勇者クリストフ?
なんとなく本棚を眺めていると、一冊の本が目にとまった。
「勇者クリストフの剣」
なんだろう。
これ、見ちゃいけないやつかもしれない。
フラグ…かな? もしかすると。
でも、気になる。
心臓がドクン、と音を立てた。
いやいや、でも図書室にあるぐらいだもん。
誰でも読んでる本だよね。
手にとってみると、表紙には大きなサファイアのような青い石のついた、剣の絵。
パラパラとめくってみると、どうやら物語のようだ。
ところどころに挿絵が入っている。
ええい。気になるぐらいなら読んでみよう。
本を手に、人の少なそうな場所に座る。
数百年前のこと。この世界に魔神が現れ、世の中に魔物があふれるようになった。
いくら魔物と戦っても、魔神が存在する限り、魔物は次から次へと生み出される。
そこで、世界中から剣士や魔導士を集めて、魔神討伐をすることになった。
その時に、リーダーに選ばれたのが剣聖と呼ばれていた聖騎士クリストフだった。
クリストフは聖騎士だけが扱える、特別な剣を与えられた。
「聖の宝玉」と呼ばれる、強い魔力を秘めた石があしらわれた剣だ。
普通の人は、持つことすらできないと言われている。
魔神との戦いで、クリストフは力及ばず、魔神を倒すことができなかった。
しかし、最後の力を振り絞って、魔神を剣に封印したのだ。聖の宝玉の力を使って。
そして、その剣を抱いて、クリストフはこつぜんと消えた。
自らを犠牲にして、異空間へ転移したのではないかと言われている。
世界を救ったクリストフのことを、人々は後に「勇者」と呼んで称賛した。
…だいたいそんなようなあらすじだ。
本をパタン、と閉じて、情報を整理してみる。
まず、魔神は死んでない。
これ、フラグじゃない? 封印されたんだよね?
それって誰かがわざわざ封印を解いて、蘇ったりするよね? RPG的には。
それに、クリストフって勇者じゃなくて、聖騎士じゃん!
死後に勇者と呼ばれるようになっただけで。
いやいやいや、死んで勇者になるとか、勘弁してほしい。
こつぜんと消えた、とか書いてあるけど、この世界には転移魔法がある。
異空間魔法もあるよね? 荷物入れたり出したりできるっていう。
異空間の中は時間が止まっているって、ニコラくんが言ってたっけ。
これ、単なる物語だろうか。
いや、ちょっと待って。
この数百年、クリストフ以外に勇者っていなかったのかな?
結局魔獣は今でも存在してるんだし、歴代勇者とかいたかも?
あー私はこの世界の知識がなさすぎる。
勇者が何者なのかわからないのに、勇者を目指すなんて無理だよ。
ニコラくんに相談してみよう。




