっちに来て、また一緒に行こう? ――うん、詳しい話はその時に、って言ってある。――うん、だから、遅れないで来てね? ――うん。じゃあまた後で」
その言葉を最後に、ユンファとの電話を切った。
5
そして、約束の時間。乃々花はユンファと一緒に、再び美桜の住むアパートに来ていた。ためらいなく、インターホンを鳴らす。
「はい、松下です」
応答したのは間違いなく、美桜の声だった。ホッとして、胸をなでおろす。そして、
「乃々花です。ユンファも一緒だよ」
「ご無沙汰しています、姉御」
「了解。じゃあ今、カギを開けるわね。ちょっと待ってて」
そうして三人は対面し、リビングに通された乃々花とユンファは、プルウィアとカイトも交えて事の次第を美桜にすべて話した。
「――なるほどね、そういうことだったの。相談者の幽霊が悪霊化して満月にアタシを、ね……」
美桜は、首には親指ほどの長さの水晶柱がついたチョーカーを着け、左腕にオニキスのブレスレットを着けていた。
「仮に悪霊に襲われた場合、命にかかわることはめったにありませんが、霊障にかかることが予想されます」
「霊障って?」
美桜の疑問に、ユンファが答える。
「霊によって原因不明の出来事や問題が引き寄せられる障りのことです。不幸や不運が続く、家族や人間関係の不和、精神面・体調不良が続く、ラップ音・金縛りなど、症状は多岐に渡ります」
「それは……イヤね」
「ええ、そうだと思います。ここからが対策になりますが、知人が言うには、自分たちのような、その道のプロでない者が悪霊を退散させる手段としては、不動明王真言を唱えるのが良いそうです」
「「ふどうみょうおうしんごん?」」
姉妹の疑問がハモった。
「日本に古くからある、様々なご利益がある真言のことです。真言とはサンスクリット語だと「マントラ」と呼ばれるもので、日本では「真実の言葉」とも言われています。その中でも不動明王真言は正しく唱えるだけでも七つのご利益と効果があり、その中の一つに悪霊退散があるのだそうです」
「そうなのね」
「はい。それと、悪霊が姉御に対してどれほどの怨念を有しているか計り知れないので、パワーストーンと併せて二重に身を守る意味で、魔法陣があった方が良いかもしれない、とも言っていました」
ここで乃々花が意見する。
「魔法陣による結界の中で真言を唱えるの? 洋の東西ごっちゃじゃない? 両方ともちゃんと効く?」
魔法陣とは、魔術で用いられる紋様や文字で構成された図あるいは、それによって区切られる空間のことだ。悪魔などから身を守る結界の効果がある他に、術者の魔力を増幅させたり封じたり、魔力の調節弁の働きをする。また種類によっては悪魔を呼び出すなど異界との扉としても作用するが、その場を清める時や邪気を払うときなどにも使われる。乃々花の疑問に、ユンファが答えた。
「魔法陣は西洋魔術で悪魔から身を守るために描かれた「魔法円」が基となっている、日本独自のものです。魔法陣の描き方や真言の唱え方に間違いが無ければ、それぞれちゃんと機能するはずです」
「そうなんだ。それは知らなかったよ」
「魔法陣を描く場所は?」
「外に描くわけにはいかないので、姉御のウチの、リビングと寝室を繋いでいる一室をそのスペースに使わせていただこうと考えています。悪霊に限ったことではありませんが基本的に霊的な存在は物理的な静物には干渉できませんから、壁や天井をすり抜けてやって来ますし、もし屋内で暴れても、部屋の中がめちゃくちゃになる心配はありません。ただその逆に、こちらからの物理的な攻撃は一切効果がありません」
「アパートの隣近所が巻き込まれたりしない?」
「一時的に、姉御のウチの部分をアパート全体から異空間に切り離しますから問題ありません」
「そんな事できるの?」
「はい。知人からそのやり方を聞いたのでそれは自分がやります」
「その知人さんっていったい何者なの?」
「それは企業秘密です。――最後に、不動明王真言は大咒・中咒・小咒と三種の形式(長さ)がありますが、心を穏やかにして合掌し、中咒を繰り返し唱えるのが良いと言われました。「ノウマク・サンマンダバザラダン・センダ・マカロシャダ・ソワタヤ・ウンタラタ・カンマン」と、少々長いですが覚えてしまえば唱え難いことはないと思います。最後の一回は最も力強く唱えて、それで悪霊を吹っ飛ばすつもりでいきましょう」
「了解。――こんなところかしらね」
「そうだね。あとは準備を整えて、満月を待とう」
「はい、それで良いと思います」
具体的な対策がまとまったところで、
『専門用語がたくさん出てきて、口出しする隙が全くなかったぞ』
「大丈夫ですプルウィア殿、我もそうでしたから」
完全に蚊帳の外だった約二名に向かって、ユンファがフォローに入った。
「お二方には後ほど、自分が解説いたします」
『「助かる」』
プルウィアとカイトがユンファによる解説を聞いている間。美桜と乃々花は別室でどこかへ電話をして、何かを手配していた。
6
旧暦一五日。満月当夜。松下美桜宅にて。
「あの。突っ込んじゃいけないのかもしれないですけど」
「なーにユンファ」
何故か、乃々花はご満悦だ。
『いや、これはむしろツッコミ待ちだろう』
「おお、よく分かったわねプルウィア」
美桜も同じく。
「そうですか。ならツッコミさせていただきますが。お二方とも、その格好は何のおつもりですか?」
