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魔獣の祠

 待望の校外学習の日がやってきた。

 午後からポルトの森へ向かって、ギルドの依頼のベアファング討伐。

 最低3体で依頼完了だけど、何体でも買い取ってくれるらしい。

 まあ、マジカルバッグで持てるだけ、マルクが実家に持っていく予定だけど。

 

 ワルデック先生が、授業として学園が責任を持つと言って、依頼を受けてくれた。

 ポルトの湖まで行って、夕方月見草が開いたらさっさと採取して帰る予定だ。

 さすがに野営はダメだと言われてしまった。


 角ラビがぴょこぴょことはねているのを眺めながら、森へ向かう。

 最初の頃はあんなに討伐に苦労していたのに、今はカワイイもんだ。


「ねえ、マルク。モンスター闘技場って、どんな魔獣が出てくるの?」

「日によって違うけどなあ。俺が出た日は2戦目がベアファングだったぞ」

「倒せた?」

「おうよ。一撃だ!」


 闘技場には回復魔術を使える人が控えていて、人間も魔獣も勝負がついた時点で回復魔法をかけるんだって。

 毎回戦わされる魔獣も気の毒な気がするけど。

 中には強い人間とは戦いたくなくて、戦意喪失する魔獣もいるんだとか。


「2戦目まではたいしたことないんだけど、3戦目ぐらいになるとスキル持ちのモンスターがいてよう。エビルコングっていうやつが面倒なやつでさあ」


 コング、ってゴリラみたいなのかな?

 魔獣にもスキル持ちがいるのか。


「どんなスキルなの?」

「威嚇とヘルドラム。弱いやつだと、威嚇だけで立てなくなるぜ」

「それは精神操作系のスキルですかね」

「俺は難しいことはわかんねえけどよう。ヘルドラムは、こう、ドスドスっと胸を叩く感じだな。すると、地鳴りがして地面の土がボコボコになるんだよ。これが戦いにくいのなんの」

「ふむふむ、なるほど、土系の魔法ですね」


 ニコラくんとマルクって、正反対で面白いコンビだ。

 会話が成立してなさそうで、結構仲がいい。


 

 草原を歩いていると平和な感じだったけれど、森に入ると途端に空気が変わる。

 まだ昼間なのに、コウモリの集団がバサバサと飛んでいたりする。

 前に来たときは、そんなのいなかった気がする。


「コウモリのくせに人間様に飛びかかるとは、どうなってんだ」


 ワルデック先生が、うっとうしそうに剣を振り回してコウモリを叩き落としている。

 途中で百足ヘビも出てきたけど、なぜか攻撃的だった。

 空腹なのか、気が立ってる感じ。

 百足ヘビっておとなしいって、以前にマルクが言ってたはずだけどなあ。


「湖が見えてきましたね」

「ああ……なんだアレ」


 静かだったポルトの湖は、とんでもないことになっていた。

 デビルフィッシュが繁殖しすぎて、そこいらじゅうで共食いをしている。

 湖の向こう側で、ベアファングがデビルフィッシュを捕まえようとして暴れているのが見えた。


「とりあえず、俺が行ってくるぜ!」


 マルクが飛び出したので、ワルデック先生が後を追いかける。

 ふたりだったら、大丈夫だよね。

 少し離れたところで見守っていたけど、マルクの言っていたことは本当で、ベアファングは一撃だった。


「しかし、この光景は異様だな……」


 戻ってきたワルデック先生が、顔をしかめながら湖を眺めている。

 デビルフィッシュで埋め尽くされた湖には、近寄りたくない感じ。


「とにかく、さっさと採取してしまいましょう」


 月見草が開き始めているので、私とレアナはニコラくんを手伝う。

 ワルデック先生とマルクとオーグストは、森の奥を偵察しに行った。


 数分もしないうちに、マルクとオーグストが慌てた様子で駆け戻ってくる。


「おいっ!みんな! ヤバいぞ。戦闘態勢っ」

「どうしたのっ?」


 と、聞くまでもなく、マルクとオーグストの後ろから、ベアファングが数体追ってくるのが見えた。

 その後ろからは、シルバーウルフの群れ。10体ほどいるだろうか。


「ベアファングは俺がやる。お前ら、シルバーウルフ頼む!」


 ワルデック先生とマルクがふたりがかりで、ベアファングを次々と倒す。

 オーグストも、シルバーウルフを一撃で切り裂いた。


「爆裂剣っ!」

「エアスラッシュ!」


 私とレアナもシルバーウルフぐらいなら余裕だ。

 瞬く間に、魔獣の死体が積み上がっていく。

 

