スキルを考案してみる
翌日、山を越えていよいよ国境に向かう。
馬の休憩時間にマルクと剣の稽古をしていたレアナが戻ってきて、ごろんと寝転がった。
こてんぱんにやられたみたいなので、回復魔法をかけてあげる。
マルクが相手だと火魔法使えないから、レアナの分が悪いよね。
「いいなあ……ルイの新しいスキル」
「レアは火魔法強いからいいじゃん。攻撃力あるし」
「そうなんだけどさ」
レアナの悩みは、火魔法で周りを燃やしてしまうことらしい。
一点集中させることはできるけど、結局燃え広がってしまうので、森などで使いにくいと言う。
いつもニコラくんに水魔法で消してもらってるみたい。
レアナの剣スキルは、つばめ返しと爆裂剣があるけど、結局威力が強い爆裂剣を使ってしまって、周囲を燃やしてしまうみたい。
私もエヴァ先輩に習って少しは水属性使えるようになったけど、レアナの火を消すほどの威力はない。
魔法って練習すれば少しは使えるけど、やっぱり属性の適性が必要だと思うなあ。
攻撃魔法って、大きく分けると水属性の人と火属性の人がいて、私の雷属性は特殊だ。
あと、風属性も攻撃はできるけど、威力としてはたいしたことない。
ブリザードみたいなスキル持ちの敵には、歯が立たないし。
暴風みたいなスキルもあるかもしれないけど、それって周りが迷惑なだけという気がする。
そういえば、ニコラくんは土属性の魔法が使える。
時々、土の壁みたいのを出して、防御に使ってる。
スワンソン先生も使ってたなあ。
あれって、攻撃に使えないんだろうか。
「ねえ、ニコラくん。土属性って攻撃魔法はないの?」
「うーん、なくはないですけどね。あんまり使い道がないというか。僕でいえば、水属性の方が圧倒的に威力が出るので」
「たとえばどんな攻撃?」
「まあ、こういうのとか」
ニコラくんは手の上に石ころを出して、投げた。
確かに、それはあんまり使い道がなさそう。
「魔法である意味がないよね。拾って投げたらいいし」
「そう。土魔法って、結局物理攻撃なんですよ。まあどっちかというと、錬金向きの魔法です」
「錬金?」
「こういうことができるんです」
ニコラくんは地面の上に魔法陣を展開した。
見ていると、魔法陣の中心に黒い石ころのようなものが出てきた。
「何それ?」
「鉄です。金属を生み出すのが錬金なので」
「それ、難しい?」
「そうでもないですよ。錬金はそんなに魔力が必要じゃないですし。地面の中にある金属の成分を集めるイメージですね」
「面白そう! ね、ニコちゃん、私にも教えて!」
レアナは感覚派なので、イメージで魔法を覚えるのは早い。
ニコラくんがやっていたのを真似して、手から石を出している。
私はどっちかというと、手から魔力を出すより、剣から出す方がやりやすい気がするなあ。
手から出そうとすると、どうしても習慣で、回復魔法が出てしまいそうになる。
「あ! 鉄もできた!」
「すごいですね! 錬金の才能あるかも」
レアナは手のひらから、鉄の細い棒みたいなものを生み出した。
いや待って。それ、使えるんじゃない?
「ねえ、レア。それ、形変えられる?」
「ん? どういうこと?」
「例えばだけど、先を鋭くとがらせる、とか」
「ああ! なるほど! こんな感じ?」
10cmほどの、鋭いアイスピックみたいな金属を作り出すレアナ。
ニコラくんも感心している。
「じゃあ、それを発射できるようになったら、すごくない?」
「ちょっと待って、こうかな?」
近くの木に向かって、鉄針を発射すると、びゅんと飛んでいって木に刺さった。
「すごいすごい」
「よし、次は連射してみる!」
見ている間に、ピシピシっと3連射ぐらいできるようになった。
これ、相手が人間だったら殺人兵器だよ……
暗器じゃん。
やっぱりレアナって魔導戦士っぽいなあ。
こんなことすぐにできるなんて。
「スキル生えた?」
「んっとね。あ、『ニードルショット』だって! やったあ! これ鍛えよっと」
「よかったよかった」
「これ、物理攻撃しか効かない敵にいいよねえ」
なるほど。デーモンタウロスみたいな敵に有効かも。
レアナは上機嫌で鼻歌を歌いながら、鉄針を放っている。
こんな女子が嫁の貰い手あるんだろうか、とふと思ったりもするけど。
ニコラくんも、興味を持ったみたいで一緒に練習している。
ニコラくんならもともと錬金が得意なんだし、大きな魔法陣から高速連射で出せるかも?
