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未熟者の、僕。

 決して突き放した訳じゃないと分かっていても、急に線を引かれたように、会いに来てはいけないと言われた。

 

 それは僕を守る為。わかっている。わかっている…けど。

 確かに扉の向こうの間者の気配にも気付けなかったし、実際に襲われてもまるで対応出来なかった。

 女性であるロレッタさんの拘束さえ上手く解けないのだ。僕が彼女より上手く出来るのは、呑気にパンを温めるくらい。


 だけど、いつもは凛々しいロレッタさんの私生活をコッソリ知った気になって、お小言を言いながら彼女と過ごす時間を楽しんでいた。


 もう来ない。そうは言ったけど。

 あんな暴漢がやって来るなんて大丈夫なんだろうか。たまたま小さな刃物だったから良かったけれど、複数人が武器を持って来たらどうするんだろう。僕が怪我をしてしまったから、彼女は沢山の人に怒られてしまうんじゃないか。朝ごはんだってまた飲み物しか摂らなくなってしまうんじゃないか。


 色んな事が頭をグルグルと回る。だけど、行かないと言った手前、彼女の部屋の扉を叩く事は出来なかった。



 ---------------------

 今日もマッジ隊長への書簡を届けに騎士団宿舎から城へ向かう。

 ロレッタさんの部屋に行く事はなくなったけれど、毎日は変わらない。

 変わったのは、宿舎の近くを通る時に緊張するようになったくらいだ。訓練所の横道を通る道をやんわりと変えたのも、似たような理由だと思う。


 トボトボと歩いていると、向こうから騎士服を着た小柄な黒髪の男性が颯爽と歩いて来る。いつもロレッタさんと掛かり稽古をしている黒髪の隊長さんだ。

 やだな、あの人何だか苦手なんだよな。そう思いながら背筋の伸びた隊長さんを見ていると、輪舞のような二人の稽古を思い出す。二人とも揃いの黒髪で、整った顔立ちで、素人目にもわかる強さだ。


 二人は真剣だったし楽しそうだったし、何だかとてもお似合いだった。僕には分らない阿吽の呼吸みたいなものもあったし。

 この人のような能力があれば、ロレッタさんは僕を突き放したりしなかったのだろうか。


 そんな事を考えてると、何だか心がジクジクしてくる。


「あ、ヒヨコ」


 急に隊長さんが僕に声を掛ける。ヒヨコ?


「あ、悪ぃ。変な意味じゃねぇよ。前にロレッタの所に来た暴漢の親玉、捕まったからな。一応教えておくよ」


「ロレッタさん…は…もう襲われたりしませんか?」


「あの手合いの人間を完全に無くすのは無理だよ。騎士団に逆恨みを持った人間は常にいるからな。まぁロレッタはあの程度の相手じゃやられねぇから心配すんな」


「…ッでも!刃物持ってました!」


「大丈夫だって。あいつちょっとした男よりよっぽど強いぞ?」


「……でも!あんな…ッ」


 "無防備な格好で"と、言いかけてやめる。ロレッタさんの普段の様子を誰かに言うのが何故か嫌だったからだ。


 隊長さんは、ふ、と軽く笑って僕の頭をワシャワシャと撫でる。


「まぁ他人の心配すんのは自分で自分の身を守れるようになってからだな。お前今のままじゃ同じような事になってあいつに距離取られるだけだぞ?」


 この人、僕が1番気にしている事を言う。


「そもそも騎士団と一般人なんて鍛え方が違うから。ロレッタより弱い事なんて気にすんなよ。あいつが強過ぎるんだ」


 そうかもしれない。そもそもの鍛え方も、経験も、年齢だってロレッタさんは僕より上で、僕はちょっと彼女を知った気になったまだ学生のヒヨッコだ。


 黙ったままの僕を見て、隊長さんはため息をつく。


「守り方なんて人それぞれだぞ?そんなにロレッタが心配なら、お前なりのやり方で守れるようになってこい」


 じゃーな、と言いながら隊長さんは去って行った。


 僕なりのやり方。そんなのあるんだろうか。この気持ちを上手く表せないけれど、お小言を聞きながら美味しそうにパンを頬張るロレッタさんが見たい。

 唇を噛んで顔を上げる。


 僕の守り方。出来るだろうか。

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