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誘拐事件

 魔獣の祠は一時的にスワンソン先生が封印したんだけど、すぐにまた魔獣が湧くようになってしまったらしい。

 誰かがあれから一晩の間に、スワンソン先生の転移陣を壊したんだろうか。

 討伐にはギルドではなく、王国の騎士団が調査を兼ねて向かうらしい。

 エヴァ先輩から連絡があって、第一騎士団と、クロード師団長さんが行くそうだ。


「僕も行くけど、ルイちゃんも行かない? 学園の近く通るし」

「私はやめときます」


 エヴァ先輩から転移メモがきて、ピクニックにでも行かないかというように、気軽に誘ってくる。

 でも、私は今回はパス。

 前回で懲りたのだ。

 試験ダンジョンの事件で、調査にわざわざついていって、黒マントと出会ってしまった。

 

 王国の騎士団についていく理由がないし、わざわざ面倒事に首をつっこみたくない。

 たぶん、これって魔獣の被害に合っている近隣の住民を助ける、っていうイベントだよね?

 今回はエヴァ先輩が行くんだし、私が行かなくてもいいような気がする。

 何より、直感が「行かない方がいい」と言っている。

 敵の狙いが聖騎士かもしれないのに、2人揃って行くなんて、思うツボじゃん。


「デイモントさん、明日騎士団が例の祠に向かう話は聞いていますか?」

「スワンソン先生も行かれるんですよね?」

「転移陣がどうなっているのか気になりましてね。ずいぶん簡単に破られたもので」


 そうなのだ。

 あのスワンソン先生の魔法陣を簡単に破るなんて、下級の魔獣ではないと思う。

 もしかしたら黒マントの仕業かもしれない。


「あなたは騎士団に同行するのですか? 騎士団長がそんなこと言ってましたが」

「えっ? 行かないですよ。断りました」

「オルゴットさんは魔導士団に同行するようですが……」


 レアナも行くの? 聞いてないよ!

 危なくないんだろうか。

 クロード団長が一緒だったら、大丈夫か。

 レアナ、最近クロード団長の話ばっかりしていて、すっかりファンだもんなあ。


 スワンソン先生の話では、レアナはクロード団長のお気に入りなんだそうだ。

 いつの間に連絡を取り合っていたんだろう。

 騎士団や魔導士団は、優秀な生徒を見つけると囲い込みに来る。

 困ったものだと、ため息をつくスワンソン先生。


 「第一騎士団もあなたに目をつけているのです。いずれ王国騎士団に入ると決めているのならいいのですが、そうでないならあまり関わらなくていいでしょう」


 新人争奪戦か。そんな政治的な理由で引っ張り出されても困るよ。

 うん、レアナには悪いけど、やっぱり私はパス。

 

 私は、部屋に戻ってから一応レアナを止めたんだけど、レアナはすっかり乗り気になっていた。

 王国魔導士団に憧れていて、気に入ってもらうチャンスだと言うので、それ以上止めなかったけど。

 そういえば、レアナは両親から出世を期待されてるんだっけ。

 

 久しぶりに、ふたりで回復ポーションと魔力回復ポーションをつくって、レアナを送り出した。

 でも、すぐに私は後悔することになったのだ。



「レアが誘拐されたなんて……なんでそんなことになったんですか!」


 ワルデック先生から話を聞く、私とパーティーメンバー。

 魔獣の祠からは、私たちが行ったときと同じようにモンスターが湧いていたらしいんだけど、ベアファングとシルバーウルフ程度で、それほど強いのはいなかったらしい。

 騎士団が討伐しながら、クロード団長が祠を調べようとしていたら、レアナだけが忽然と消えたという。

 レアナのことだから、たぶんクロード団長にくっついていると思ってたんだけど。


「スワンソン先生が今調べてくれている。俺も今から行こうと思ってるんだが」

「私たちも行きます!」

「俺らも行くぜ!」

「まあ……お前らなら心配してそう言うと思ったがな。スワンソン先生からは連れてくるな、と言われてるんだが」

「行きます!」


 ああ、こんなことなら、最初から一緒に行けばよかった。

 まさか、私と間違えられてさらわれたんじゃないよね?

 でも、エヴァ先輩は無事だというし。


 

 それからすぐにポルトの森に駆けつけて、祠に向かうと、スワンソン先生たちが祠の内部に突入しようとしていたところだった。

 中からは出てこれるが、外からは入れないような仕掛けがあって、それを壊すのに手間取ったらしい。

 スワンソン先生は私たちを見ると、呆れた顔をしてワルデック先生を睨んだが、何も言われなかった。


「全員、絶対に離れないでくださいね。すでに騎士団は中へ入っています」


 スワンソン先生とワルデック先生に挟まれて、内部に入ってみる。

 大きめのエレベーターぐらいの広さの部屋があって、下へ続く階段があった。

 降りてみるとダンジョンになっていて、少し先で騎士団の声がする。


「ルイちゃん! こっちこっち」


 エヴァ先輩がいた。

 駆け寄って状況を聞く。


「この先で道が二股になっているから、騎士団は二手にわかれるんだけど」

「ふむ。左側の道の方が奥が深いですね。モンスターの反応はどちらも同じぐらいです。たいしたことなさそうですが」


 ニコラくんが索敵をかけて教えてくれる。

 洞窟内にも魔獣はウロウロしていたようだが、近くにいたやつは騎士団が討伐したようだ。

 

