騎士科Aクラス②
「よし。じゃあ、次は…もうひとりいたな。レアナ・オルゴット」
名前を呼ばれて、私のすぐ後ろの席から、小柄な女の子が前へ出る。
髪はおかっぱで、痩せ気味の少女。どう見ても騎士候補には見えない感じだけど。
「レアナ・オルゴット…平民なので、剣は持ったことありません。これから頑張ります」
ぼそぼそと小さい声で、それでも精一杯自己紹介をするレアナ。
なんだか、おびえているようでかわいそうに思えてくる。
立場的には同じ平民だけど、うちは騎士爵家だから、家に剣はあった。
父に少しは手ほどきしてもらうこともできた。
だけど、普通の家には剣なんてないよね。使う理由もないし。
きっと、職業判定で、突然「騎士」と言われて、連れてこられたんだろう。
気持ちはよーくわかる。理不尽だよね、職業判定って。
レアナはぺこり、と頭を下げると、後ろの席に戻ってきた。
振り返って、小声で話しかけてみる。
「レアナさん、私ルイーズ。ルイって呼んでくれる?」
レアナは少し驚いたような、困ったような顔になる。
「私、平民だよ? 仲良くしない方がいいよ」
なんだ。そんなこと気にしてたのか。
Aクラスはほぼ貴族だもんなあ…わかる。
「私もだよ! だから仲良くしよう!」
「そうなの?」
「うん、うちは騎士の家だけど、私は平民だもん」
「私だけじゃなかったんだ…」
「そうだよ。私も剣なんて初心者だし、一緒に練習しよう」
「わかった。私はレアって呼んで。家族もそう呼ぶから」
レアナがほんの少し、安心したような笑顔を浮かべた。
よかったよかった。きっと友達になれる。
あのアーモンド目の侯爵令嬢と友達になるなんて無理っぽいし。
ここは、12歳の子どもばかり。
前世の私は、中学時代に友達ができず、学校が嫌いだった。
だから、勉強ばかりしていた。
成績さえよければ、親も同級生も何も言わなかったから。
でも、せっかく生まれ変わったんだから、今回は優等生は目指さない。
友達つくって、少しでも楽しい学園生活を送ろう。
できれば、卒業までに彼氏を見つけたいという願望もある。
「こら、そこ。私語はやめろ」
怒られようが、劣等生になろうが、退学になろうが、別にいいもんね…と思っていたら怒られた。
いけない、レアナちゃんを巻き込んでしまった。
「ごめん」と囁いて、前に向き直る。
残っていた人たちの自己紹介を聞いていると、貴族じゃない人も何人かはいるみたいだった。
裕福な商家の次男とか、私と同じような騎士爵家の三男とか。
「一応言っておくが、この学園では身分や爵位による差別は許されない。皆同じ立場で協力し合うんだぞ」
ワルデック先生が、建前とも正論ともいえるようなことを言う。
だけどね、世の中平等なんてあり得ないことは、よーく知ってます。
身の程をわきまえて行動しよう。
とりあえず平民仲間を探すところからスタートかな。