軍事会議?
翌日、スワンソン先生が言っていた通り、私たち5人は王宮へ呼び出しがかかった。
騎士団の人が学園まで迎えにきてくれて、馬車で王宮へと向かう。
モルガン第一騎士団長とエヴァ先輩が出迎えてくれた。
呼び出しの理由は昨日の事情聴取で、騎士団の小部屋でデーモンタウロスの特徴や戦い方などを聞かれる。
敵がどんなことを話していたかとか、ゾルディアク教と関連しているような発言はなかったかとか、敵の様子を詳しく聞かれた。
私たちが昨日闘技場に行くことは、誰も知らなかったはず。
だとしたら、やつらが私たちに声をかけてきたのは偶然?
偶然にしてはデーモンタウロスまで用意していて、周到すぎる。
あの回復士はマルクが前にも闘技に参加していたことを知っていた。
なぜ私達のことを知っていたのかが、気になる。
敵の中で私たちを知っている人がいるとしたら、あの黒マントだけだ。
私は今のところ有名人でもなんでもない、ただの学生だもん。
もしスパイでもいて、私たちがずっと見張られていたならともかく、学園の中では無理だろうし。
そんなことを騎士団長さんに話した。
騎士団長の話では、昨晩からいくつかの軍事会議が行われているらしい。
そこへ連れていくが、今話したこと以外は話さないようにと釘を刺される。
いろんな思惑の人が参加しているので、誘導されないように、とのことだ。
なんか証言でもさせられるんだろうか。
「騎士学園の生徒たちを連れてきました!」
騎士団長さんがビシっと敬礼すると、室内にいた人たちが一斉にこちらを見た。
中心に議長らしき、太った年配の人。
部屋の片側に、貴族と思われるオジサマたちがずらっと座っている。
向かい側には、騎士団や魔導士団の団長クラスの人たちが座っている。
「着席しなさい。私は貴族院評議会会長のヴェルニエ侯爵である。勝手な発言はしないよう」
私たちは、座るように促されて、一番後ろの席に座る。
どこかで聞いた名前だと思ったら、ヴェルニエって侯爵令嬢様の父上じゃん。
アーモンド型のキツそうな目は、父親譲りだったのか。
それにしても、貴族院評議会ってなんだろう。
貴族じゃないので、さっぱり意味がわからない。
「では、質問のあるものは手を挙げるように」
何人かの貴族様が手を挙げて、順番に質問してくる。
「なぜ闘技場へ行ったのか」とか、「声をかけてきた闘技場の職員は知り合いなのか」とか、なんだか論点がズレたような質問ばっかり。
代表して、マルクが答えているが、いったい何が聞きたいのかと困惑した表情。
そして、ひとりが私を名指しで質問してきた。
「あなたは聖騎士だということだが、自分が狙われているという自覚はあるのか」
「わかりません。聖騎士だから狙われているというなら、そういう可能性もあるとは思いますが」
貴族たちが「それみろ」とか「やっぱり危険じゃないか」などと、ざわつき始める。
議長が机をドンドン、と叩いて、『静粛に』と諌めた。
「では、この者たちを王国騎士団の臨時騎士として、騎士団宿舎に入れることについての評決をとる」
「えっ? ちょ、ちょっと待ってください、議長。どういうことですか」
モルガン騎士団長が立ち上がる。
騎士団を預かる第一騎士団長が知らないって、どういうことよ。
「この者たちは、すでに2度も不審な者に襲撃されている。王都の中でウロウロされては困るのだ。だから騎士団で預かるようにと、前にも話したと思うが」
「いや、しかし、その話は学園で保護するということになったはずで……」
「死人が出ておるのだぞ!」
「そうだそうだ!」
「こんな生徒が学園にいたら、他の生徒が危険だ!」
言いたい放題の貴族様たちを見て、モルガン団長はため息をついた。
そういえば、そんな話、あったっけ。
あのときは私だけだったけど、今度は全員?
「マルク、どうすんの?」
「どうすんのって、これ、俺らに拒否権あんの?」
小声でマルクに確認したけれど、諦めて成り行きを見守っているようだ。
はっきり言って、私たちは貴族様に対して拒否権はない。
しかし、私たちを学園から追い出すための評決だったとは。
なんだか、バカバカしくなってきた。
もっと重要なこと話し合ってると思ってたのに。
「静かに! 評決をとるぞ。この者たちの騎士団仮入隊に賛成の者は挙手するように!」
仮、なのね。一応。
貴族様側の席の人は、全員右へ倣えという感じで、手を挙げる。
騎士団側の賛成者はちらほら、だ。
学生なんか預けられても、迷惑以外の何ものでもないよね。
あ、でも、クロード魔導士団長は賛成している。
「多数決で決定だ。ここは評議会の場であるからな」
議長は満足そうにふんぞり返っている。
貴族様たちはパチパチとやる気なさそうに拍手をした。
「あー。この件については、もう話すことはないので、下がってよいぞ」
はあ。
なんだかよくわからないけれど、頭を下げてぞろぞろと部屋を出る。
元の部屋に戻ると、そこにスワンソン先生が待ち構えていた。
「どういうことですか! 私が来るまで待つように伝えてあったはずですが!」
怒ってる。
スワンソン先生がこんなに怒ってるのは、めずらしい。
騎士団長は困ったように、頭をガシガシとかいている。
「それがなあ。貴族連中が言うこと聞かないんだよ。特に今年は侯爵令嬢様が学園にいるだろう?」
「ヴェルニエ家ですか」
スワンソン先生は苦々しそうな顔になる。
貴族の事情はわからないが、なんといっても侯爵様だからね。
先生でも反論できないんだろう。
「あなたたちはまだ、国のために軍務につく必要などないのです。嫌だったら、嫌と言っていいんですよ。私が国王陛下に嘆願してもよいのです」
「こ、国王陛下? いやいや先生、そこまでしなくても、なあ?」
マルクが皆に同意を求めたので、皆うんうん、とうなずく。
スワンソン先生の立場を悪くするようなことはしたくない。
それでなくても、ここのところスワンソン先生は学園と王宮を行ったり来たりしていて大変だ。
目の下にクマができている。
「俺は本来王国の騎士団に入れるような立場じゃねえんで、それが国のためっていうんなら構わねえ……です」
「俺もですよ。騎士になれるなら、願ってもないです」
マルクとオーグストは騎士団入りに前向きだ。
「そうですか。でも、あなたたちはどうですか?」
「私はどっちかというと魔導士団に入りたかったけど……でもみんな一緒がいいです」
「僕も同じです。僕は騎士ではないですが、それでもいいというなら皆と一緒に行きます」
「そうですね……あなたたち2人のことは、魔導士団長にお願いしておきましょう。それから、デイモントさんですが」
「私はもう逃げ道はないのかな、と思ってます。どうせ、いずれ同じことになりますよね?」
あの貴族様たちの様子だと、どうせ私たちはこのまま学園には戻れない。
スワンソン先生は、ちょっと悲しそうな顔になる。
「あなたには、国王陛下から直々に命令が出るでしょう。後で話しますので」
「め、命令ですか? 陛下から?」
「正確にはあなたと、ヴェルジェ聖騎士のふたりが呼ばれています」
なんということだ。
ついに国王陛下に呼ばれてしまった。
目立たないようにしていれば、国王になど会うことはないと思っていたのに、甘かった。
「このことは国の機密なので、今は詳しく話せません。でも、謁見には私がついていきますから、心配しなくても大丈夫ですよ」
『勇者と名乗るがよい』とか言われませんように……