さまようアンデッド
「あの日、2組のパーティーは何事もなく帰ってきたのですから、その後にわざわざこの魔法陣を敷いた者がいた、と。そして、彼らを最下層へ転移させた後に痕跡を消した、ということになりますね」
「こいつらだけをわざわざ狙ったってことか? 何のためにだ?」
「目的はわかりませんが、こんな転移陣を使う者たちが、まともでないのは確かです」
先生たちが話し合っている間にオーグストが解説してくれたんだけど、今の魔法陣はもともと古代魔法陣が元になっていて、それを新しい文字に置き換えて簡素化したものだそうだ。
古代魔法陣は複雑で、起動するのに膨大な魔力が必要になる。
それを効率化して、少ない魔力でも扱えるように研究されたものが、今の魔法陣なのだ。
この世界の宗教は、基本的にはひとつだ。
オーグストが所属してる、バスティアン正教会はバスティアン王国が認めた唯一の宗教。
隣国のリリト王国ならリリト正教会があるが、中身は同じだ。
教皇はマリアナ正教国にある中央正教会の本神殿にいて、各国の教会はその下部組織にあたる。
ただし、どこの国にも邪教と呼ばれる小さい宗教組織はあるみたい。
いわゆる「禁呪」という類の古代魔法は、今の教会では禁止されている。
しかし、死んだ人を生き返らせる古代魔法などは、再現しようとする者が後を立たないらしい。
それでアンデッドを大量に生み出した犯罪組織もあったんだとか。
「古代魔法陣は、素人が簡単に扱えるものではないですよ。研究者クラスの人間が関わっていたとしても、なおかつ、膨大な魔力が必要ですからね」
「古代魔法を復活させるなど、なんと恐ろしいことを…」
メルギス先生は、心底おぞましいものを見るような目で、古代文字のあった場所を見ている。
オーグストも同じだ。教義に反するんだろうな。
「とにかく、他におかしな痕跡がないか調べつつ、地下10階まで降りてみましょう」
スワンソン先生を先頭に、階下へ降りていく。
地下9階に降りた途端、アンデッドが現れた。
単体のスケルトンだ。剣は持っているが、鎧は着ていない。
ワルデック先生がトゲトゲの棍棒を振り下ろして、スケルトンをバラバラにしてしまった。
しかも、頭蓋骨をトゲトゲ棍棒で粉々に叩き潰している。
「スケルトンに物理攻撃は効かないんじゃないのですか?」
「ああ、こいつらは再生するからな。でも、見てろよ」
ワルデック先生は、何か楽しげにスケルトンが再生するのを待っている。
「ほら見てみろ、頭つぶしときゃ、体が再生しても襲ってはこないぞ。知能がないからな」
頭のないスケルトンが、方向オンチになったみたいに、ウロウロとさまよっている。
なかなかシュールな光景…
「トニ! 何遊んでいるんですか! まったくあなたって人は…」
あれ? スワンソン先生がワルデック先生のことを、めずらしくファーストネームで呼んだ。
仲悪そうだったのに、実は仲良し?
と思ったら、ふたりは昔、同じパーティーにいた時期があったそうだ。
メルギス先生が笑いながらこっそり教えてくれた。
スワンソン先生に怒られて、ワルデック先生は棍棒を「持っとけ」とマルクに手渡した。
マルクはちょっとうれしそうだ。
ワルデック先生、このためだけにトゲトゲ棍棒背負ってきたのか…
まあ、でも、物理攻撃しかできない人にとっては、必要な知識だよね。これ。