狙いは私?
後から現れた黒マントは、私たちに見向きもせず、何か報告を伝えにきたようだ。
「ふむ…ゼルゼア様がリリトへ向かえと」
「至急とのことです」
「そうですか。まあ、いいでしょう」
黒マント2体は、ボソボソと何か話している。
先日見たのも、こいつらだ。
「矮小な者たちには、今しばらく猶予を与えましょう。どうせいずれまた会いますよ」
そう言い残して、黒マントたちは跡形もなく消えた。
静寂が戻ってくる。
奥から湧いてきていたスケルトンたちの姿もない。
「なんだったんだ…あいつらは」
「トニ、考えるのは後です。戻ってくる前に撤退しましょう」
「ああ、そうだな。あれと戦っても、勝ち目はない」
調査は中断して、急いで地上に戻ることになった。
敵が撤退してくれたからよかったものの、あのままだったら確実にやられてた。
「あいつら、デイモントを狙ってるのかな?」
「わからないけど…でも、私がいるの、知らなかったみたいだったよ」
「ここには聖騎士がいるようだ…とか言ってたな」
「デイモントさんの聖十字スキルを見て気付いただけでしょう。最初から狙っていたなら、こんな面倒なことをしなくても、誘拐する方法はいくらでもあります」
スワンソン先生が否定する。
「ただし、デイモントさんは顔を知られてしまいましたから、今後は気をつけたほうがいいでしょう。聖騎士を狙う怪しげな組織がないとも限りません。なるべくひとりで行動せず、パーティーメンバーと一緒にいたほうがいいですね」
「わかりました…気をつけます」
「学園は強固な結界で守られています。外出を控えれば大丈夫でしょう。それと、このダンジョンには今後立ち入りを禁止します。間違っても、好奇心で訪れたりしないように」
もちろんですとも!
頼まれても訪れたりしません!
狙われているかもしれないのに、のこのこ行くもんですか。
「スワンソン先生…あんな瞬間移動は、物理的に可能なんでしょうか…」
「可能か可能でないか、といえば可能でしょう。もし、古代魔法を用いていると仮定したら、とんでもない魔力の持ち主か、もしくは…」
スワンソン先生は、何か思い当たることがあるような顔をして、言葉を止めた。
ニコラくんは、敵が瞬間的に現れたり消えたりすることが気になっているようだ。
何か難しい専門知識で、スワンソン先生と瞬間移動について話している。
「とにかく、この件は王宮に報告をあげないといけないぐらいの、機密事項です。あなたたちは、余計なことを口外しないように。ワルデック先生とメルギス先生は、お疲れのところ申し訳ありませんが、この後少し残ってください。学園の警備について相談をしたいので」
学園に戻り、調査隊は解散。
先生たちは慌ただしく教務室に戻っていった。
しかし、最近よく死にかけてるような気がする。
生きているのが不思議なぐらいだ。
10階層の調査はできなかったが、あのダンジョンが正体不明のやつらに変異させられていたのは間違いない。
目的はわからないけど。
「やつら、リリトへ向かうって言ってたな。ここが目的ではないんじゃねえか?」
「そうですね…僕たちを殺すつもりなら、あの時、簡単に殺せたでしょうからね」
「あ、リリトにもうクリストフの剣はないから、心配しなくても大丈夫だぜ」
…そんな心配してないって。
どこまでもクリストフ脳なオーグストは、平常運転だ。