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ピンチな、僕。

「うわ、これは危ないね」


 崩れかかった水門を見ながら父さんに確認する。大きな水門は中心となる柱の半分が足元から腐っていて、水をかろうじて堰き止めている状態だ。


「ああ、雨が降る度にあの足元が水浸しになってしまってね。きちんと石で基礎を固めてから作り直そうと思ってるんだ…が」


 父さんは空を見上げて眉を寄せる。


「この時期には珍しく雨がずっと続いていて中々施工出来ないんだ。中途半端に取り壊すと、それこそ水が爆発したように下の村を襲ってしまう」


 困ったもんだと言いながら、父さんは村の人たちと図面を見て話をする。新しい水門の基礎が出来る所まで僕たちは滞在する予定で、兎にも角にも天気が回復しないと何も進めない。


「私たちが居る間に天気が回復すればいいんだがな…。この調子じゃ今日と明日は難しいかもしれないね。ああそうだ、ここの施工を受注してくれている責任者の紹介がまだだったな」


 父さんはそう言って図面を囲っている人達の方へ声を掛けた。


「ダン、ちょっといいかな?」


 村人の中から名前を呼ばれて黒い髪の男が振り返る。一人だけ仕立ての良い服を着ていて、それが彼が村人ではない事を示している。


「アリアストリ卿、どうされましたか?」


「ああ、私の息子を紹介するよ。ライリーというんだ。まだ卒業して間が無くてね、私の事業や仕事周りを覚えさせているところなんだ。ライリー、こちらはダン・フェラー男爵。お前と年齢は近いが大変優秀な方だよ」


 ダンと呼ばれる男は、白い歯を見せながら爽やかに笑う。


「初めまして、ライリー殿。今回修繕の責任者を務めますダン・フェラーと申します。この村の事や工事の事は何でも聞いてください。よろしくお願いいたしますね」


 差し出された手に僕はすぐ反応出来なかった。それに気付いて父さんが僕に握手を促す。


「あははは、うちの息子にそんな堅苦しい挨拶は無しで大丈夫だよ。敬語もなくて大丈夫だ。ライリーはまだ社会に出て日が浅いからね、色々と教えてやってくれ」


「そんな訳にはいきませんよ。アリアストリ卿の大事なご子息ですから。でも、お言葉に甘えて少し口調は崩させてもらうかもしれません。よろしく、ライリー殿」


「……ライリー?どうした?」


 父さんがいつまでも反応しない僕を怪訝な顔で見る。


「あ…いえ、失礼しました。ライリー・アリアストリです。よろしく…お願い…します」


 求められた握手を返すと、ではまた、と笑顔で言ってダンはすぐに輪の中心へ戻り村人に指示を出す。テキパキと動く様子に、彼が仕事の良く出来る男だというのが分かる。


 黒い髪に仕立ての良い服。僕が見た時よりも口調が硬いけれど、間違いない。彼は前に食堂でロレッタさんの話をしていた男だ。

 まさかこんな所で会うなんて、誰が想像出来ただろうか。


「ほんと、最悪なんだけど…」


 僕は大きなため息をつく。曇天は僕の心を表しているようだった。



 ----------------

「ライリー、横に座っても?」


 父さんが村の外れに他の仕事をしに行っている間、僕は一人で村の宿で昼食をとっていた。横に来たのはダンだ。


「….あ、どうぞ」


「はは、そんな堅苦しくしないでくれよ。君の方が爵位は上になるんだから」


「うちの場合そんなのただの飾りですから。爵位があっても僕何も出来ませんし、ダンさんの方がよっぽど…」


 そこまで言って、言葉が詰まる。ダンはこちらの様子などお構い無しに話を続ける。


「俺、前にライリー見た事ある気がするんだよね」


 ピクリとフォークを持つ僕の手が止まる。


「確か王室近くの食堂でさ、すごい可愛い子と食事してなかったかい?違ったかな?」


「……あ、そうですね。一度だけ…」


「ほら!やっぱり!!あの時君たち制服だっただろ?可愛いカップルが居ると思ったんだよなー!彼女は元気かい?」


 屈託の無い笑顔で彼は話を進める。


「あ…あの、彼女は別に…」


「何だよー!あんな可愛い子、絶対勿体ない。何となく彼女が君に惚れてる感じだったと思うんだけどなー」


「あ、いえ、僕は特に彼女には…」


 そこまで喋ると、ダンは片眉をクイッと上げて声をひそめる。


「ははーん、別に好きな女が居るんだろ?」


 カシャリ。僕は分かりやすくフォークを落とす。


「ははは、ビンゴか!あの子よりいい女が好きなんて、ライリーは結構な面食いだな」

 

 白い歯を見せてダンは僕の肩を小突く。僕が返事に困っていると、ダンはニヤニヤとしながら話を続けた。


「まぁ俺の経験上、あんまり"良過ぎる女"は、やめておいた方がいいぜ。つまんねぇから」


 良過ぎる女。確認せずともロレッタさんの事だと分かる。ああ本当に嫌な気分だ。でもそれを知ってるとは言えず、僕は適当に話を濁す事しか出来なかった。

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