勇者の加護
「あれ? なんだろ?」
尻もちをついていたニコラくんが、立ち上がって不思議そうな顔になった。
その場で、足踏みをしたり、ぴょんぴょん跳ねたりしている。
「なんか効果でもついたかな?」
「どうしたの?」
「いえ、僕は立ち上がるときにいつも足が痛いんだけど、なんだか治ってるみたいで」
ステータスを開いたニコラくん。
「あ、やっぱり。身体強化がついてます! っていうか、あれっ……大賢者になってる……」
あわてて全員がステータスを開く。
「俺もだ。剣豪になってるぞ!」
「私も! 魔導戦士になったよ! やったあ!」
「成功してたんだ、今の……」
「うまくいってたとは思いませんでした」
「なんか勇者の加護、っていうのもついてるよ?」
「俺もだ。なんかいろいろスキル増えてるな」
「身体強化 雷耐性(常態) 凍結耐性(常態)……あ、これが勇者の加護なんじゃない?」
「なるほど、そうかもね、私とエヴァ先輩の攻撃魔法は、メンバーには無効になるってことか」
私とエヴァ先輩には『勇者の加護』とやらはついていないけど、雷耐性と凍結耐性は増えていた。
常態というのは、わざわざスキルを発動しなくても、常に耐性はあるということかな。
これは、地味に助かる。
仲間が感電したらシャレにならないし。
それにしても、今の青い光の粒みたいなのは私とエヴァ先輩の加護だったのか。
なんかその割にはみんなふっ飛ばされたけど、力加減がまずかったのかなあ。
みんながワイワイ話しているところへ、クレール神官がおずおずと話しかけてきた。
「あのう……どうやら私まで勇者様の加護を頂いてしまったようです」
「えっ、クレール神官もですか?」
「はい、なぜか私は大神官になってしまいました」
申し訳無さそうにしているクレール神官。
仲間認定されちゃったのか。私たちの。
それにしても、聖騎士から大神官に変わるっていうパターンもあるとは。
長年神官として剣を守ってきたからかもしれないね。
「あの……多分なんですけど、クレール神官も協力してくれたので、私たちの仲間だと認識されてしまったんだと思います」
「仲間? 私がですか?」
「勇者パーティーメンバーになると、上級職になれるみたいなんです。理由はわからないんですけど」
「そういうことですか。ついでに私まで力を頂いてしまって、申し訳ないことです」
クレール神官は思わぬ棚ボタだったと気付いて、うれしいような困ったような顔をしている。
「でも、大丈夫ですか? 別に仲間にならなくてもいいんですけど、このことが教会にバレたらまずいですよね? 勝手に大神官になったなんて」
「あ、いえ。私などはこの教会にとってたいした存在ではないのでバレることはないでしょう。それに、私はもうお役目を終えたので、リリトへ帰りたいと思っているのです」
「リリトへ?」
「そうです。破壊されてしまった神殿の復興のお役に立ちたいと」
そうか。クレール神官はリリトから無理やり連れてこられたようなものだもんね。
ご両親の眠っているところに帰りたいよね。
クレール神官にとっては棚ボタのような出来事だったかもしれないけど、きっとこれもイベントのひとつなのかな。
「もし、リリトの神殿に行かれるなら、その大神官の力が役に立つかもしれませんね!」
「ありがたいことです。リリト王国には大神官がいないでしょうから。では、皆様、早くこの部屋を出られた方がいいでしょう。大神官たちが戻ってくるかもしれません。ご幸運をお祈りしています」
クレール神官は何度もお礼をいいながら、立ち去った。
私たちもあわてて神殿を出た。
王宮に戻って改めてみんな確認していたんだけど、全員ステータス値は10倍になったようだ。
これから魔神に遭遇するかもしれないから、全員強くなれて本当によかった。
ニコラくんは部屋の中を走り回ったり、腕立て伏せをしたりしている。
足が治ったから、体を鍛えるんだって。
夜になって、大神官の研修みたいなのを終えたオーグストが戻ってきた。
疲れた様子で、元気がない。
「どうだった? 封印の術。習ってきたんでしょ?」
「うん、まあね……」
言葉を濁すオーグスト。
何か嫌な目にあったんだろうか。
「なんかあったの?」
「……実はさ。帰りに大神官のひとりに話しかけられてさ。その人が本当はバルディア山に行く予定だったらしいんだけど。まあ、俺が代わってくれて助かったと言って」
「あそこにいた大神官、みんな年寄りだもんねえ」
「その人が、封印の術は覚えておいてもいいけれど、できるだけ使わずに魔神を倒せって言ったんだ」
みんながオーグストの周りに集まってくる。
「そりゃ、まあそれが一番だよな? だって封印してもまた100年たったら劣化するんじゃねえの?」
「そうなんだけど。他の大神官に隠れてコソっと忠告してくれた感じだったから、なんか嫌な感じがしてさ。俺、騙されてるんじゃないかって気がして」
そういえばクレール神官も、ここは排他的だって言ってたっけ。
他国の人間には情がないとも。
オーグストの直感は当たってるかもしれないよね。
大神官の中でも、考え方の違いがあるのかも。
「他の大神官たちはどんな様子だったんだ?」
「まあ、俺なんか相手にもしてないって扱いだったけど、封印のやり方だけは教えてくれたよ。それが重要だから俺なんかを大神官にしたんだろうし」
「まあ、いいじゃん! 私たちが倒せばいいんだし。あ、そうだ、今日オーグはいなかったから、勇者の加護のこと知らないんだよね!」
「勇者の加護?」
「俺ら全員、勇者の加護もらったんだぜ」
「なんだよそれ、ずるいぞ。ていうか、お前たち、成功したの?」
「したした! 全員バッチリだよ! 見て、ニコラくんなんて足が治って走り回ってるし」
「そうか。よかったな! それなら、倒せるかもしれないな!」
元気がなかったオーグストがやっと笑顔になった。
今回オーグストだけは教会側との間に立たされてるから、嫌なこともあったんだろうな。