「たぶん、左だよね」

「エヴァ先輩もそう思います?」


 まあ、こういう時はだいたい遠い方が正解な気がする。

 近い方は行き止まりで、宝箱があったりするかもだけど。


「先生、左に行きましょう!」


 スワンソン先生は、理由を聞かずに同意してくれた。

 エヴァ先輩は私たちのパーティーについていくと言う。


「なぜレアを狙ったのかな。聖騎士と間違えたとか?」

「いや、違うと思う。第一騎士団に僕がいることぐらい、敵は知ってるだろうし」

 

 ザコを倒しつつ進むと、予想通り、下へ続く階段があった。

 魔物が湧いてくる様子はない。

 ということは、魔物が湧く場所は、分かれ道の右側の方だったということか。

 

 階段を降りたところで、スワンソン先生が索敵をかける。

 広めの部屋があって、敵は2体。

 魔力量から想像して、スキル持ちの魔獣らしい。

 スワンソン先生とワルデック先生が先に突入する。



「ゲゲゲゲ……ナンダ、ヒトガキタゾ」

「コロス……コロスゾ」


 黒マントではなかった。

 牛人間のような、角の生えた魔物が2体。

 背中には悪魔みたいなおぞましい翼が生えている。

 私たちの姿を見て、敵が魔法陣を展開した。


「ルイっ! そいつら、魔法効かないよっ! 物理攻撃か剣スキルで!」

「レアっ! 無事でよかった!」


 部屋のすみっこに、大きな檻があって、その中に女の子が3人。

 ひとりはレアナだ。

 こいつら、女の子を狙った人さらいだったのか。

 許せない。


「なら、俺が相手してやらねえとな」

「デーモンタウロスは炎耐性と身体強化スキルがありますが、攻撃は斧だけです! デイモントさん、あなたたちはオルゴットさんを!」


 マルクの目がキレている。

 前衛にワルデック先生とマルク、エヴァ先輩。

 私は先生とマルクに身体強化をかけて、レアナのところへ駆け寄った。

 

 檻には簡単な鍵がかかっていたけど、ニコラくんが壊してくれた。

 

「ありがとう! 助けにきてくれて」

「心配したよ! もう大丈夫。 そっちの子たちは?」

「あ、この子たち、ふたりとも聖女様だよ。近くの村の」

「とにかく、逃げるにしてもそのふたりを守らないと」


 私とレアナでひとりずつ守りながら、後衛につく。

 今メンバーと離れるのは危険だ。

 他にも敵が潜んでるかもしれないし。


「ニゲルゾ……イケニエガ」

「ニガスナ、イケニエ」


 マルクとワルデック先生が2体の牛人間に斬りかかっているけど、異常に鎧が硬そうだ。

 だけど、あんまり素早くないし、知能も低そうな感じ。


「氷紋剣!」


 エヴァ先輩の剣が、1体の牛人間の胴体をかすめる。

 胴体部分を覆っていた鎧が、パリパリと凍っていく。


「今ですっ!」

「おうよっ! 斬鉄剣っ!」


 マルクが渾身の一撃を放った。


「ギギギギ……オノレ」

「兜割りっ!」


 胴体を切られても反撃してくる敵を、マルクが頭からまっぷたつにした。

 やった! 1体倒した。

 エヴァ先輩がもう1体の方の鎧も凍らせる。

 マルクの攻撃を見ていたワルデック先生が、兜割りで一撃で倒した。

 すごい威力。


 敵が倒れた後ろに転移陣を発見したスワンソン先生が、何か調べている。


「この転移陣から魔物が出てくる様子はないですね。としたら、どこへつながっているのか」

「そりゃ、敵さんの親玉のところじゃないか? 深追いは禁物だぜ?」

「わかっていますよ。あなたとは違います」


 スワンソン先生は転移魔法陣を浮き上がらせると、無効化させた。

 光を帯びていた魔法陣は、ただの模様になって、地面に落ちる。

 収納袋から紙を取り出したスワンソン先生は、模様を紙に複写して持って帰るようだ。


「オルゴットさん、無事でよかった。とにかく、戻りましょう。追手がこないとも限りません」


 囚われていた聖女様たちは、怪我もなく、怯えてはいたが元気そうだ。

 騎士団と合流し、王宮で保護することになった。

 

 翌日、エヴァ先輩からの連絡で、他国でも聖女様がさらわれる事件が相次いでいるということを知った。



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