僕の日誌
恋というのは馬鹿のする事だ。
僕は今日も朝から彼女の部屋の扉を叩く。何度言っても無防備な格好で出てくる彼女は、相変わらずだらしない。服は脱ぎっぱなしだし、髪の毛も大きく爆発していて、とてもあの騎士団隊員には思えない。
けれど、
僕を招き入れるために鍵を開け、二度寝のためにベッドに向かう彼女を後ろから抱きしめる。
「あー…どうしよう…。今日も僕は馬鹿みたいです、ロレッタさん」
半分寝ぼけた彼女が、腕の中でこちらに向き直し、頭を撫でてくれる。
「んー?どうしたの?ライリーはいつも素敵だよ?」
「ロレッタさんが僕を褒めてくれるだけで、ロレッタさんが眩しく見えるし僕の世界は輝いているんです。ほんとにどうしよう」
こんな睦言を囁くなんて、少し前の僕ならとても考えられないんだろうな。僕は彼女を抱きしめながらクスクスと笑ってしまう。
「何だか良く分からないけど、それはいい事なんじゃないの?」
まだ眠気の残る顔でそう言いながら笑う彼女の頬を優しく撫でていると、とても柔らかな幸せが僕の胸に広がってくる。
「そうですね。いい事です。馬鹿になるって最高です」
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いつもの時間に居間で姉のフレリアと幼馴染のマークスがゆったりとした時間を過ごしている。
「ねえマークス、最近ライリーが浮かれているの」
「みたいだな」
「すごい浮かれて、すごい仕事に打ち込んで、何だかいい顔になってきちゃって。姉としては少し寂しい気もするけど、弟の成長はやっぱり嬉しいものだから、複雑だわね」
「ほっとけほっとけ。あいつは真面目だから心配ねぇよ。いざとなったら、俺が話聞いてやる」
「えー!マークスばっかりズルいわ。私も一緒に弟の成長を楽しませて欲しいー!」
「男同士でしか出来ねぇ話もあるからな。……おいで、フレリア」
「頼むわよ?義兄様?」
そう言いながら、フレリアは優しくマークスに寄りかかる。
仲睦まじい姉夫婦は弟をいつも優しく見守り、互いを大事に想い合う、お手本みたいな最高の馬鹿ップルだ。
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腕の中のロレッタさんがモゾモゾと動き出す。
「あー名残惜しいけど、行かないと」
「はい。今日は新しい茶葉を持って来たので、すぐ淹れますね」
ロレッタさんは顔をペチペチと叩いて自分に気合いを入れている。
「嬉しい。さー今日も頑張れますように」
「怪我だけはしないように気をつけてくださいね。今日も素敵です、ロレッタさん」
「へへ…最近剣術の調子がいいの。何故か分かる?ライリーが人質に取られたと仮定して動くとね、不思議な事にめちゃくちゃ上手く動けるんだよね。隊長が言ってた意味がちょっと分かるもん」
「勝手に人質にしないでください。あと、僕といる時はあんまり隊長さんの話しないでくださいね。…妬きます」
「やだ……かわい…」
「どうしてそんな感想になるんですか」
「だって…」
「でもロレッタさんが楽しい感情になってくれているならヨシ、ですかね。さて、用意しましょうか」
「…なによー。だってしょうがないでしょ。思った事がそのまま言葉になったんだもの」
「そういう所も好きですよ、ロレッタさん」
「……私も好きだよ、ライリー」
僕たちはそうして何度も笑い合って抱き合って、今日も想い合う。
恋というのは馬鹿のする事で、それはとても幸せな事だ。
僕は今日もそれを実感しながら、愛しい人を何度も抱きしめるのだった。
読んでくださってありがとうございました。番外編も後日追加予定です。またお立ち寄りいただければ幸いです。