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ライリー少年の初恋日誌  作者: あまがえる


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12/25

私、成長に追いつけません。

「ちょ…ちょっと待って。今日はたまたま…」


 私が言い終わらないうちに、ライリーはするりと部屋の中へ入り、床に散らばった服を拾い集める。


「ちょ…ちょっと…」


 前に部屋に来ていた時は、律儀に私の許可を得てから中に入っていたのに。


「僕が入るところ見られたら、変な噂が出ちゃうでしょ?ロレッタさん」


 私の戸惑いを感じたのか、ライリーは分かるような分からないような説明をする。


 一年ぶりに見るライリーはずいぶんと背が高くなっていた。前は私と同じくらいだったのに。私が見ている事に気付いたのか、彼は視線だけをこちらに向けてふわりと笑う。


「見惚れましたか?」


「……ッ!全然!大きくなったなーって見てただけだよ」


 ちょっと軽口が達者になっていて思わず赤面する。少年の一年って大きい。なんだかピヨピヨ感が抜けてしまっていて。


「ロレッタさんは相変わらず……みたいですね」


 部屋を一通り見てまたふわりと笑い、ライリーはテキパキと片付けを進める。


「ちょ…だから!ここに来…」


「学校はキチンと卒業しましたよ?」


「そういう事じゃなくて。むしろ学生じゃなくなったら、…それはそれでややこしいってば」


「中途半端な大人だからですか?」


「いや…そういうんじゃないけど…」


「じゃあ何ですか。僕はロレッタさんが心配で見に来ただけです。もう誰に文句を言われるでもない身になったので、今度からちょくちょく顔出します。父さんについて仕事をするようになったので、毎日は難しいですけどね」


「だ、大丈夫だって。ちょっとだらしないかもしれないけど、私もう立派な大人だよ?それに…」


「…誰か他にロレッタさんの世話をしに来てるんですか?」


 少し強張った声でライリーが訊ねる。


「いや、そんな人いないけど」


 ふわり、彼の空気が緩む。


「じゃあ問題ありません。僕は最初に決めた事は最後までするって決めているので」


「ちょっと…何を決めたのか知らないけど、勝手に話を進めないでってば」


 片付ける手を止めて、ライリーがこちらをまっすぐ見る。


「僕はアリアストリの名を継ぐ為、自分なりに精進しました。学校で学ぶ事はとても多かったですし、学生生活最後の一年は家名を残す為に色々と動いたりもしないといけませんでしたから」


「あ…うん?」


「落ちぶれていてもアリアストリは伯爵家です。僕には卒業前から婚約の話がたくさん来ましたよ。最後の一年で婚約者を決める伯爵家は多いので」


 ライリーが急に始めた話に私は全然ついていけない。


「父さんの顔を立てる必要もあって、僕は何人かの令嬢と実際にお会いしました」


「そう…家同士の繋がりは大事だものね。なおさらそんな御身の貴方がこんな所に来ちゃ駄目じゃない」


 私の言葉を無視してライリーは続ける。


「皆さん素晴らしい方々でした。お淑やかで、一歩下がって僕…伯爵家を支える気持ちのある人ばかりで」


「……だから、貴方はそういう人と…」


「でも」


 ライリーは体をこちらに向ける。


「誰も僕の焼いたパンを頬張ってくれません。彼女達の食事は慎ましく会話をしながら静かに摂るもののようです」


 黙っているとライリーは更に続ける。


「まして僕を顎で使うような暴れん坊もいませんし、羽交い締めにして笑うような人もいません。そんな馬鹿みたいに無防備な格好で男の前に出て来る人もね」


 そういいながらライリーは上掛けを私の肩に掛ける。


「それなのに…」


 少し詰まらせてから彼は続ける。


「外に出ると別人のように凛々しく格好良くなる女性も、いませんでしたよ、ロレッタさん」


 ライリーはまっすぐこちらを見て続ける。


「僕はずっと伯爵家の為の良きパートナーを求めていました。それはきっとお会いした令嬢達がそうなんだと思います」


 ふわり、また彼は笑う。


「私生活のロレッタさんは、だらしなくて、面倒くさがり屋で、僕が勝手に作り上げた理想とは全然違う人でした」


「だから…私そんな理想とか…」


「僕の理想と違って、全然完璧じゃない、だけど素敵な人です」


「ライリー…」


「僕は絶対に自分の理想の人と人生を共にしたいと思っていました。だけど惹かれてしまうのは理想とはだいぶ遠い人、ロレッタさんなんです」


「………」


「だから、どうして惹かれるのか、その理由が分かるまでロレッタさんに会いに来ます。普通に色々と心配ですし。今の所、僕以外は世話をしに来る人もいないみたいですからね」


「………駄目だよ…」


 "完璧じゃない"部分を認めてもらえたみたいで、正直とても嬉しかったけれど、やっぱり彼は未来のある若者だ。雛鳥が最初に動いたものに惹かれるように、たまたま私みたいなタイプが周りに居なくて珍しかったのだろう。


「大丈夫です。僕、一人で伯爵家を動かせるくらい頑張ります。だから、ロレッタさんも僕の事を知ってくれたら嬉しいです」


 私の様子を見てライリーは笑いながら言った。

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