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ライリー少年の初恋日誌  作者: あまがえる


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14/25

再び飼い主みたいな、僕。

 カチャリ。鍵のかかっていない扉を静かに開けて中に入る。


 相変わらず不用心過ぎて心配になるけれど、彼女曰く"危険な気配は寝ていてもすぐに分かるから大丈夫"なんだそう。

 だけど僕の気配は動物のソレに似ていて、分かりにくいといつも嘆いていた。つまり僕みたいなのが襲いかかってきたら防げないって事じゃないか。

普段はしっかり者の彼女の抜けてる一面に、僕は小さく息を吐く。


 数日前に片付けたから、まだ部屋は綺麗な方だ。例によって脱ぎ散らかした服は床に落ちていて、僕はそれを一枚一枚拾う。

 拾いながらベッドに目をやると、大きな布団の塊が規則正しく上下に動いている。

 机の上には書類が散らばっていて、目を通すと地図の上の方に色々と書き込みがしてある。そういえばまた北端の方まで行くって言ってたっけ。

 書類の横には晩酌した形跡があり、今日が非番で遅くまでここで書き物をしていた事が分かる。


 一通り片付けてから、台所でお湯を沸かす。一般的に伯爵家の人間が台所を使うなんて考えられないけれど、貧乏伯爵家の僕や姉さんは割と何でも自分で出来る方だと思う。

 小さなフライパンで持って来たバゲットを温めながら、僕はもう一度布団に目をやる。


 再び僕がこの部屋にやって来るようになって、最初は困り顔だったロレッタさんだったけれど、根気よく通い続けているうちに拒否するのが面倒くさくなったみたいだ。最初から気負った状態で会っていた訳じゃないから、特に緊張しなくてもいいみたいだし。


「…ん…んー…」


 パンの焼ける匂いで布団がゴソゴソと動き出す。ロレッタさんの方が僕よりよっぽど犬猫みたいだな…そう思いながらモソモソと動く布団を見つめる。


「ん……ん?」


 布団が大きく動く。


「ん…また…来てる…の?」


 ガバリと起き上がってロレッタさんがこちらを見て呟く。相変わらず芸術的な爆発をしている頭だ。


「おはようございます。まだ寝ていても大丈夫ですよ」


 僕は紅茶を淹れながら、バゲットにチーズとハーブを乗せる。


「………ライリー」


「分かってます。ご飯食べるのを見届けたら帰ります」


 ロレッタさんはしばらく考えた後に、それならいいけど…と言い椅子に腰掛ける。寝起きで考えるのが面倒くさくなったらしい。


 ロレッタさんはパンを頬張り、机の上の書類に目を通しながら声を掛ける。


「ねぇライリー。もう何回も言ってるけどさ、あなた時期伯爵様で家を立て直すのが目標なんでしょ?こんな所に通ってる場合じゃないんじゃない?…まぁ朝ごはんは相変わらず美味しくて幸せだけどねー」


 へへへ、と笑いながら紅茶を啜るロレッタさん。その間の抜けた笑顔を見れただけで今日は来て良かったと思ってしまう。


「ロレッタさん。僕、しばらく来ませんから、明日からちゃんと鍵閉めて寝て下さいね」


「へ?……あ、そう。ぜ、全然大丈夫!…よ」


「父さんと一緒に川沿いの村を見に行くんです。大雨で水害が良く出てしまう地域なので。一週間ほど滞在して水門の修繕して来ます」


 僕はそこまで言って言葉を止める。


「…寂しいと思いますけど、待っててくださいね」


 にこりと笑って続けると、少し間があってからロレッタさんの耳が染めたように赤くなる。


「…ッ!全然!全然よ!!まぁ、その、あ、あのッ…気をつけて…ねッ!」


 分かりやすく動揺している彼女を見ていると微笑ましくてニコニコしてしまう。


「ロレッタさん…第二騎士団が北の国境にまた行くと聞きました。治安が悪い場所だから、本当に気をつけてくださいね。それに…」


「それに?」


「野営の時はそんな格好でウロウロしないように」


 僕の視線に気付いたのか、ユルユルの部屋着を見て、ロレッタさんは自分で自分を抱きしめる。


「こ、こんな格好!任務中にする訳ないでしょ!」


 もう!と怒りながら言うロレッタさんに、ストールを掛けながら僕は訊ねる。


「僕の前でだけですか?そんな格好で過ごしているの」


「…ッ!そ、そうだよ!どうせだらしないって言うつもりなんでし…」


 彼女の言葉を遮って、僕はストール越しに彼女を軽く抱きしめる。


「ちょ…!ちょっと!」


「僕にだけ気を許してもらってるみたいで嬉しいです。でも本当に気をつけてくださいね」


 ゆっくり彼女を解放すると、紅い頬でロレッタさんはぶんぶん頷く。その様子はまるで小さい子みたいだ。


「大丈夫だから!私結構強いんだってば!」


「知ってます。だけどロレッタさんが危険な目に遭うかと思うと心配です」


「あのね、ライリー、騎士団で勤めるってそういう事なのよ?ちゃんと覚悟をもって任務に当たるから大丈夫」


「…僕がロレッタさんを護れるくらい強ければ、といつも思います。けどそれは難しいから…。僕は違う方法で強くなろうと思ってます」


「そ、そう、なの?まぁ大丈夫だよ。そもそも第二部隊強いし、今回はシオン隊長も同行するし…わ!」


 隊長の名前が出た瞬間に僕はもう一度ロレッタさんを引き寄せる。


「逆にロレッタさんがむちゃくちゃ強くて良かったです。他の人に任せなくていいですからね」


「ちょ…何言ってるの」


「僕、シオン隊長苦手です。唯一近くでロレッタさんを護れる人で、強くてかっこいいから。でも彼が居るとロレッタさんの安全が確保されているんだと思うと安心します。……この気持ちの矛盾は嫌になりますよ」


 ため息を吐きながら彼女を解放する。


 ロレッタさんは混乱しながら朝食の続きを摂る。また一週間後。部屋は散らかるんだろうな、そう思っていた僕が次彼女に会えるのがその一ヶ月も後になるとは思っていなかった。

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