毒の沼
「斬撃剣!」
もう、草木を刈るのがバカバカしくなったので、マルクに任せることにした。
マルクは魔力も消費しないし、省エネだ。
道を作ってもらっては進む。
小さい敵ぐらいは一掃してくれるので、楽だ。
ニコラくんはできた道の地面をいちいち固めていく。
帰りに迷子にならないようにしているんだって。
ヘンゼルとグレーテルみたい。
マルクとニコラくんがいれば、未開地の開拓とか、すぐにできそう。
「リザードが出たということは、水場か湿地帯があると思うんですけどね」
「川か池があるといいよねえ」
ニコラくんやエヴァ先輩がいれば、水に困ることはないんだけど、本能的に水場を求めてしまう。
同じ野営をするなら、水辺がいいなあ。
なんかほっとするというか。
ニコラくんが言うには、水場には魔獣も集まってくるから、一長一短らしいけど。
「また出たぞ!」
「危ないですよっ」
突進しかけたマルクを、ニコラくんが止める。
またドラゴンリザードだ。
この森ではこれぐらい普通の敵なのか。
「ヘルブリザード!」
「サンキュー、ニコラ!」
マルクは喜々として走り出した。
氷漬けの巨大トカゲをまっぷたつにして、そしてまた道は開かれる。
レアナはもう慣れたのか、エヴァ先輩とのんびり談笑している。
マルクとニコラくん以外、全然訓練になってないよね。
「なんだかトカゲとカエルが多いな」
「増えてきましたね」
森の奥に進んでいる証拠だろうか。
生い茂る大木の根っこが絡み合って、まさに樹海という感じ。
敵は四方八方から出てくる。
マルクやレアナが一瞬でやっつけてくれるからいいんだけど、あんまり気持ちのいいものではない。
山側を目指して、切り開きながら進んでいくと、沼地に出た。
ここらへんがトカゲの棲家かも。
あちらこちらに沼があって、毒ガスがボコボコ出ている。
「毒浄化!」
オーグストが浄化をかけると、周囲の小さい沼は消えてしまった。
空気まで浄化されて、すがすがしい。
「あれ? こいつ……」
近くにいた毒ガエルは、毒浄化でシューっと小さくなって、普通サイズのアオガエルになってしまった。
ぴょこぴょこ跳ねているが、無害っぽい。
「元々は魔獣ではなく、普通の生き物だったのかもしれませんね」
私たちが戦うために強くなったのと同じで、動物も生きのびるために魔獣化したのかもしれない。
この世界は、弱肉強食だから。
このアオガエルは見逃してあげても、ここで生きていくのは厳しいだろうなあ。
オーグストに浄化をかけてもらいながら沼地を進むと、小さな池が見つかった。
濁った池からボコボコと毒ガスが出てたけど、オーグストが浄化すると、底まで澄み切った池になった。
なんだか神々しいよ、オーグスト。
「ここらで野宿する? それとももっと山の方まで行く?」
「このあたりの敵はだいたいわかったので、このへんでいいんじゃないでしょうか」
あんまり山に近づくと、古竜に見つかりそうなので、森の中で野営することにする。
見つかってもいいんだけど、そうすると何か次のイベントが起きてしまいそうだし。
山に行ったら行ったで、もっと強い魔獣とか出てくるかもしれない。
見晴らしをよくするために、マルクに池の周辺の木を倒してもらって、野営地の確保をする。
ニコラくんが、敵が来たら落ち着かないと言って、高い土壁をコの字型につくってくれた。
ちょっとした砦のような感じだ。
壁のない方に焚き火をつくる。
最後は雨風よけに、オーグストが結界を張ってくれた。
これで、小さい魔物ぐらいは跳ね返してくれるらしい。
食事は王都で買い込んできたパンや、果物。肉は焚き火で串焼きにした。
この森には角ラビみたいな動物はいないから、自給自足は難しいな。
浄化した池にはデビルフィッシュがいたので、マルクが明日釣ってくれるらしい。
とりあえず、ここで数日野営しつつ、新しいスキルや攻撃力に慣れることにした。
みんなまだ、新しい自分の力がよく掴めていないので、強い敵と戦うのには不安がある。
夜も更けて、結界の中は静かだ。
ふたりずつ、交代で見張りにつく。
最初はあまり疲れていない私とエヴァ先輩が起きていることになった。
池を眺めていると、ポルトの森を思い出すなあ。
急に学園が恋しくなってくる。
先生たち、心配しているだろうな。
暇なので、ワルデック先生とスワンソン先生に、手紙を書いてみることにした。
いつも連絡係はニコラくんがやってくれているので、国を出てから私は連絡していなかった。
「ワルデック先生、スワンソン先生
私たちは元気です。
でも、学園が恋しいです。
早く帰りたい……」
……違うな。
こんな内容じゃあ、心配させてしまう。
ホームシック丸出しだ。
書きかけた手紙を丸めて、焚き火に放り込む。
「ワルデック先生、スワンソン先生
私たちは元気です。
みんな強くなりました。
今日はドラゴンリザードを倒しました。
世界の平和のために頑張ります」
……最後の一行は建前っぽいけど、これでいいか。
元気だということが伝わればいいよね。
小さいメモ用紙なので、たいしたことは書けないし。
転移メモを送ると、夜遅いというのに、スワンソン先生からすぐに返事が返ってきた。
「命の危険があれば逃げなさい。やり直しは何度でもできることを忘れずに」
急いで書いたような、走り書きの文字を見て、じわっと涙が出てきた。
先生。
私、全力で逃げますから大丈夫です!