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正教会の要求

 ここまでの流れは想定内だ。

 

 プランAは『ふたりとも勇者にはならずに帰る』作戦だったが、プランBは『できるものならふたりとも勇者になってしまえ!』作戦だ。

 今後の展開を予想するに、力はあった方がいい。

 勇者の力が得られるなら、ふたりとも勇者になれた方がいいんじゃないか、と考えた。

 どっちかひとりだけ勇者になってしまったら、もうひとりは帰国しないといけなくなるしね。


 「では、説明しましょう。長い話になりますので、どうぞお座りください」


 教皇の説明を要約すると、近年かつてないほど魔獣が増え、国内で不穏な事件が起きている。

 教会では、それは約100年前に魔神を封印した剣が劣化し始めたのではないかと考えている。

 剣の複製を作ったのは、剣の封印が劣化することを予測していたから。

 100年もたてば、宝珠の力が尽きることは最初からわかっていたらしい。


「つまり、私たちにもう一度封印し直してほしいという話でしょうか」

「ええ、まあ、それはそうなんですが。ひとつ問題がありまして」

「問題とは?」

「魔神が封印されているのは、バルディア山の頂上にある封印の祠という場所なのですが、バルディア山には古竜が住みついているのです。そのため、誰も近づくことができません」


 バルディア山……

 古竜フラグか、これは。


「それでは、私たちでも近づけないでしょう」

「しかし、聖騎士は、古竜と意思の疎通ができるようなのです。事実かどうかはわかりませんが」

「ちょっとよくわからないのですが、そのような人が近づけない場所に、どうやって祠をつくって、どうやって剣を封印しに行ったんですか?」

「祠を作ったのは魔神です。そこから魔物が出てきたので、クリストフが討伐に向かったのです」

 

 ああ。ポルトの森にあった、魔獣の祠みたいなものか。

 ということは、転移魔法陣がそこにあるのかも。


「では、剣に魔神を封印する方法は?」

「それは、大神官を連れていかなければなりません。封印は大神官でなければできないのです」

「あの人たちですか?」

「誰かひとり連れていけばできるでしょう」


 うーん……どう見ても大神官たちはおじいちゃんばっかりみたいだけど。

 山登りなんてできるんだろうか。


「では、私たちに封印の祠へ行って、剣の封印状態を確認してほしい、という依頼なのですね。もし、まだ剣の封印が解けていない場合はどのように?」

「その祠ごと結界を張ります。剣は遅かれ早かれ劣化しますから」


 なるほどねえ。

 一応話の筋は通ってるけど、なんとなく釈然としないような。

 エヴァ先輩はじっと何か考え込んでいる。


「教皇様、ひとつ条件があります」

「なんでしょうか。できることであれば協力させてもらいます」

「バスティアンから同行している神官を、大神官にしてもらうことはできますでしょうか」

「それは……」


 オーグストの顔が引きつっている。

 魔神討伐に行けと言われたら、交換条件でオーグストのことを交渉するということも、打ち合わせ済みだった。

 私たちの目的は、その儀式を見て、転職の方法を解明することだ。


「大神官は誰でもなれるものではない。才覚というものが必要なのだ。若造には無理だ」


 枢機卿が不機嫌そうに口を挟む。


「その才覚、というものを見てもらうことはできますか?」


 大神官たちがボソボソと小声で何か話し合っている。


「見ても無駄だったときは、諦めるのか?」

「そのときは諦めて、そちらの大神官の誰かに同行してもらいましょう」

「ふん。好きにするがよい」


 枢機卿は、どうせ無駄だと言いたげだ。

 教皇の指示で、大神官たちが巨大な水晶の玉を運んできた。

 一般の教会の職業判別に使われる水晶玉の数倍の大きさだ。


「これで、さらに上級の才覚があるかどうかを判別することができるのです。バスティアン王国の神官よ、前へ出なさい」

「はい」


 オーグストが立ち上がる。


「オーグスト、大丈夫」


 小声で励ますと、オーグストはうなずいて前へ出た。

 大丈夫だよ。

 私たちだって勇者になれたんだもん。


 オーグストが水晶玉に手をかざすと、水晶はまばゆいほどに輝き始めた。

 大神官たちが皆、驚いた声をあげる。


「どうですか? 教皇様」

「……間違いないでしょう。この者には才覚があります」


 枢機卿は苦々しい顔をして、そっぽを向いた。


「ただし、大神官になるには、儀式があります。それには準備が必要なのです」

「わかりました。では、儀式が終わってから私たちはバルディア山へ出発することにしましょう」


 オーグストは戻ってくると、へたりこむように座った。

 呆然とした顔をしている。

 そんなに驚かなくても、わかってたことなのに。


「儀式の方は準備が整い次第、お知らせします。それまでは、王宮に滞在していただけるでしょうか。お送りしますので」


 剣はエヴァ先輩が預かることになった。

 二度目に持ったときは、もうさっきみたいに青く光らなかった。

 もう持ち主認定されたってことかな。

 

 ちなみに他の人は触ることもできないのかと思ったんだけど、後でマルクが持ってみたら、普通に持てた。

 ただ、封印を扱うことができないのと、剣の性能を引き出すことができないみたい。

 私には重すぎるので、これで戦うことはないだろうなあ。


 神殿を出てから、私とエヴァ先輩はステータスを確認した。

 ふたりとも確かに「勇者」になっていた。

 そして、全ステータスがほぼ10倍になっていた。

 思ったほど実感も感慨もない。

 あれほどなりたくなかった勇者になったというのに。

 

 ひとりだったらきっと死ぬほど嫌だっただろうけど、エヴァ先輩もいるし。

 それに、仲間もいるし。

 勇者になるのは嫌でも、勇者パーティーになるのはなんだか楽しいような気もする。

 

 あの力が満ち溢れるような瞬間に、ステータス上昇したのかな。

 他の上級職も同じように上昇するのかどうかは、オーグストが大神官になればわかるよね。

 

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