今後の予測
騎士団の訓練場は、エヴァ先輩が言ったとおり、人はまばらだった。
聖騎士の訓練も大事だけど、まずは気になっていたことを聞いてみることにする。
エヴァ先輩なら、この先のストーリーを知っているはずだ。
直近で起こりそうなイベントは聞いておきたい。
「ダンジョンに怪しい魔物が現れたり、隣国の神殿が襲われたりっていうのは、確かにゲームの進行にもあったイベントなんだけど。ただ、僕の知ってるストーリーとはちょっと違うところもあるんだよねえ」
「たとえば、どんなところですか?」
「まず、クリストフの剣なんだけど、この世界にはレプリカがあるでしょ? ゲームではそんなのなかったんだよなあ……」
「じゃあ、ゲームではクリストフの剣は存在しなかった?」
「いやいや、あるんだけど、出てくるのはもっと物語の終盤なんだよね。勇者がかなり強くなって、ラスボスと戦うちょっと手前で、やっと手に入る感じ」
「ふーん。やっぱり私たちが勇者になってないから、ストーリーも変わるのかなあ」
「本当はリリトの神殿を勇者が救うはずだったんだけど、壊滅しちゃったしね」
えっ、リリトの神殿って、勇者がいなかったから壊滅しちゃったの?
それはなんか申し訳ない気もするけど、今の私に救えたとは思えないし、ごめんなさい。
「エヴァ先輩の予測では、次にどんなことが起きると思ってる?」
「うーん。何かあるとしたら、次は多分マリアナ正教国の大神殿かなあ。他の国にはそんなに大きな神殿はないからね」
マリアナ正教国の神殿の形が、記憶に残っているゲームの神殿と似ているそうだ。
屋根が玉ねぎみたいな形をしている神殿で、この世界ではめずらしい建築様式なんだって。
「マリアナ正教会って、職業判定の水晶をつくってるところなんだよ。だから、職業関係のイベントはあそこかな、って思ってるんだ」
「転職?」
「そう。あのレアナちゃんって、魔導戦士だろ?」
私は、メンバーは全員上級職がステイタスに表示されているけれど、何か制限がかかっていて、今は普通の騎士や僧侶だということを、改めて説明した。
「その神殿に行ったら、レアは魔導戦士になれるかも?」
「それは行ってみないとわからない。でも、もしそうなら、いずれ行くことになるんじゃない?」
「もしかして、私も聖女とかに転職できたりするかなあ?」
「ははっ。それは無理だよ。転職って基本上位互換だから。上級職にしかなれないよ」
「そうかあ。それは残念」
転職できるって聞いたら、みんな行きたがるだろうなあ。
私以外はみんな上級職に憧れてるもんね。
だけど、今の私たちは、国外に出る手段はない。
平民が国外に行くなんて、夢のまた夢だ。
可能性としたら、A級冒険者パーティーにでもなって、依頼を受けて行くぐらいか。
もしくは何か事件でも起きて、行かざるをえなくなるのか。
「マリアナ正教国に行くのはまだ先だとして、今やっておくことはある?」
「そりゃあ、やっぱりまず経験値と、お金稼ぎかな。お金は僕が少しぐらいならなんとかできるけど、経験値は上げておかないと、いきなりイベントが起きたら死ぬでしょ」
お金稼ぎか。そう言えば最近ポーション作りもしてないし。
角ラビ狩りもしばらく出れそうにないしなあ。
経験値かせぎなら、モンスター討伐するしかないんだけど、どうしよう。
学園の中でいくら訓練していても、レベルは上がらないんだった。
「武器や防具も必要だよ。僕らは騎士団から配給されてるけど、キミたちは学園の訓練用の防具でしょ? 少なくとも王都で買える上位の防具ぐらいは持ってたほうがいいかな。聖騎士の防具なら、僕がなんとかしてあげてもいいよ」
「それはあまりにも申し訳ないです」
「いいよ。だって、連絡用の転移メモみたいな貴重なものをもらったし。それと、ルイちゃんが持ってるマジカルバッグが欲しいんだよね。なかなか売ってなくて。なんとかならない?」
