それぞれの思い
最初は、私が(勇者)になった。
それから、しばらくしてレアナが(魔導戦士)になった。
そして、マルクとニコラくんまで…。
思い当たる理由はひとつしかない。
たぶん、勇者パーティーの仲間だと認識されたんだ。
それしか、考えられない。
「ごめん。きっと私が巻き込んだ」
「どういうことだよ?」
「だって、私に関わった人が、次々と職業に異変が起きるなんて、理由はひとつしかないじゃん。勇者パーティーだからだよ」
「僕はパーティー組んだ覚えはないですけどね…」
確信ではないけれど、前世のRPGってこういうもんだったよね。
勇者が仲間に出会って、パーティーになる。
勇者、魔導戦士、剣豪、大賢者だよ?
括弧の中の職業だけ見たら、最強パーティーじゃん。
「一緒に戦ったから、仲間だと認識されちゃったんだよ、きっと」
「誰にだよ? 神様か?」
「でも、魔導士(大賢者)というのはどういうことなんでしょう? 括弧つきというのは」
「それは私もわかんないんだけど…多分、大賢者になる可能性がある、というだけで、今の時点では選べるんじゃないかと思う」
「はあ…選べるんですか」
「そうだよ! 選べると思う! 私は魔導戦士を目指すことにしたもん! ルイと一緒に戦うんだ」
マルクとニコラくんは、焚き火の火を見つめて黙り込んでしまった。
そりゃ、急にこんなこと言われても、戸惑うよね。
「僕は…選べるなら大賢者になりたいなあ」
ぽつり、とニコラくんがつぶやく。
「俺も、なりてえな。剣豪とやらに」
マルクも、同意した。
「そうでしょ? 私だって魔導戦士になりたいよ。でも、ルイは勇者になりたくないんだよね?」
「私は…」
3人の視線が私に集まる。
いや、期待されても困る。
この中で一番弱いのは私だよ?
「私は…騎士にも勇者にもなりたくなかった。聖女になって、普通にお嫁に行きたかったんだよー!」
なんで、みんなそんなに勇敢なの?
さっきベアファングに殺されてたかもしれないんだよ?
これから、戦争に行かされるかもしれないのに。
勇者なんて、魔王みたいなラスボスと戦うんだよっ!
想像したら泣きたくなるよ。
「ははっ、そうかそうか」
マルクが急に笑いだして、私の頭をポンポン、と叩いた。
「お前、嫁に行きたかったんだな。そりゃ、普通そうだよな。当たり前だ」
「そうですね。そういうのもアリだと思います」
「でも、勇者になっても、お嫁にはいけると思うけどなあ」
そういえば、前世のRPGでは、勇者はパーティーメンバーと結婚してたっけ。
ということは、マルクかニコラくんと結婚?
ゲームでは結婚相手、選べたんだっけ。
想像すると、なんだか笑える。
そうか。勇者でもお嫁にはいけるかも。
死ななかったら、だけど。
「僕は、魔導士になるのを諦めていたので、今は研究職を目指してるんですけど…もし大賢者になれたとして戦えるんでしょうか」
「そりゃ、戦えるだろうよ。今のままでも十分強えと思うけどな」
「でも、僕は走れませんよ」
「は! 戦闘にくっついてる聖女様たちは、誰も走れねえよ! 俺らはそのための前衛だろ?」
「そうよ! 走り回るのは私とルイの専門! ニコラくんは後ろからどっかーん!とすごい魔法を出してくれたらいいじゃない」
「とりあえずよぅ。別に今決めなくていいんじゃねぇの? なれるかどうかもわかんねえんだし。ルイーズも」
確かにそうだ。
勇者になれると決まったわけじゃない。
なってしまってから悩んでも、遅くはない…か。