まさかの共通点
私が騎士団に保護してもらうかどうかは、少し考える時間をくれるということだった。
スワンソン先生と団長さんは、込み入った話があるということで、別室に行ってしまった。
聖騎士同士、話したいことがあれば話しておくといい、と言って。
エヴァ先輩は、ずっと私と話したいことがあって、わざわざ団長さんに頼んで連れてきてもらったようだ。
「ルイーズさんだっけ? 大変なことになってるよね」
「そうですね……私たち、ふたりとも狙われているんでしょうか?」
「たぶんね。勇者候補だし」
エヴァ先輩は、当たり前のように勇者ということを口にする。
「僕か、キミが勇者になる可能性があるという話なんだけど。僕は勇者はキミなんじゃないかと思ってるんだよね」
「えっ! なぜですか? 聖騎士だからっていうなら、どっちも可能性あるじゃないですか!」
私が強めに反論したので、エヴァ先輩は驚いたようだ。
それから、ちょっと困った顔になって、何かを思案している。
「うーん……キミってどこかの小さい村の出身なんだよね? でも、僕は貴族だ」
「そうですけど、それが何か?」
「それにキミ、この間ダンジョンでA級モンスターを討伐したんでしょ? 仲間のパーティーと一緒に」
「それはたまたま成り行きで。だからって勇者とは限らないじゃないですか」
「ところがさあ。勇者になる人って、そういうストーリーだって決まってるんだよ。僕はそんなモンスターを討伐したこともなければ、冒険者パーティーを組んだこともない」
そう言われてみれば、私の方がRPGの王道ストーリーに近いかもしれないけど。
勇者が貴族だった、っていうRPGがあっても別に不思議じゃないんじゃないの。
このキラキラ王子様っぷりは、乙女ゲームなら主役級だと思うけど。
「僕はさあ。これまで、たいした事件に巻き込まれてないんだよ。おかしいと思わない? 勇者候補なのに。そんな時に、キミっていうもうひとりの聖騎士が出てきた」
「あの、もしかして勇者になりたいんですか?」
「いやいや、そんなだいそれたことは思ってないよ。ただ、キミがもし勇者になったら、僕はどうなるのかなって」
「そんなこと。だってエヴァ先輩は貴族で王国騎士団所属で、すでにエリートじゃないですか! 勇者になんかならなくても、これからいくらでも幸せになれるじゃないですか」
「ふふっ。キミはいい人だね。だけど、僕は知ってるんだ。どっちかが勇者になったら、もうひとりは消える。勇者はふたり要らないからね」
「どういうことですか?」
「こう言ったらわかるかな? チュートリアルなんだよ、ここまでが」
「チュートリアルって?」
どこかで聞いたような単語だ。
しかも前世で。なんだっけ。チュートリアルって。
「やっぱりわからないか。もしかしたらって思ったんだけど」
エヴァ先輩は、少し悲しそうな残念そうな顔になった。
「僕はね。前世の記憶があるんだ。だから、この世界がどうなるか知ってるんだよ」
えええっ! 今なんつった!
も、も、もしかして、エヴァ先輩、私と同じ転生者?
というか、聖騎士は皆転生者?
ふたりしかいないけど。
どこかにいる年寄りの聖騎士に会ったら、前世の記憶があるかぜひ聞いてみたい。
「RPG……ですよね?」
「知ってるの!?」
ぱあっと顔を輝かせたエヴァ先輩。
知ってますとも。前世でさんざんやり込みましたから。
その割にはあんまり覚えてないけど。
「キミ、やっぱり転生者?」
「そうなんだと思います。前世の記憶、少しだけあるんです」
「だったら、チュートリアルの意味、わかるよね? 最初に性別選ぶでしょ?」
やっとエヴァ先輩の言いたいことがわかった。
主人公は最初に性別が選べるんだった。
そして、選んだ方のキャラで勇者になるんだ。
ということは、ここまではまだチュートリアルだったんだ。
「もし、キミが主人公になったら、自動的に僕は必要ない存在になるよね? そしたら、消えるのかな? モブキャラになるんだったらまだいいけど」
「モブキャラって……」
「だって、モンスターと戦ったこともない貴族だよ? モブだろ、って思ってたよ」
ため息をつくエヴァ先輩が、少し可愛そうになる。
でも、もしエヴァ先輩が勇者になったら、私が消えるかもしれないのか。
それはそれで困る。
聖女のモブキャラになら、なりたいけど。
それから短い時間だけど、色々語り合った。
エヴァ先輩は前世では「ササキマサト」っていう名前で、普通の会社員だったそうだ。
バイクに乗っているときに、交通事故で死んだんだって。
死んだときには23歳だったらしいから、私より3歳年上だったわけだ。
エヴァっていうのは、ゲームをするときにいつも使っていた名前だったみたい。
それで、転生したと気付いた時に、すぐにゲームの世界だとわかったんだそうだ。
最初はチャラい人かと思ったけど、日本人の若い男の人ってこんな感じだよね。
この世界で脳筋な人たちに囲まれていたから、それに慣らされてたけど。
話してみたら、真面目そうな普通の人だ。
私は実のところ、前世の記憶はそれほどない。
転生したんじゃないかって気付いたときに、ゲームのことは一生懸命思い出したけど、それ以外の記憶は薄れつつある。
覚えているのは、大学生だったことと、名前ぐらいだ。
だけど、エヴァ先輩は、かなり鮮明に前世のことを覚えていて、ゲームにも詳しいようだった。
「ねえ、ルイーズ。キミは勇者になりたくないんだよね?」
「そうです。今のところは」
「だったらさ。協力しない? これからも、どっちが本当の勇者かわからないように。そうすればさ。どっちも消えることはないんじゃないかな」
「本当にどちらかが勇者になったら、もう一方は消されるのかなあ?」
「だって、今の状況考えてみてよ。聖騎士が狙われてるだろう? ゲーム的には必要ない方消すんじゃないかな」
そう言われてみれば、私は一度ダンジョンで敵と出会っている。
だけど、そのときは消されなかった。
ゲーム的にはまだ勇者が決まっていなかったからだろうか。
エヴァ先輩もステータスには聖騎士の後ろに(勇者)と表示されているらしい。
だけど、一度(勇者)が点滅したんだそうだ。
ちょうど私がダンジョンで黒マントと出会った時期だ。
その時、エヴァ先輩は私に何か異変があったんじゃないかと思ったと言う。
あの時、私がもし消されていたら、エヴァ先輩が自動的に勇者になったんだろうか。
消されなかったのは、ゲーム的に補正がかかったとか?
エヴァ先輩の言うように、どちらかが勇者だと確定するまでは、消されないのかもしれない。
そうとわかったらもう、協力しない手はない。
その日、私とエヴァ先輩は密約を結んだ。
勇者に関係ある場所へは、必ず一緒に行く。
どちらも、勝手に勇者になる宣言や行動はしない。
何か進展があったときには、情報交換する。
エヴァ先輩の方がゲームの進行をよく覚えているので、気付いたことがあれば教えてくれるらしい。
できれば、このまま聖騎士(勇者)のまま、ふたりとも存在し続けられたらいいのにね、とエヴァ先輩は笑った。
「あ、それから、困ったことがあったら相談してくれたらいいよ。僕は今は貴族だから、お金に困ったりしたら遠慮なく言って」
そう言って、ウィンクするエヴァ先輩。
ブロンド王子様には似合うけど、日本人ってウィンクしないんじゃないかなあ。