「マジカルバッグなら作れます!」
「だったら、物々交換ってことでどうかな?」
とりあえず、エヴァ先輩はお金持ちみたいだし、ここは甘えておこう。
メンバーの防具にもお金はかかるしね。
「あとは、やっぱりスキルだよね。ちょっと訓練する?」
「はい!もちろんです! エヴァ先輩が使ってるスキル、教えてもらえますか?」
「僕はね、水系の魔法が得意」
へえ……同じ聖騎士でも得意な魔法って違うんだ。
「聖騎士って基本、攻撃魔法使えるんですか?」
「うん、練習したら使えた。ただ、火魔法はあんまりうまくいかなかったな」
「私は、攻撃魔法は今のところエアスラッシュだけ。風魔法ですね」
「めずらしいね。見せて見せて」
的に向かって、エアスラッシュを放ってみせる。
最近スワンソン先生の訓練を受けて、だいぶ威力があがった。
学園にあるのと同じような、人型の的にズバっと切れ目が入る。
「僕のと似てる。見てて。ウォーターブレード!」
水が刃物のような形で飛んでいって、的にスパっと傷がつく。
確かに刃の形が違うだけで、似てる。
「そんなに威力はないけど、これ便利なんだよ。こうやって、刃物の代わりに使えてさ」
手から水の刃物を出して、エヴァ先輩は何かを切るような真似をする。
ナイフがないときとかに便利だよね、確かに。
「僕も使えるかな……エアスラッシュ!」
エヴァ先輩が試すように、エアスラッシュを放った。
結構な威力で的に当たった!
「すごい! 一発でできるなんて。私なんて最初は風がそよぐだけだったのに」
「基本が似てるからね。空気で薄い刃物を飛ばすイメージでしょ? これも便利だよね。目に見えないからよけにくそうだ」
「そうなんです! 私は無詠唱で使ってます。近距離戦でも」
「無詠唱? へえ、やったことなかった」
騎士団や魔導士団では、無詠唱は禁止されているそうだ。
周囲の人が危ないから、ということだけど。
それからエヴァ先輩は、ウォーターブレードのコツを教えてくれた。
1時間もしないうちに、私もウォーターブレードを覚えて、スキル欄にも表示された!
似たようなスキルだけど、増えるのはやっぱりうれしい。
水を出せるようになったので、出先で水に困ることもない。
ちょっとした汚れを落としたりするときにも使えそうだ。
レアナがうっかり何かを燃やしちゃっても、消してあげられるよね。
「剣スキルは何か持ってる?」
「聖十字剣と、雷撃剣です」
「雷撃? それ、勇者っぽいなあ。僕が使えるのは氷紋剣」
見せてもらったけど、氷紋剣というのは攻撃したところから放射状に凍る。かっこいい。
私の雷撃剣と同じで、一時的に敵を止めるのに使えるという。
お互いに、雷撃剣と氷紋剣を習得することを目標にしようという話になった。
多分、同じ聖騎士なんだから、練習すれば使えるんじゃないかと。
聖騎士に関する文献は少ないから、使えそうなスキルの情報はうれしい。
練習をしていると、レアナが騎士さんに連れられて戻ってきた。
「聞いて聞いて! あの、団長さんすごいんだよっ!」
レアナは超上機嫌で、踊りだしそうな勢いだ。
火魔法を色々教えてもらったらしい。
すっかり団長さんのファンになってしまった様子だ。
冷たそうな感じの人だったけど、案外面倒見がいいのかな。
「私の持ってる剣のチョイスがいいって褒められた。私、剣スキル覚えたんだっ」
レアナの新しい剣スキルは、爆裂剣。
斬ると同時に、爆竹が弾けるように、複数の爆発が起きる。
レアナが持っている剣は、火魔法をまとわせるのに向いている剣だったんだって。
ガルダラの店のおすすめを買っておいてよかった。
今日の訪問は得るものが多かったなあ。
エヴァ先輩に、お礼のマジカルバッグ作らなくちゃ。