事情聴取
「転移魔法陣の罠だって? 5階のボス部屋の入り口にか?」
ワルデック先生は、私たちの話が信じられないというように頭を振る。
疲れていてヘトヘトなのに、もう何度も同じ話をしている。
「今朝も我々教師陣できちんと地下5階まで安全確認しましたよね」
「ああ、他のパーティーは、皆すぐに戻ってきたしな」
「しかし、この子たちが嘘を言っているとも思えませんね。ボス部屋があったのなら、10階層に飛んだのは間違いないでしょう」
とりあえず、ダンジョンは閉鎖されて、ギルドから調査が派遣されることになったらしい。
このダンジョンでの試験は毎年行われていて、このような事件が起きた前例もないそうだ。
残りのパーティーの試験は延期。
「それに、最後に変な影みたいなのを見た。お前たちも見たよな?」
「あ、ああ…見たな」
オーグストが思い出したように言う。
マルクは、どう説明しようかと、戸惑ったような顔になった。
「影ですか?」
「かなりの魔力量を感じました。話をしていたので、人かもしれませんが。たぶん2人。」
「どんな話をしていましたか?」
「骸骨騎士ぐらいで手こずっているとか、誰かにこのことを報告するとか言ってました」
「10階層に人ですか…それもちょっと考えられないんですけどね」
スワンソン先生は何か考え込んでいる。
「あなたたちが通ってきた転移魔法陣の先には、教師がずっと待っていましたから。もし、その話が本当なら、ダンジョンの10階層あたりにまだ人がいる可能性があるということですね」
「10階層に2人でもぐれる冒険者は多くはねえぞ? ああ、お前らが倒した骸骨騎士は、一応Aランクだからな」
Aランク。
ベアファングがBランクだったけど、確かに骸骨騎士の方がかなり強かった。
5人がかりでギリギリだった。
よく倒せたなあと思う。
あの最後に現れた影は、何かわからないけれど、とにかく勇者にとっては敵だ。
「勇者とは思えない」という言葉をはっきり聞いた。
ということは、狙いは私だったかもしれない。
でも、私はまだ聖騎士のスキルすら持っていないし、勇者になったわけでもない。
ただの学生だと勘違いしてくれていたらいいんだけど…。
「まあ、そのことも合わせて、後日しっかり調査する。お前らは、危ない目に合わせて申し訳なかったな。よく戻ってきてくれた」
ワルデック先生が頭を下げる。
「あ、あの…シルバーウルフ、倒してませんけど、僕たちは合格ですか?」
「あ? ああ、骸骨騎士の兜で十分合格だ!」
あんな目に合ったというのに、試験の結果を気にしてるニコラくん。
やっぱりマイペースだ。