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ギャップに苦しむ、僕。

「…ん?あ、キミ、第三部隊のフレリアの弟君ね?良く似てるわぇー」


 僕の顔をマジマジと見ている目の前の人は、確かに声はロレッタさんだ。


 ロレッタさん、の、筈なんだけど。


 このボサボサの女の人は誰だろう?


 昨日マッジ隊長に頼まれ、初めてロレッタさんの宿舎に書簡を届けに来た僕は、少なからず浮かれていた。正直に言うと、普段とは違う彼女を見れるのか…なんて少しだけ思ってたりしていたのだ。

 整頓された合理的かつスタイリッシュな部屋で、紅茶でも飲んでいるに違いない、とウキウキしながら扉を叩いた僕は面食らう。

 あまりにも想像と違い過ぎる光景に出くわしたからだ。


 僕の知っているロレッタさんは、いつも髪の毛をきちんと纏め、騎士団の隊服をキリリと着こなす絵に描いたような麗人の…

「君も綺麗な金色の髪ねー!」


 そう言いながら僕の髪の毛をワシャワシャと撫でる。


「へ?あ、あの…近…」


 いつもの凛とした姿からは考えられないボサボサの頭とヨレヨレの服で、ロレッタさんは僕を撫でながら見つめる。とんでもなくだらし無い格好なのに不思議といい匂いがするのはどういう訳だ。


 硬直したまま部屋に目を向けると、想像を遥かに越える散らかり具合で僕は目を見開く。まるでここだけ狙って地震でも起きたみたいだ。

 僕の視線に気付いて「いつもはもうちょっと片付いてるんだけどね」とロレッタさんは軽く笑っているけど、笑い流せるレベルの散らかり方じゃない。



「あ、あの…僕これを届けに…。あと、この書類の判子を頂きたくて…」


 とりあえず頼まれ事を先に済ませよう。信じられないけれど目の前の女の人はロレッタさんで間違いないようだし。


「えー!判子ぉ?どこにあるかなー。ちょっと待ってね」


 書類に軽く目を通すと、すぐに判子が必要だと分かる頭の回転の速さは、やっぱりロレッタさんなのだ。

 後ろ姿からも普段の鍛錬が分かる美しい肉体を待つロレッタさんは、その体からフェロモンを垂れ流しつつ、けれど頭は爆発させたまま凄まじい量のゴミの中へ戻って行った。




「……あの…?」



 "ちょっと待ってね"から軽く10分。さすがに痺れを切らして声を掛けると、ゴミの中からまた「ちょっと待ってー!」と聞こえてくる。ガサガサと音が聞こえるから、どうやら一応は探しているらしい。


 諦めた僕は改めて部屋を見る。


 汚い。むちゃくちゃ汚い。物が溢れかっている。

 騎士団の寮は簡単な台所と風呂とトイレがあるシンプルな間取りだ。

 唯一部屋にある机の上には、何の作業も出来ない程に書物が高く積み上げられている。机に置ききれなくなった本は床へ。それもどんどん積み上げられていって、その上に服やら下着やら乱雑に置かれている。台所に目をやると、これまた凄まじい量のコップ。そして収納棚は空っぽだ。


「どれかの本に挟んじゃったのかもー。いつも寝る前に読書するのが日課なのよね」


 膨大な書物を順にパタパタさせながら、ロレッタさんは頭を掻く。

 日課の読書と判子を無くすのは全然イコールにならないと思うんだけど…。


「ズボラなんですか?もしかして?」


 思わず呟いた僕を見て、ロレッタさんはニカリと笑う。


「お・お・ら・か、と言って欲しいわね。んー…まだ見つけられそうにないから、探してから私がマッジ隊長の所へ持って行くわ。この書簡はサインじゃ駄目みたいだし。君、もう学校の時間でしょ?」


 僕の制服を見て登校の時間を気にしてくれているらしい。


「あ、いえ、僕、今日は自習をしに行くだけなので。……あの、良ければ探すのをお手伝いしましょうか?」


 請け負った仕事はちゃんと自分の手で届けたくて、僕は一応の提案をしてみる。まぁいくらなんでも女性の自室に男を招き入れるなんて馬鹿な事をロレッタさんはしないだ…

「ありがとう!お願い!」

 彼女は破顔して手を合わせる。


 するんだ。この人色々と大丈夫なんだろうか?僕一応男なんだけど。


 僕の返事を聞き終わらないうちに、ロレッタさんは再び本をバサバサと振り始めた。

 そして確認した本をポイッと奥の方に投げる。

 その一連の動きでここが汚部屋になっている理由が分かった。


「ロレッタさん、先に着替えてください。僕スペース作るので、未確認の書物と確認済みを分けて探しましょう。あ…あの、その、服とか、し…下着とかを先に片付けてもらえると…」


 そう告げるとロレッタさんは目を丸くして、またニカリと笑う。そしてうず高く積まれた本の上に乗っていた服を集めて僕にドサリと渡す。


「わ、だから下着とかはちゃんとご自分で…」


「いいわよ、別に減るモンじゃなし。悪いけど、それ端っこの方に置いといてー。よーし、さっさと見つけなくちゃね」


 先ほどのロレッタさんよりも僕は目を丸くして、いい匂いのする服の山を抱え呆然とするのだった。

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