モンスター闘技場
モンスター闘技場の開催日をマルクが調べてくれて、全員で行くことになった。
今回は偵察なので、見るだけ。
マルクが言うには、観客席のガラが悪いので、女子だけで行くのは良くない、と。
オーグストは教会から賭け事を禁止されているので、ちょっと抵抗があったみたいだけど、オーグストの入場料はマルクが払う、ということになった。
一応、建前上ね。
闘技場は騎士団の宿舎から割と近い。
闘技大会が開催されていないときは、騎士団の訓練に使われることもあるようだ。
騎士団の訓練場には訓練用のモンスターがいるんだけど、檻が狭いので、入り切らないモンスターは闘技場の檻に入れてあるらしい。
闘技大会のモンスターも、そこから出してるんだって。
なので、王都周辺の森などで捕まえたモンスターが出てくるとのことだった。
マルクの言うとおり、シルバーウルフやベアファングが出てくるんだったら、私たちでも勝てそうだ。
闘技場は円形の会場で、周りに観客席がある。
前世でいうところの、野球場みたいなものだ。
屋根がないので、雨天は中止、ということだったけど、幸いにも晴れた。
そういえば、なぜだかわからないけど、王都は雨が少ない。
アデル村は結構雨の日があったんだけどな。
今日は全員軽装だけど、一応帯剣して、冒険者風装備だ。
まわりの観客に舐められないように、とマルクが言ったからだ。
なんだか私もレアナも、最近このスタイルに慣れてきた。
いつ戦いになるかわからないしね。
入り口で入場料を払おうと思って並んでいたら、前の方に並んでいた人たちが、なにやら騒ぎ出した。
「中止ってどういうことだよっ!」
「挑戦者が逃げたんじゃねえか?」
中から闘技場の職員みたいな人が出てきて、説明している。
今日の挑戦者の人が、怪我をして出場辞退したみたい。
ついてないなあ。
せっかく来たのに。
「あなた方は、冒険者パーティーですか?」
「えっと、そうですが……何か?」
仕方がないから帰ろうとしていたら、職員の人が話しかけてきた。
「実は本日の出場者が辞退してしまいまして、少々困っているのですが、よかったら出場しませんか?」
「いや、そんなこと急に言われても……」
「そちらの方は、以前出場していたように思いますが」
マルクが突然指をさされて、困惑している。
「本日は観客数も多く、賞金もはねあがっておりますよ」
「いや、でも俺、エビルコング倒せねえし」
「なんならパーティー全員で出場していただいてもいいですよ? 1人1体ずつということで」
「全員でか……」
エビルコングって前にマルクが面倒なやつって言ってたっけ。
なんかスキル持ってて、地面をボコボコにするから近づけないとか。
でも、ニコラくんなら遠距離攻撃できるからいけるかも。
「どうするよ?」
「俺はひとりで戦うの無理だぞ」
「シルバーウルフぐらいならどうだ?」
「まあ、それぐらいなら……」
オーグストは消極的だ。
基本オーグストは守備専門だもんね。
「ニコラはどうだ? エビルコングやれそうか?」
「どうでしょう。攻撃はできると思いますが、負けたらどうなるんですか?」
「負けたらそこまでの賞金がパアになるだけだけどな」
「賞金かあ。いくらぐらいもらえるのかな」
レアナは賞金にちょっと惹かれてるみたい。
私は、エビルコングの後に何が出てくるのか気になる。
「本日は3戦目以降はすべてAランクモンスターです」
「……せっかく来たんだし、やってみるか?」
マルクがだんだん乗り気になってきた。
もともと経験値稼ぐのに、ひとりで出場してたぐらいだもんね。
「そうですか、そうですか。では、どうぞこちらの入り口から」
職員の人がニヤニヤして揉み手をしながら、通用口へ案内してくれる。
なんだか怪しい勧誘の人みたいな雰囲気だ。
控室に案内されて、作戦会議。
「じゃあ、最初はオーグストな」
「了解」
通路からちらっと闘技場をのぞいたら、すでに魔獣の檻が用意されていて、最初はやっぱりシルバーウルフだ。
ポルトの森でオーグストも戦ってたから、大丈夫。