「いや、こういうのって滅多にない機会だと思ってさ」
「形から入るのも大事でしょう?」
美桜と乃々花は、緋袴に白衣、足袋に草履、袴と同じ色の腰帯を身に着けていた。さらに中には、掛襟と肌襦袢に襦袢まで身に着ける徹底ぶりで、誰が見てもひと目で「巫女!」と分かる格好をしていた。どうやら先日手配していたのは、これだったらしい。ちなみカイトは、乃々花の白衣と腰帯の間に挟まれていた。
「退魔と言ったらコレでしょう。何か文句ある?」
大麻(おおぬさ、神道の祭祀においてお祓いに使う道具の一つ)を持って、誰にともなく挑戦的に訊ねる美桜。
「いいえ。それで悪霊退散の気持ちがより上がるのであれば、異論はありません。むしろ歓迎します。それより、すでに空間の切り離しは済んでいます。皆さん姉御のウチから出ないように気をつけて下さい。もし出てしまったら、異空間に取り残されてしまいますので。――さあ、そろそろ時間ですよ」
ユンファの言葉に、全員が身構える。それから間もなく、東の空から満月が昇ってきたのとほぼ同時に、どこからともなく美桜たちの目の前に悪霊が現れた。
悪霊は、想像していたより大きくて、どす黒い煙のかたまりのような状態で禍々(まがまが)しく。表面は、まるで目鼻口がくぼんだ、裏返したデスマスクのように見えた。
美桜のウチの中を縦横無尽に飛び交うが、魔法陣の中にいる美桜たちには触れることすらできない。結界に対してか、忌々(いまいま)しげに怨念に満ちた声を上げる。
《 ォオオオオオオオオオオオオッ! 》
そこでユンファが声を上げた。
「結界は利いているようですね。では、詠唱開始!」
「「「「『ノウマク サンマンダバザラダン センダ マカロシャダ ソワタヤ ウンタラタ カンマン、 ノウマクサンマンダバザラダン センダ マカロシャダ ソワタヤ ウンタラタ カンマン――』」」」」
ユンファの合図で、全員、目を閉じて手のひらを合掌し、心を穏やかにして中咒を繰り返し唱える。すると、悪霊が苦しみ始めた。
《 グ、オオォォオオォォオオオオー! 》
「「「「『――ノウマク サンマンダバザラダン センダ マカロシャダ ソワタヤ ウンタラタ カンマン、 ノウマク サンマンダバザラダン センダ マカロシャダ ソワタヤ ウンタラタ カンマン――』」」」」
繰り返される中咒にもがき苦しみながらも、魔法陣による結界に幾度となく阻まれても、悪霊は美桜たちに襲いかかるのをやめようとはしない。
《 ウォォオオオオオオオオオーーーーッ! 》
「「「「『――ノウマク サンマンダバザラダン センダ マカロシャダ ソワタヤ ウンタラタ カンマン、 ノウマク サンマンダバザラダン センダ マカロシャダ ソワタヤ ウンタラタ カンマン――』」」」」
《 オオオオオォォォォォォーー! 》
それでも、なおも中咒が繰り返されるたび、悪霊が美桜たちに襲いかかる勢いは次第に弱々しくなっていた。
《 ゥ、ォォォォォォォォォォーーーーッ 》
「「「「『――ノウマク サンマンダバザラダン センダ マカロシャダ ソワタヤ ウンタラタ カンマン、 ノウマク サンマンダバザラダン センダ マカロシャダ ソワタヤ ウンタラタ カンマン――』」」」」
そして、中咒を繰り返し唱えること、二五回目。
「「「「『――ノウマク・サンマンダバザラダン・センダ・マカロシャダ・ソワタヤ・ウンタラタ・カンマン!』」」」」
《 グ、ワアアアアアァァァァァーーーーー………… 》
最も力強く唱えた中咒の勢いそのままに、悪霊は真後ろに吹き飛ばされ。断末魔の叫びをあげてそのまま霧散した。
『どうなった?』
「見たところ、悪霊は霧散したようだが」
プルウィアの疑問に、カイトが答える。
「ということは?」
「やっ……たの?」
「どうやらそのようです」
姉妹の疑問には、ユンファが答えた。それを受けて、
「「「「『ぃやったーーーーーっ!』」」」」
全員で、悪霊退散の成功を喜んだ。
その後。
「では、空間を元に戻します」
ユンファは口の中で何かしら唱えると、
「これで元通りです」
と言ったが、皆、体感的には、何かがどうにかなったような感じはしなかった。
「本当に、空間が別々になっていたの?」
美桜が問いかけたが、
「はい。確かめてみますか?」
ユンファが嘘をついている様子はみられなかった。
「やめとくわ。まかり間違って異空間に取り残されたりしたら困るしね」
7
後日。美桜の元にまた幽霊から、
「俺を殺した奴に復讐したい。そのために、あんたの手を貸して欲しい」
という相談があった。先日の一件で幽霊が悪霊化することの厄介さや悪霊退散の大変さを知った美桜は、この手の相談に対して断ったり無視したりするのをやめて、
「残念だけど、それはアタシにはできないわ。でもあなたには、あなたを手にかけた奴の夢枕に立つとか、その人にとり憑くとかして、その人を精神的に追い込むことができる。むしろあなたにしかできない復讐方法よ。立場上、おすすめはできないけどその方向で検討してみて?」
と返すことにした。するとその幽霊は、
「なるほど精神的に、か……それは盲点だった。ありがとう、検討してみるよ」
と言って帰っていった。ただ、その時の彼の顔が、笑ってはいたが怖ろしくて。それが夢に出てきて安眠できない日々が何日か続いたのだった。