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バルディアの森

 怪しい骨董屋を出てから、何軒か武器屋を回ってみたんだけど、これといってめぼしいものはなかった。

 品揃えはバスティアン王都の店より悪いぐらい。

 武器屋の人が口を揃えて言ってたのは、騎士団の鋼鉄剣よりいい武器は、マリアナの王都にはほとんどないとのことだった。

 むしろ、盗賊が多い周辺の小国の方が、めずらしい武器は手に入りやすいらしい。

 マリアナ国内でめずらしい武器があるとしたら、ごくまれに流れ者の商人などが持ち込むぐらいなんだって。

 あの骨董屋は貴重な店だったのかも。


 ニコラくんが見つけてくれた薔薇のペンダントは掘り出し物で、なんと攻撃力が1.5倍になった。

 ニコラくんが言うには、宝珠や鉱石は相性があるんだという。

 碧玉は土属性向きで、マルクみたいな物理攻撃の人には合ってるんだそうだ。

 私は土属性というわけではないんだけど、雷属性にも合ってたのかもしれない。

 あの聖剣の青い宝珠は、聖属性向きなのかなあ。

 だったら、なぜクレール神官が使えなかったのか、不思議だけど。

 

 これで、私は勇者になる前からすると、攻撃力15倍だ。

 なんだか無性に剣で戦ってみたい気持ちになる。

 マルクも同じようで、狩りに行きたくてウズウズしているみたい。

 みんなステータスが上がっているので、できればちょっと力試しをしたいんだけど、マリアナ王都で目立つことはしたくない。

 さっさとバルディア山に行って、しばらく山のふもとで野営をしつつ訓練をしようという話になった。


 

 バルディア山のふもとまで、王都からは馬車で1日。

 長く人が近寄らなかったので、ふもとの森は樹海化していると聞いた。

 馬車で行けるところまで送ってもらって、森の入り口で降りた。

 ここからは、道らしい道がない。

 まあ、山を目指せばいいわけで、迷うことはないと思うけど。


「皆さん、これを身に付けてください」


 ニコラくんが全員に紐で編んだ腕輪のようなものを配ってくれた。

 昨晩せっせと作ってたのはこれだったのか。


「これはなあに?」

「解毒の腕輪です。この森には毒のある魔物がいると聞いたので」

「腕に巻いたらいいの?」

「そうです。ありあわせの材料で作ったので、耐久性はあんまり期待しないでください」

「これを巻いてたら、毒攻撃が無効になるのか?」

「無効にはならないんですが、毒を受けた後に解毒してくれる、ということです。ダメージは受けるので気を付けて」

「ありがとう! さすがニコラくん」

「いえ。無効化できたらよかったんですが、そこまで間に合わなくて」

「俺も毒は浄化できるぜ。心配すんな! 行こうぜ」


 森の中に入ると、木が茂り放題で太陽の光を遮っている。

 ジメジメしていて、うっとおしい感じだ。


 ゲコッ、ゲコッと早速不気味なやつが2体、道に出てきた。

 体長が50cmぐらいありそうなカエルの魔獣だ。

 紫色でブツブツの皮膚に覆われていて、なんとも気持ち悪い。

 爬虫類系の魔獣は嫌だなあ。

 あ、違った。カエルは両生類だっけ。


「ビッグトードです。毒、吐きますよ」


 ニコラくんの説明で、身構える。

 レアナのファイアーボムで、2体ともあっけなく倒した。

 強くはないらしい。

 まあ、防御力はなさそうだもんね。


 草の陰から飛び出してきた別のビッグトードが、長い舌を出してびゅっと粘液を飛ばしてきた。


「うわっ、こいつ!」


 マルクの鎧が、ジュっと音をたてて溶けた。

 マルクが剣で薙ぎ払うと、ベチャっと地面に落ちて、ジュワっと煙があがる。


「これ、剣で倒さない方がいいんじゃない? 錆びそう」

「そうだな。レアナに任せるか」


 弱いけど、地味に嫌な敵だ。

 歩いていると次々に出てくる。

 レアナもカエルは苦手みたいで、出てくるたびに思いっきりボムを放つので、その後ろからニコラくんが火を消して回る。


「こんな森で野営できるのかなあ」

「何種類か結界張っておけば、ザコぐらいは大丈夫だと思うけどな」

「おっ、木の上になんかいるぞ。 イテっ」


 猿だ。

 猿がこっちに向かって石を投げてくる。

 体は大きくないがすばしっこそうだ。

 木から木へ飛び移っている。


「マッドモンキーです。攻撃は物理だけですけど、牙があって噛みつきますよ」

「エアスラッシュ!」


 4、5体ひとまとめに猿のモンスターが木から落ちた。

 まっぷたつだ。

 ついでにあたりの木までバッサリ倒してしまった。

 久しぶりにエアスラッシュ使ったら、ずいぶん威力が上がっている。

 攻撃力上がってること、すっかり忘れてた。

 レアナもさっきからずいぶん派手にボムを放ってると思ってたけど、あれでも抑えてたんだね。


「ステータス上がってるから、慣れないと危ないね」

「俺は攻撃30倍だぞ」


 マルクが退屈そうに碧玉の大剣をブンブン振り回す。

 戦闘中は絶対近寄らないようにしよう。

 ケガぐらいなら回復できるけど、下手したら死ぬ。

 

 ついに道らしきものがなくなってきたので、エアスラッシュで草木をなぎ倒しながら進む。

 視界が悪いので、どこから敵が出てくるかわからない感じ。

 闇雲にエアスラッシュを放っていると、ガツン、と何かに硬いものに当たった気がした。

 ギャオッ、と声がする。


「敵だ!」


 のそりと大型の魔獣が寄ってくるのが見えた。

 巨大トカゲだ。

 緑色なので、保護色で気付けなかった。


「リザード……いや、ドラゴンリザードかも」


 ニコラくんの説明を聞き終わる前に、巨大トカゲは炎を吐いた。


「アイスウォール!」

「アイスブレイク!」


 間一髪、黒焦げにならなくて済んだけど、ヤバかった。

 エヴァ先輩のアイスブレイクは体の一部を凍らせたけど、すぐに溶けていく。

 体が大きいので、全体を凍らせるのは無理みたいだ。


「先輩っ!重ねがけでいきましょう!」

「OK、アイスブレイク!」

「いかづち!」


 ズドーンと頭に雷を落とすと、トカゲは一瞬動きを止めたが、しばらくするとブルブルっと頭を振った。

 効果範囲が狭いからか、死んでくれない。


「でも、トカゲは寒さに弱いはず!」

「そうでした、僕としたことが」


 ニコラくんが腰にさげていた杖を抜く。


「ヘルブリザード!」


 猛吹雪が竜巻のように飛んでいって、巨大トカゲを襲う。


「ニコラくん、すごいっ!」

「へへっ、一度使ってみたかったんですよ」

 

 巨大トカゲは全身が凍りはじめて、動きが止まった。


「死んでないよね?」

「動きを止めてる間にトドメを!」

「俺がやる!」


 マルクが大剣を構えて、巨大トカゲに向かって疾走する。


「斬撃剣!」


 巨大トカゲの首が飛んでいった後にズゴゴゴゴっと轟音が響いた。

 なんと、斬撃の余韻で巨大トカゲの向こう側、数十メートルの草木がなぎ倒されていく。

 突然広がった視界に、全員あっけに取られてしまった。


「お、思ったより攻撃力出たな」


 うん、今日の格言。

 マルクの前に、道はできる。



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