「で、次がルイーズでベアファングな。その次がニコラ」
「わかりました」
3番目でもしニコラくんがエビルコングを倒せた場合、次のモンスターが出てきたのを見てから、マルクが出るかレアナが出るか決めようということになった。
レアナは火魔法も使えるけど、剣スキルも持ってるから万能型だ。
だけど、巨大なモンスターだったらマルクだよね。
マルクは前回出場したときは、3戦目の前に棄権したから、それ以降のモンスターは見たことないらしい。
最悪危なかったら、棄権しようということにした。
元々出場予定じゃなかったんだし、無理はしないことに。
「お待たせしました。本日の挑戦者を紹介します! Bランク冒険者パーティー『時限』の皆様、5名での挑戦です!」
わーっと歓声があがる。
結構満席だ。
緊張してきた。
「オーグスト、頑張れ!」
「まかせとけっ」
歓声で元気になったのか、オーグストが飛び出していった。
闘技場の中央に、シルバーウルフが放たれた。
……が、キョロキョロしていて、襲いかかってくる様子はない。
檻の中にいたから、あんまり元気がないんだろうか。
オーグストが真正面に走って、斬りかかる。
オーグストが戦ってるの、ちゃんと見るの初めてだけど、本当にきれいな剣筋だ。
正統派の剣士って感じ。
2、3度斬り付けただけで、あっけなくシルバーウルフはひっくり返って戦意喪失した。
ま、予想通りだよね。
回復係が出てきて、また檻に入れていたので、死んではいなかったんだろうな。
オーグストが一瞬で勝ったので、ちょっと緊張が解けた。
次は私だ。
これも予想通り、ベアファングが出てきた。
森で戦ってたやつよりは、少し小さめな感じ。
「おーい、お嬢ちゃん、大丈夫かあ?」
ヒューヒューと野次が飛ぶ。
女が出るの、そんなに珍しいのかな。
檻から出たベアファングが、まっすぐにこっちを睨んで走ってくる。
落ち着いて、まずは足止めだ!
「雷撃剣っ!」
胸の当たりに斬り付けて、雷で麻痺攻撃が決まった!
同時に左手でエアスラッシュを2、3発、腹部にお見舞いしてやった。
この攻撃、ワルデック先生とさんざん練習したから、一度やってみたかった。
思った以上に最近エアスラッシュの威力が上がっていたのか、背中に貫通してしまったみたい。
すかさず次の攻撃!と思ったら、ベアファングは口から泡を吹いて倒れてしまった。
あれ? 雷撃剣で気絶してたのかも。
あっけなく勝ってしまった。
場内が一瞬シーンとして、それからわーっと歓声が戻ってきた。
「お嬢ちゃーん、よくやった!」
「嫁にきてくれー!」
好き勝手な野次を飛ばしてるオッサンたちに、一応サービスで手を振ってあげた。
お金払ってくれてありがとう。
いよいよ、エビルコングだ。
見た目は大型のゴリラそのまんまって感じ。
「ニコラ、いけるな?」
「大丈夫ですよ。僕は近寄りませんから」
杖を手にゆっくり歩いて行くニコラくん。
案外落ち着いてるなあ。
初めての敵なのに。
エビルコングが奇声をあげて、威嚇を放ってくる。
すごい圧だ。空気がビリビリする感じ。
ニコラくんが足をとめて、両腕をあげた。
「高速連射陣!」
大きな魔法陣が浮かび上がると、会場が静まり返った。
魔導士、珍しいのかな。
「アイスランス! アイスランス! アイスランス!」
30本ぐらいの氷の矢がエビルコングを蜂の巣にする。
すごい。ニコラくんの容赦ない攻撃。
まるで大型散弾銃みたいだ。
エビルコングは手も足も出せずに、後ろ向きにひっくり返った。
動く様子はない。
くるりと踵を返して、スタスタと戻ってくるニコラくん。
観客はあっけにとられているのか、静かだ。
ざわざわしている。
「ニコちゃん、高速連射、すごいね! いつの間に覚えたの!」
「特Aになってから、スワンソン先生に習ったんですよ」
そっか。ニコラくん、Bクラスだったときは、攻撃習ってなかったんだもんね。
これからもっと強くなりそう。
その時、ふとマルクが険しい表情をしていることに気づく。