謎の影
「ファイアーストーム!」
レアナの火魔法が、骸骨騎士を襲う。
「ミエナイ…ジャマダ…アツイ」
「マルクっ 後衛お願い! 私が代わる!」
「無茶だっ!」
「大丈夫! 止めるだけなら私でもできる」
レアナが魔力回復薬を一気飲みした。
ストーム2、3発はいけるはず。
私は雷撃剣でひたすら足止めする。
これで少しずつ削っていくしかない。
こっちにダメージがなければ、いつかは勝てるはず。
残ったザコは、ニコラくんが相手をしている。
「アツイ…ジャマダ…キシハドコダ」
「ルイっ、これ、いつまで続けるのっ」
「わかんないよっ」
雷撃剣の放ちすぎで、こっちの手がしびれてきた。
最後のザコを倒し終えたニコラくんが加勢に駆けつける。
「ファイアーランス!」
全身を火に包まれて、骸骨騎士は少しずつ弱っていくように見える。
もう少しか…?
「ダメだ、火だけではあれだけの執念を消せない…」
オーグストが骸骨騎士を睨みつけ、両手を合わせ、魔法陣を展開した。
「殲滅浄化!」
魔法陣から青い炎のような光が出て、骸骨騎士を包み込む。
「アア…キエル…キエテシマウ」
青い光の中で、ゆらゆらと骸骨騎士は消えていく。
兜と鎧だけが、ガチャリと音を立てて地面に落ちた。
「やったか…」
「やったよね…」
「疲れた…」
全員ペタリと、その場に座り込んだ。
骸骨騎士がいた、すぐ後ろの壁に大きな魔法陣が浮かび上がる。
「転移魔法陣です。帰りましょう」
やれやれ、と立ち上がったときに、ニコラくんが何かを警戒するように、ボス部屋の入り口を振り返った。
「今何か、現れませんでしたか?」
「俺も感じる、何か邪悪な魔力のような…」
オーグストも同意する。
黒い影がふたつ。
目にも留まらぬ速さで、物陰に移動したのを、私も見た。
「骸骨騎士ごときで苦戦するなら、何かの間違いでしょうな」
「勇者というような者ではないでしょう」
「取り急ぎ、ゼルゼア様に報告だけしておきますか」
ぞっとするような気味の悪い声で、その黒い影が話しているのが聞こえた。
それからその気配は、ふっと消えた。
「早く戻ろうぜ!」
皆であわてて転移魔法陣に飛び込んだ。
もう誰も戦う余力はない。
「おお! お前ら、えらく遅かったな? 待ちくたびれたぞ!」
能天気なワルデック先生の声を聞いて、やっと帰ってこれたという実感がわいてくる。
「死ぬかと思った…」
「俺も…」
「僕もです…」
「なんだ、そんなにシルバーウルフに手間取ったのか?」
「違いますよ…ガイコツです。骸骨騎士、討伐してきました」
「は? なんのことだ?」
ニコラくんがマジカルバッグから、骸骨騎士の兜を取り出して、ゴロンと地面に置いた。
「鎧は置いてきました。重かったので」
「5階層に骸骨騎士が? 何かの間違いでは?」
スワンソン先生が、顔色を変えて駆け寄ってきた。
「いえ、確かに骸骨騎士でした。ボス部屋にはアンデットが50体ぐらいいました」
オーグストが報告すると、スワンソン先生は驚いている。
「いったいどうやって倒したんだ」
「ニコラくんの魔法と…最後はオーグストが浄化してくれたんです」
ちらり、とオーグストが私の方に目を向けたが、余計なことは言わなかった。
「とにかく…無事でよかった。一旦帰って詳しく聞かせてくれ」