渇望
精神的な重圧が溜まればポメラニアン化するというその飲み薬を、地上で買っては飲み干した。
白龍と黒龍は、二匹で一匹の存在。
片方に異変が生じれば、不要の烙印を押される事は。仙界から追放される事は。
容易に想像できた。はずだった。
ただただ、あの方を傷つけない身体になりたかった。
ただただ、あの方を傷つけない思考を持ちたかった。
突発的と言っていい。
幼稚な行動だった。
仙界を守る。
あの方の強い信念を砕くつもりはなかったのだ。
本当に。
問いかけてくる声に、是と、確固たる声で返せは、しなかった。
望んでいたのではないか。
仙界の守り手という縛りから解放されたかったのではないか。
あの方を解放したかったのではないか。
仙界の守り手としてのあの方を守りたかった。
仙界の守り手ではないあの方を引きずり出したかった。
どちらも本当の心。
どちらも本当に。
『すまない。黒龍』
何故、あなたが謝るのですか。
謝るべきは、俺なのに。
ごめんなさい。
ごめんなさいっ。
黒龍に戻りたい。人化でもいい。
謝りたい。
莫迦な事をしてごめんなさいと謝りたい。
もう、こんな莫迦な事はしない。
あなたが望む、義弟に徹するから。
どうか。
どうか、そんな顔をしないで。
苦しそうな、悲しそうな、顔をしないで。
(2024.2.21)