「おい、デルビー。スワンソン先生に連絡を入れてくれ」

「わかりました。何と連絡を?」

「魔獣の祠を発見したと」

「わかりました」


 ワルデック先生の指示で、ニコラくんが転移メモでスワンソン先生に連絡している。

 魔獣の祠ってなんだろう。

 とにかく撤退しようにも、次々森の奥から魔獣が出てくるので、戦い続ける。

 

「この奥に、魔獣が湧いてくる場所があったんだよ。そこをなんとかしねえと、キリがない」

「スワンソン先生が、こっちへ向かうそうです!」

「そうか、なら、ここで待たねえとな」


 ワルデック先生とマルクが顔を見合わせてニヤリと笑う。

 そして、魔獣の群れの中へ飛び込んでいった。

 群れからはぐれたヤツは、私とレアナで仕留める。


 少しずつ森の奥へ進んでいくと、そこに小さな石でできた祠があった。

 なぜ、そんな小さな祠から大きな魔獣が出てこれるのか不思議だけれど、確かにそこから次々と出てくる。


「召喚してますね……たぶん祠の中に魔法陣があるのでは」


 ものすごく大変だけど、倒せないほどの敵は今のところいない。

 これって、すごい経験値稼ぎになるかも?

 果てしなく湧いてくるんだもん。


「レア、経験値稼ごう!」

「オッケー!」


 後ろで待っているのはやめて、積極的に戦いに参加することにする。

 前から出てくる敵を次々倒すだけなので、まるでベルトコンベアーだ。

 1体倒すと1体出てくるので、本当にキリがない。

 が、経験値のために黙々と倒す。


「おい、これ、結界かなんかで閉じ込められないのかっ?」

「無理です!」


 オーグストとニコラくんがハモった。

 仕方がないので、交代で前に出ては倒す。

 30分もしないうちに、スワンソン先生が馬に乗って駆けつけた。


「なんですか、これは……」

「お、待ってたぞ!」


 ワルデック先生は上機嫌で血だらけの手をひらひらと振った。

 すでにベアファングの死体は10体以上ある。


「あなたたちがいる場所には、なぜいつもこういうことが起きるのですか」


 スワンソン先生は大きなため息をついて、馬から降りてきた。

 あたりに死体が多すぎて、馬が怯えている。


「あれですね? 祠というのは。どうやら中に入るのは無理そうですね」

「あの中は古代魔法陣でしょうか」

「恐らくそうでしょう。他に考えられません」


 スワンソン先生は結界で閉じ込めようとしてみたが、すぐに魔獣でいっぱいになってしまい、破裂してしまった。

 溢れ出た魔獣をまた全員で倒す。


「ふーむ。あまりやりたくないのですが、仕方ないですね。異空間転移陣!」


 スワンソン先生が祠の入り口に魔法陣を貼り付けると、魔獣がピタリと出てこなくなった。

 ニコラくんはスワンソン先生の魔法陣を見て、目を輝かせている。

 『あまりやりたくない』理由は、魔法陣の上に魔法陣を二重に置くのを、スワンソン先生は嫌うんだそうだ。

 理由は、無駄だから。

 スワンソン先生らしい。

 

「とりあえずこれで出てこないとは思いますが、この転移陣が解除されれば、また同じことになるでしょう。応急処置です」


 スワンソン先生は、出てきた魔獣を異空間に飛ばしているだけのようだ。

 根本的に解決するには祠の中の魔法陣を解除しないと、魔獣は生まれ続けるという。

 中を確認したかったが、祠を壊すとどうなるか予測できないので、後日また調査隊を送ってもらうとスワンソン先生は言った。

 


「ギルドに連絡して、ここを立ち入り禁止区域にしてもらいます。あなたたちは、きちんと後片付けして、すぐに帰るように」


 後片付けって……

 どうすんの、この山積みの魔獣。



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