ブリザードウルフ
マルクとレアナが調子にのって角ラビをたくさん狩ってきたので、解体して串焼きにした。
久しぶりの狩りで楽しかったらしい。
最近デーモンタウロスみたいな強敵が多かったもんね。
騎士団の人たちにも串焼きを持っていったら、すごく喜ばれた。
魔導士で異空間収納を使える人がいて、その人が食料を運んでいるんだけど、保存食ばかりなんだそうだ。
交代で見張りがあるし、戦わないといけないときもあるから、立ったままでも食べられるものばっかりなんだって。
なんだか気の毒だ。
異空間収納を使える人というのは、それだけでエリートで、仕事に困ることはないらしい。
ニコラくんはなんとか習得しようと、魔導士の人にコツを教わっていた。
ニコラくんが異空間収納使えるようになったら、助かるなあ。
私もちょっとやり方を聞いてみたけど、全然意味不明だった。
騎士団の人も周辺の森などを少し見回りしてたけど、特に凶悪なモンスターは見当たらなかったようだ。
おかしなモンスターが増えていたのは、王都周辺だけだったんだろうか。
家族と話したときにも、アデル村には特に変わったことはないとのことだった。
夜になると、外は少し肌寒い。
ヴァスティアン王国にはそれほど標高の高い山はないし、内陸の国だ。
四季はあるけれど、雪が降ることはめったにない。
暖かい季節と、少し寒い季節があるぐらいのものだ。
私達は自分たちで持ってきたテントを張って、騎士団とは別に休むことにした。
これも訓練だしね。
騎士さんたちが見張りをしてくれるし、ずいぶん気楽な訓練だ。
大きいテントに男子が3人。
小さい方にレアナと私。
この旅が始まってから、レアナとは寝る前にいろんな話をする。
ほんとにレアナがいてくれてよかった。
男ばっかりのパーティーだったら、こんなに楽しく過ごせなかったと思う。
「起きろ! 敵襲だ!」
騎士の声で飛び起きた。
寝ぼけまなこで飛び出すと、森の近くで騎士団の人が戦っているようだ。
なんか魔獣が出たのかな。
「うわ、デカい……」
「ブリザードウルフみたいだ。こんな平原に出るのは珍しいんだが」
騎士団の人が、ブリザードウルフは普通高山地帯にいると説明してくれた。
スキル持ちで、口から吹雪を吐く。
下手したら凍らされてしまうので、迂闊には近寄れないそうだ。
マリアナ正教国は山の多い国なので、めずらしくはないらしい。
国境の山から降りてきたんだろうか。
「近づけないとなると、僕とルイーズさんは相性が悪いですね」
「そうなの?」
「たぶん、風系のスキルは使えないでしょう。僕の氷魔法も効果が薄いですが」
だとすると、エヴァ先輩も相性悪いよね。
氷紋剣使えないし。
レアナとニコラくんが後方支援に向かった。
ニコラくんは火魔法が得意ではないけれど、弱点克服中だと言う。
こういう時、私はいつもちょっと自分にイライラする。
火魔法も、氷魔法もうまく使えないし、かといってマルクみたいに必殺技もない。
できることは、雷撃剣で相手を麻痺させることぐらいだけど、近寄れないんじゃ意味がない。
マリアナにブリザードウルフが出るなら、必殺技がほしい。
ふと思いつく。
雷撃ってカミナリだよね?
水分に電導するよね?
ブリザードって水分じゃない?
だったら、離れているところからも、狙えるんじゃないだろうか。
高出力で雷を剣先から放出できたら。
よし。試そう。
じっとしていても仕方ない。
騎士団の人たちに当たったらいけないので、ブリザードウルフの真横に回り込む。
ブリザードウルフの周辺の木は、ブリザードで凍っている。
狙いを定めるのに、ブリザードウルフのすぐ後ろにある高そうな木を目標にする。
魔力を循環させて、雷撃剣を放つ瞬間の感覚を思い出す。
「雷撃っ!」
剣の先からほとばしるように、稲光が飛んでいく。
ズバーンと轟音とともに、大木に雷が落ちてまっぷたつになった。
当たった!
なんかすごい威力出たな、と思ったら、騎士団の人が全員唖然として私のほうを見ている。
あれ? ブリザードウルフにも当たったかな?
後ろの木を狙ったんだけど。
「一撃ですね……」
「一撃だったな……」
騎士さんたちが確認して『討伐完了』と手をあげたので、みんな戻っていく。
近寄ってみると脳天にカミナリが落ちて、頭が黒焦げになっていた。
当たってよかったけど、これ、周囲に人がいるときは危ないよね……
スキル『いかずち』ゲット。
そういう名前のスキルだったんだ。
でも、これ、使えそうだ。
火属性とか氷属性の魔物にも関係なく使えるもんね。
私は雷属性を極めるのがいいかも。
「もしかして、なんか面白いスキル覚えた?」
エヴァ先輩が興味深そうにニコニコしながら近寄ってくる。
「いかづち、っていうスキルみたいなんですけど、こう剣の先からびゅっと……」
「おいおいおい! 危ねえだろっ」
マルクに剣を奪い取られてしまった。
うかつに再現したらダメだよね。反省。
「なるほど。雷撃剣って遠隔でも飛ばせるのか。ということは僕の氷紋剣も飛ばせるのかな」
「どうでしょう」
「氷紋 !」
エヴァ先輩が剣を抜いて、びゅんっと振ると、剣先から青い光のようなものがほとばしって、飛んでいった。
当たった木がピシピシと凍りはじめて、ガシャーンと音を立てて粉々になる。
「うわ、できた」
「すごいじゃないですか! 先輩!」
エヴァ先輩も新スキルゲット。
『アイスブレイク』だって。
なんか格好いい。
もしかして、勇者スキルって、剣の先から出すのが特徴なんだろうか。
魔導士の杖みたいに。