けじめをつける、僕。
頭が重い。泣いた後のような倦怠感が残ったまま目を覚ます。話し声は聞こえないし、もう何も聞きたくない。そう思って再び瞼を閉じようとした時だった。
「ライリー様?目が…覚めましたの?」
ひょっこり僕を覗き込んだのはリゼだった。どうしてこんな所に彼女が居るんだろう。
「リゼ….?どうして君が…?」
「ライリー。気分はどうだ?リゼ嬢を見たら元気が出るだろう?」
ニコニコと笑顔で登場したのは父さんだ。あぁ、父さんが呼んだのか…。父さんに悪気が無いと分かっていても、余裕の無い僕は一気にささくれ立った気分になる。
「ライリー様。わたくし、とても心配しました。ライリー様が目を覚まさなかったらどうしようって…」
目を潤ませながらリゼは首を傾げて僕を見る。卒業前にちゃんと断ったつもりだったけれど、彼女には通じていなかったみたいだ。
「…リゼ、心配してくれてありがとう」
頭が上手く回らない。心配している様子の彼女と、ニコニコした顔の父さんと、何だか現実味がなくて、僕は何をしているんだろう…。
こうやって好意を隠す事なく素直に来てくれる子に、望む気持ちを返してあげれなくて申し訳なく思う。
でも、ちゃんと伝えないと。そう思って僕は体を起こした。
「ライリー様!まだそんな動いては…」
僕の体を支えようと腕を伸ばす彼女をやんわりと制す。
「リゼ…」
「ライリー様…わたくし、ライリー様が…」
「ゴメンね、僕には大事に想う人がいるんだ」
「……」
「あ、お付き合いしているとかじゃなくて、僕が勝手に好きなだけなんだけどね。だから、彼女以外の人を求める事はないと思う」
「……」
「僕の理想とはかけ離れた人で、でも、とても愛おしい人なんだ」
「……」
「リゼは何も悪くないよ。もし気を持たせてしまう態度を僕が取っていたなら、それは本当にゴメン。だけど、君の気持ちには応えてあげられない」
「………知っています。ライリー様がわたくしに興味が無い事は」
ようやく口を開いた彼女は、真っ直ぐに僕を見て言った。
「初めてライリー様をお見かけした時、まるで本の中の王子様のようでした。人柄を知れば知るほど、わたくしの理想そのもので…」
そう言いながら彼女は大粒の涙を落とす。
「うん。ありがとう。でも、ゴメン」
僕は頭を下げる。
「…父さん。すみません。僕、自分のパートナーは自分で決めたいです。最初は家名を守る為に、それに見合う人なら政略結婚だっていいと…本当に思っていました。だけど…」
「ライリー」
「リゼは素晴らしい御令嬢です。本当に僕になんて勿体無いくらいに。でも、僕は…」
俯いた僕の肩をポンポンと父さんが優しく叩く。
「すまなかったね、ライリー。それにリゼも。君たちの意見も聞かずに、勝手に気持ちをたきつけてしまうような真似をしてしまったね」
父さんはリゼに頭を下げる。
「うちの息子を王子だと言ってくれてありがとう、リゼ。こいつが振られた時には思い切り笑ってやってくれ。本当に申し訳ない事をした」
グスグスと泣きながら、リゼはゆっくりと頷く。
「わたくし、ライリー様がわたくしの事を惜しくなって愛を囁きに来ても、きっと追い払いますわ。…今はまだ無理ですけれど、立派な淑女になって、ライリー様が後悔するくらい、素敵になります…から」
父さんに連れられて、リゼはそのまま部屋を後にした。
言葉にすると、気持ちがより明確になる。僕は起こした体をもう一度倒して、空に呟く。
「…会いたいです、ロレッタさん」
父さんに訊くと、第二部隊はもう次の場所へ発ったそうだ。
すぐに追いかけたい気持ちがあったけれど、僕はちゃんとするべき事をするんだ。ちゃんと彼女の横に並ぶに相応しい男になりたい。そう思いながら取り組んでいると、一ヶ月なんてあっという間だった。
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「だいぶ綺麗になりましたね」
水門を見下ろしながら、横にいるダンさんに声をかける。
「本当に。無事に終わって良かったよ。ここまでくればもう大丈夫だろう。しかし、ライリー、君、何だか吹っ切れた顔になったね」
ダンさんは笑顔をこちらに向ける。
「そうですか?気持ちの整理がついたせいかもしれません。僕、ダンさんには負けません」
「ん?何の対決宣言だよ?俺、君に何かしたかい?」
「いえ、僕が勝手に挑んでるんです。でも絶対に負けません。絶対に絶対に負けたくありません」
「お、おう。何か知らないけど頑張れ?…よ?」
「ありがとうございます!とりあえず、僕その前にちゃんと想いを告げてきます!対決はそこからです!」
「お、おう。何か良く分からないけど頑張ってこいよ」
「はい!ありがとうございます!いってきます!!」
水門の修繕と恋敵への宣戦布告を終えてから、僕は彼女のいる街へと向かった。