マリアナ冒険者ギルド
無事マリアナ正教国へ入り、まっすぐ正教会へ向かうのではなく、いったん宿に泊まる。
野営をしていたからみんな汚れているので、体を清めて着替える必要があるし。
騎士団の代表が王宮へ到着の知らせに行ったが、私達は1日休みをもらえた。
この間に、私たちにはやることがあった。
マリアナ冒険者ギルドへの登録だ。
別にバスティアン王国の冒険者登録証でも活動はできるんだけど、今後のことを考えると、この国の登録証を持っておいた方がいいかと思って。
身分証明書代わりになるしね。
どんな討伐依頼が出ているのかも、確認しておきたい。
それと、エヴァ先輩の冒険者証を作っておく必要があった。
身分を隠して動かないといけないときに、役に立つからだ。
今のうちに登録しておかないと、勇者になってしまうかもしれないので、エヴァ先輩とは事前に相談してあった。
バスティアン国内で王国騎士団の人が冒険者登録をするというのは、ちょっと体裁が悪いので、こっちでこっそり登録しようという話になったのだ。
騎士団の装備は目立つので、普段の服装に着替えて、6人で冒険者ギルドへ向かう。
私たちは最初に登録してから更新をしていなかったので、みんな登録証はFランクのままだ。
すでにBランクパーティーになっているので、全員登録証を更新することにした。
冒険者ギルドの建物の中は、バスティアンの冒険者ギルドとあまり雰囲気が変わらない。
ただ、大剣を背負ったような冒険者風の人の出入りは少なかった。
弓を持った狩人風の人は見かけたけど。
「Bランクパーティー『時限』の皆様、登録が完了しましたので、確認してください」
バスティアンの登録証はベージュ色だったが、マリアナの登録証は薄いピンク色だ。
国によって違うのだろうか。
古い登録証は特に返還する必要はなく、どちらも使えるらしい。
ただし、Bランクの依頼を受けるときには、Bランクの登録証を使ってくれと言われた。
そりゃそうだよね。紛らわしいし。
エヴァ先輩はFランクからのスタートだ。
だけど、メンバーとしてはBランクパーティーに参加できる。
これでエヴァ先輩もパーティーメンバーになった。
「うん、聖騎士って表示されてる。教会に行く前に作っておいてよかったよ。勇者だったら人に見せられないところだった」
「でしょう? そう思って、私も王都にきてすぐに作ったんです。これで、ずっと使えますよ!」
エヴァ先輩は、初めての冒険者登録がちょっとうれしかったみたい。
ニコニコして自分の登録者証を眺めている。
「ところで、パーティー『時限』の皆様は、早速依頼を受ける予定はありますか?」
「あ、いえ。まだこちらに着いたばかりなので、特に考えていませんが」
「そうですか……実はAランクモンスターの討伐依頼がたくさんありまして。できれば、お願いできると助かるのですが」
受付のお姉さんが困っている様子なので、事情を聞いてみたところ、ここのギルドに出入りしているAランクパーティーは、ほとんどどこかの領に専属依頼で雇われてしまったらしい。
フリーで動いているパーティーは少なく、Bランクレベルでも依頼が殺到しているんだそうだ。
とりあえず、用事があるのでそれが済んでから考える、と言ってエヴァ先輩がお茶をにごしておいてくれた。
討伐依頼のボードを見ると、A~Bランクの討伐依頼がぎっしり貼られていた。
ブリザードウルフの討伐などは結構な報酬なので、暇なら引き受けてあげたいけど、そういうわけにもいかないしね。
商人や聖女様の護衛依頼も多かった。
「見てあれ! すごい報奨金!」
レアナが指さしたのはS級の依頼だ。
「バルディア山 古竜駆除。駆除ってなんだ? 討伐じゃねえのか?」
「ああそれは、討伐しなくても追い払ってくれたらいい、という依頼なのですが……」
受付のお姉さんが困ったように口ごもっている。
追い払ってくれたらいいって……
追い払っても戻ってくるでしょうよ。
竜なんだから。
「バルディア山脈には鉱山が多いのですが、古竜が住みついているので、人が近寄れないんです」
「それで、追い払えってか。そんなの誰が引き受けるってんだ」
「そうなんです、ギルドとしても困っておりまして、何度もお断りしたのですが。うちのギルドにはS級の登録者はおりませんし。あ、A級でも依頼自体は受けられるんですけどね」
「こりゃあ、ワルデック先生向けの依頼だな」
マルクとレアナが笑っている横で、エヴァ先輩がツンツンと私とつつく。
「気になるね」
「ドラゴンですもんね……」
フラグでしょう。これ。
意味もなくドラゴン討伐とか出てこないよね。
あ、討伐じゃなくて駆除か。
まあ、私たちはBランクパーティーなので、今は関係ないけど。
あーやだなあ。
ドラゴンとは戦いたくないなあ。
火とか吐くんだろうか。
念のため、後で古竜について調べておいた方がいいよね。
「これは楽観的な予想だけど、古竜とは戦わないで済むかもよ?」
「えっ、エヴァ先輩、何か記憶あるんですか?」
「ゲームだと、確かドラゴンは人間側の味方だったと思う」
「そういえば……」
確かに、ゲームでドラゴンの背中に乗って移動した記憶がある。
って、ドラゴンの背中に乗るのも十分嫌だー!
落ちたら即死じゃん!