ルームメイト
登校初日は、午前中で終わってしまった。
クラスメイトは、特に雑談したりすることもなく、寮へ戻っていく。
数人は侯爵家のお嬢様に挨拶をして立ち去ったが、身分の高い人に自分から話しかけてはいけないと聞いているので、私はレアナとふたりでさっさと教室を出た。
「ねえ、私、寮でふたり部屋なんだけど、もうひとりってレアじゃないの?」
「えっそう? 私とルイが同室?」
「だって、平民の女って、私とレアだけじゃない」
「そうだった…そうだよね。そうだとうれしい!」
どうやらレアナは人と関わるのが怖くて、今日まで一歩も部屋を出なかったらしい。
寮に戻ってみると、やっぱりレアと同室だった。
別々の寝室の真ん中には、小さなキッチンがついた共同スペースがあって、テーブルと椅子が置いてある。
「お茶…入れようか?」
「ありがとう! うれしい」
まだ遠慮ぎみのレアナが、一緒にお茶を飲もうと誘ってくれる。
慣れた手付きで用意をしてくれるので、きっと家でも家事をやってたんだろうな。
話を聞いてみると、レアは王都に近い小さな村の出身で、野菜を売る商家の長女なんだそうだ。
子どもの頃から商売を手伝いながら家事をしていたのに、突然学園に入らないといけなくなった。
病弱でまだ小さい弟がいるので、心配している。
そんな話だった。
私は、騎士爵家の次女で、三姉妹の真ん中。
いずれは聖女になって、普通に結婚しようと思っていたことを話す。
父が聖騎士になったことを喜んでいることも。
「聖女になるつもりだったの?」
「そう。小さいときに偶然回復魔法を使えるようになって。普通聖女になるのかと思うでしょ? まさか聖騎士だなんてびっくりだよ」
「…そうだよね。私もびっくりした。もう少ししたら農家にでもお嫁に行くと思ってたもん」
ああ、気持ちがわかり合えるっていいな。
騎士になんて本当はなりたくない気持ち、レアだけはわかってくれるかな…
言っても仕方がないことは言わないけど。
「私、聖騎士になるなんて、どんなにすごい人だろうって思ってたんだ」
まあ、普通そう思うよね。数年にひとりの逸材とか言われてるし。
でも、ここは本音トークをしておこう。
「あのね、これ、レアにだけ話すけど、私、王国騎士団とか目指してないの。できれば、学園にいる間に婚約者見つけてさっさと結婚したい! 戦うの、怖いもん」
レアは驚いたように目を丸くして、それから小さくため息をついた。
「そうだよね…でも、騎士になれば、お金持ちになれるんでしょう? 両親から、しっかりやれって言われた」
「たしかに、騎士は出世の道もあるけど…でも命あってこそじゃない? 死なない程度に頑張ろうよ。平民なんだもん、出世は貴族様がすればいいじゃない」
「もし出世しないとしたら、他にどんな道があるのかなあ?」
「うーん、たとえばさ。領主様の護衛とか、地元の騎士団に就職するっていうのもアリじゃない? うちのお父さんがそんな感じだけど、お給料もそんなに悪くないよ」
「そっか。それでも私には十分すぎる出世だと思う」
レアナは、自分の実力に見合った出世を目指したいと言った。
真面目でいい子だなあ。