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聞きたくない、僕。

「お前さぁ、なんでバーグラー副隊長と別れちまったの?」


 宿舎近くの食堂で知った名前が耳に入り手が止まる。王室付き学園生活、最後の一年は忙しく、終了課程の試験がとても難しい。僕は試験に向けて最近は夕方まで図書館で勉強をし、近くの食堂で食事をして、また図書館に戻る生活をしていた。


 モソモソとご飯を食べていると、ふいに彼女の名が聞こえたのはそんな時だ。


 横目でちらりと声の主を見る。背の高い、上質な服を着ている男性が二人。一人は黒髪でもう一人は鳶色の髪をしている。


「は…いつの話だよ。ロレッタが俺の女だったなんて、もう誰も信じてくれねぇって」


 黒髪の男がニヤニヤと笑いながらスープをすすり話を続ける。その顔は優越感に浸っていて、僕は言いようの無い不快感に襲われる。


「あいつ完璧過ぎなんだよなー。見た目はあの通りの美人だろ?女で初めての騎士団副隊長で優秀だろ?収入もあって人格者だろ?」


「だから何でそんなイイ女を振ったんだよ?」


 ガチャン。それを聞いて思わずフォークを落としてしまう。ロレッタさんが振られるなんて想像も出来なかったからだ。

 僕は慌ててフォークを拾い、男達の方へ目をやるが、彼らが気付く様子は無い。


「違うって。イイ女だから魅力的かって言うとなー。ロレッタはそんなんじゃなくて…完璧な女って何かつまんねぇんだよ。隙が無いっていうかさ。我が儘も言わねぇし、俺より前に出るような事もしない。部屋だっていつも綺麗だしさ」


 ガチャン。僕は再びフォークを落とす。二度目の音に男達はこちらを見るが、僕はペコリと頭を下げてまたフォークを拾う。


 彼らの話に出て来るロレッタさんは、僕が昔想像していた彼女みたいだ。

 実際は想像と随分と違ったけれど。



 彼女の家に行けなくなってから、僕は今の自分に出来る事をがむしゃらに取り組む事にした。家の立て直し、勉学、鍛錬だ。

 最近は父さんに付いて領地を回る事も始めている。アリアストリ領の生活環境を整えないといけない地区や村を知るために。

 少しずつ体を鍛える事も始めたのも、有事にすぐ戦力として動きたいと思ったからだ。


 それと。


「ライリー様?具合が悪いのですか?」


 目の前の小柄な令嬢が僕を覗き込む。同時に僕はこちらの問題にも頭を抱えていた。

 彼女はリゼ。同じ学園に通う侯爵家の令嬢で、僕の父さんと彼女の父親は旧知の友だ。

 どうやら彼女は僕に好意を持っているらしい。

 そしてそれを知った二人が、あわよくばを狙い、彼女と"お友達"としてお付き合いするように言われたのだ。

 

 父親達は勝手に僕の予定や居場所を彼女に流し、素直な彼女は僕の周りを雛鳥のようについて回る。


「大丈夫だよ。リゼはあまりこういう所に来た事がないでしょ?無理せず帰って大丈夫からね」


「わ、私はライリー様と少しでも一緒に居たいのです。確かに、ここは何だか物騒な感じですけれど…」


 黒目をキラキラとこちらに向けて、リゼは僕に微笑む。


「でも、ライリー様が守ってくださるでしょ?」


 うふふ、と鈴が鳴るように笑うリゼを見て、僕は上手に突き放す事の難しさを知る。相手は侯爵令嬢だし、そもそも悪い子じゃないから無下にもできない。


 彼女は慣れない様子で目の前のスープとパンを食べる。小指の先程度にちぎったパンを小さなパンを食べる彼女を見ると、頬をリスのように膨らませてパンを口に放り込んでいたロレッタさんを思い出して軽く笑ってしまう。



「まぁあいつ、ベッドでも何も文句言わなかったし、いい身体だったから、そこだけが勿体ねぇわ。もう一度ソレだけお願いした…」


 ガタン


 大きな音を立てて立ち上がる。


「ライリー様…?」


「リゼ、帰ろう。送るよ。あまり遅くなって侯爵様が心配されるといけないからね」


 まだ食事も終わっていないリゼを半ば無理やり立たせて、僕達は食堂を後にする。胃がムカムカとして気分が悪い。

 ロレッタさんの事をちゃんと知りもしないで、理想を押し付けて、それに…それに…。


 考えながら歩いていると、リゼが急に立ち止まる。


「あ、ゴメン。歩くの早かったかい?もう少しで辻馬車の乗り場があるから…」


「ライリー様」


 茶色の髪の毛を揺らして、リゼが僕の服の袖を引っ張る。


「ん?」


「ライリー様、私達、試験が終わったらすぐに卒業ですわ」


「そうだね。一年早かったなぁ…」


「爵位のある家の生徒はその前に婚約者を見つける人が多いのはご存じでしょう?」


「……そうだね」


「ライリー様は、その…誰か…」


「誰も決めてないよ」


 リゼの顔がパッと綻ぶ。


「でしたら…あの、わたくし…」


「リゼ、僕は誰にも決める気がないんだ。まだまだ未熟者だからね」


「大丈夫です!わ、わたくし、ライリー様を支えますわ。ですから…」


 そこまで言ってリゼは俯く。


 僕は彼女の肩をポンポンと叩き、声をかける。


「ありがとう。でも僕、きっと理想が高いんだ」


「だったら!私、ちゃんと理想を目指しますわ!」


 頬を真っ赤に染めて宣言をするリゼに言う。


「リゼ。君のような素敵な人に好意を持たれるのはとても光栄だよ。でも君は決して僕の思う理想の人にはなれない。だから…ゴメン。本当に申し訳ない」


 そのまま僕は頭を下げる。


 彼女はそれに返事をせずに馬車乗り場へと走って行った。

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