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私、恋愛に向いてないみたい。

 騎士団の生活はとても充実したものだった。

 

 配属された第二部隊は全騎士団の中でも最初に戦地へ赴いたり、攻め入られたりした時はどの隊よりも前にでて指揮を取る事が多い。

 今の国王様はとても聡明な方だから、武力で物事を推し進める事は無いけれど、時々ちょっかいをかけてくる他国に睨みをきかせる為の"見せしめ"のような戦いに派遣されるのは私達第二部隊が多かった。


 賢王のおかけで父がアレな私でも実力に沿った部隊に所属出来るのは幸運な時代に生まれたといえる。一昔前なら騎士団の隊員は貴族への忖度丸出しな構成になっていて、私なんて試験を受ける事さえ叶わなかっただろう。


「おい、ロレッタ、考え事すんな」


 模造刀の柄で頭を小突かれる。しまった、今日の稽古の相手を失念していた。


「すみません」


 すぐに体を立て直し集中する。


 目の前の黒髪の男に一太刀入れる為、模造刀を繰り返し何度も振る。

 今日の稽古相手はシオン副隊長。副隊長とはいえ実力はとっくに隊長以上と言われていて、次の隊長になると言われている彼と組み稽古が出来るのは、私もそこそこ強くなってきたからだ。


「左脇、もう少し下げて」


「はい」


 カチンカチンと小気味良い音が続く。集中していないと隙を突かれてしまうし、同じ反撃ばかりではすぐに対応されてしまう。

 彼と掛かり稽古をしていると、頭も体もくたくたになってしまうけれど、終わった時の達成感は素晴らしい。


「降参です。ありがとうございました」


 今日はもうどこにも隙を見つけられず、こちらから負けの宣言をして頭を下げる。汗だくの自分とは対照的にシオン副隊長は息一つ上がっていない。


「相変わらず強過ぎます。もう少し手加減してください」


「手加減してくれる相手と戦っても上手くなんねぇよ。ロレッタも遠慮しなくていいからもっと強く打ってこい」


「本気でやり合って怪我したら大変じゃないですか…わ!」


 言い終わらないうちに、首の真横に模造刀がピタリとあてられる。気を抜いていたのもあるけれど、彼の動きは一つも見えなかった。


「そういうのは強い方が言うんだよ。あと左の足首痛めてるんだったら稽古前にちゃんと申告するように。帰ったら冷やしとけよ」


 模造刀で頭を軽くポンポンと叩かれる。それも見破られていた事に驚く。完敗だ。

 負けてしまったのに何だか嬉しいような気持ちになる相手、それがシオン副隊長だった。少々口は悪いが彼はとても良い上官になるだろう。


「ありがとうございます。足の事、すみませんでした」


「いいよ、こちらこそありがとう。怪我した状態で任務に就く事もあるから多少そういう練習もしていいけど…あんまり無理すんなよ」


「ありがとうございます」


 私はペコリと頭を下げて訓練所を後にした。




----------------------


「ロレッタ、大事な話があるって言ってたよね?」


 稽古が終わってから街の灯りが見えるレストランで、向かいに座る男が緊張した面持ちで私に告げる。


「ええ、だから今日は少しだけ良い格好で来たの」


 ふわりと微笑んだつもりだけど、相手にはどう映っているだろうか。

 目の前の彼とは付き合って一年になる。一年記念に良いお店にご飯の予定をしていたけれど、その時に大事な話があると言われていた。


 記念。お店。大事な話。妙齢の男女。

 もしかしなくても、これはアレじゃない?求婚とかそういう類の…。


 騎士団という職業柄、結婚なんてすっかり考える事が無かったけれど、隊員の中にはもちろん既婚者だっている。だから私が結婚したって全然おかしくない。レストランの照明は薄暗く、私はテーブルに置かれたキャンドルを見つめる。

 騎士団の仕事が忙しくてそんなに沢山の時間を過ごせた訳じゃないけれど、彼と居る時は精一杯尽くしてきたつもりだ。ちゃんと彼の好みを把握して、それに沿うように努力をしてきた。


 何て返事をしようかしら、返事も彼の記憶に残る方がいいよね、そんな事を考えながら彼の言葉を待つ。キャンドルの光がユラユラと揺れていて、私は伏し目がちにそれを見ながらその時を待った。


「…ロレッタ」


「なあに?」


「別れよう」


「は?」

 

「その、…君は何だか完璧過ぎ…」


「わかったわ。さようなら。ありがとう。幸せにね」


 最後まで聞かずにお金を置いて私は席を立つ。寂しそうな笑顔で去る事も忘れない。


 レストランを出て私はその場でうずくまりそうになった。悲しかったからじゃない。【またこのパターン】という絶望に苛まれたからだ。相手の好みになる努力をして、そうなった途端に振られてしまうのはどうしてなのか。


「というより…」


 私は彼を本当に好きだったんだろうか?今まで私の事を振って来た歴代の男達も、本当に私が好きだったんだろうか?

 考えても答えは出ないけれど、毎回振られてしまう理由はあるんだろうな、と、私は帰路につきながら肩を落とすのだった。


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