いや、想像すると怖いけど。
攻撃魔法って不思議だな。
適当に想像してつくったわりに、ちゃんと名前がついてる。
教科書見て覚えるものじゃないのかもなあ。
想像力が勝負というか。
「そろそろ峠を越えるから、一応武装しといた方がいいよ」
エヴァ先輩に言われて、帯剣する。
峠の一本道は、盗賊が多いそうだ。
逃げ道がないので、襲いやすいんだろうな。
王都周辺では騎士団の馬車を襲うような輩はいないけど、国境付近は無法地帯だ。
隣国に逃げこまれたら騎士団でもなかなか追跡できない。
もうこのメンバーだったら、盗賊ぐらいはあんまり怖くないけど。
邪教集団が出てこないように祈るしかない。
「今日は僕が護衛につくからね」
めずらしくエヴァ先輩が私たちの馬車に乗り込んできた。
マルクとオーグストは顔を見合わせて、驚いている。
今まで騎士団の人が、私たちの馬車に乗り込んできたことは一度もない。
それどころか、話しかけられたことすら、ほとんどない。
「それに、ちょっと君たちと話をしようと思って」
「なんかあったんですかあ?」
レアナがうれしそうに話し相手になる。
ここ最近ずっとメンバーしか話し相手がいないから、退屈していたようだ。
「実は、僕は冒険者パーティーを組んだことが一度もないんだよね。学園を出てすぐに騎士団に入ったからさ。だから、君たちの戦い方を知っておきたいんだよ」
「私達の戦い方って、騎士団と違うの?」
「騎士団は基本数十人の団体戦だからね。それに後衛には魔導士団がついているときもあるし。戦争向きなんだよ。戦い方が」
「ああ、なるほどー。個人戦に慣れていないってことですかあ?」
「そう。君たちみたいに、隣でバリバリ魔法攻撃してる中で戦うなんて経験、あんまりないしね」
「あれは、結構慣れるまでキツいっすよ。俺、最初の頃、何度レアナに燃やされそうになったか」
様子見をしていたマルクが話に加わった。
戦闘の話は好きだから、黙っていられないんだろう。
「あはは。わかるわかる。この間から君たちを見ていて、これはちょっと慣れないと一緒に戦えないかなって思ってさ」
「俺らと一緒に戦うんですか?」
「だって、君たちは勇者パーティーなんだろう?」
「いや、それはその……目指してえとは思ってますけど」
いきなり核心をつかれて、皆押し黙ってしまった。
「マリアナ正教会に行ったら、僕かルイちゃんのどっちかが、勇者に認定されてしまうかもしれない。そうなったときに、僕らはひとつ約束をしていてね」
「約束?」
レアナが私の顔を見る。
そうか……到着する前に話しておいた方がいいよね。
「うん。そうなんだ。もし、エヴァ先輩が勇者になったら、私は聖騎士として勇者パーティーに入る、って約束してる」
「そうなると俺たちは?」
オーグストが身を乗り出してきた。
「僕は誰にも強制するつもりはないけれど、できればみんなと一緒に戦いたいと思ってるよ」
「じゃ、じゃあ、ルイが勇者になったら、先輩はどうするんですか?」
「そのときは、僕が聖騎士として君たちの仲間に入れてもらう。そういう約束なんだ」
「つまり、俺らはどっちにしても、この先6人パーティーになるってことなんだな?」
マルクが確認するように、私を見る。
「うん、もっと早く話しておけばよかったんだけど。せっかくみんなにここまでついてきてもらってるのに、私が勇者にならなかったら、みんなの上級職はどうなるんだろうと思って。でも、エヴァ先輩が勇者になったとしても、私たちが勇者パーティーになることはできるよね?」
「でも、ルイが勇者になった場合、先輩が私たちのパーティーに加わるっていうのは、それでいいんですかあ? 騎士団の人なのに」
「いいんだよ。僕はそれほど騎士団にこだわりはないんだ。ただ、なんとなく聖騎士だからという理由で、今まで拘束されてたんだけど」
「意外だなあ。先輩って、貴族っぽくないですね」
「中途半端な存在なんだよ、聖騎士って。それほど強いわけでもないのに、特別視されるし」
ああ、その気持ち、わかる。
私もいつもそう思ってるもん。
みんなに比べると、それほど強くない。
そういえばエヴァ先輩も、騎士団のムキムキ剛腕の人たちの中では、ひとりだけ雰囲気が違う。
今まで、そんな気持ちには気づけなかったけど。
「わかりました。じゃあ、先輩、もし勇者になったら俺らのパーティーをよろしくっす!」
「ああ、こちらこそ。君たちの戦い方を勉強させてもらうよ」
マルクが手を差し出すと、みんなでエヴァ先輩と握手した。
エヴァ先輩が勇者だったらいいのにな。
でも、先輩はちょっと優しすぎる気がする。
勇者って、繊細じゃつとまりそうな気がしないから、思い込みの激しいナルシストタイプの方が向いてるんじゃないかなあ。
例えば、オーグストみたいな。