緊急事態!
「月見草はね…魔素の多い、魔力溜まりって言われる場所でしか育たないんです」
「魔力溜まり?」
「この湖にはデビルフィッシュ以外にも魔獣がいるし、水辺には魔力が溜まりやすいんですよ」
「へえー。さすがニコラくん。勉強になるー」
レアナとふたりで、ニコラくんについて回って、月見草を採取する。
白くて小さな花だ。かすみ草に似ている。
「おおおー!大物がきたぞっ」
湖のほとりで、マルクがデビルフィッシュと格闘している。
岸まで引き寄せて、大剣でとどめを刺したようだ。
デビルフィッシュというだけあって、怖い顔をした銀色の大魚。
アンコウみたいな顔に、牙がついている。
噛みつかれたら、指がちぎれそうなぐらいの鋭い歯。
見た目はグロテスクだが、毒はないらしい。
「後で塩焼きにしてやるよ」
マルクが嬉しそうに解体を始めた。
…その時。
ずしん、と音がして、大木の向こうに真っ黒な影が見えた。
なんか、とてつもなく大きな生き物がいる。
「嘘だろ…」
マルクが呆然とした顔になり、大剣を構えた。
「ベアファングだ。Bランクの魔獣だぞ…」
私とレアナも剣を抜き、ニコラくんの前に立つ。
「身体強化!」
全員に身体強化をかける。
目の前に現れたのは、体長3メートルぐらいはありそうな、巨大な熊。
マンモスのような大きな牙が生えている。
「お前ら、コテージまで逃げろ」
「マルクはっ?」
「俺は、ここで食い止める」
「無理だよ、いくらマルクでも…」
話し合っている暇はない。
巨大なベアファングは、じりじりとこちらに近寄ってくる。
レアナと顔を見合わせて、うなずく。
とにかくベアファングを足止めする。
でないと、走れないニコラくんは逃げられない。
「マルクっ 援護するっ! ニコラくん、逃げて」
「無茶な…ルイーズさんっ」
「ファイヤーボム!」
「エアスラッシュ!」
レアナとほぼ同時にベアファングを狙い撃ちする。
ふたりで何百回も練習してきた。
絶対に当てる!
レアナと左右に分かれて、挟み撃ちするように攻撃を続ける。
ベアファングは、攻撃を避けきれず、大きな咆哮をあげた。
「レア! ファイアーストームいけるっ?」
「撃てるけど、1回ぐらいが限界だよっ!」
「わかった! 頭、狙って!」
「了解っ! ファイアーストーム!!」
特大の火の玉が渦を巻きながら、ベアファングの頭を包む。
私はひたすら、足を狙ってスラッシュを放つ。
かなり硬くて切り落とすのは無理だけど、何度か同じ箇所を狙ったら、ついにベアファングが転んだ。
「マルクっ!!」
「おうっ!!」
マルクの大剣が、ベアファングの心臓を狙う。
やったか?と思った瞬間、ベアファングはマルクに向かって激しく襲いかかった。
「マルク、危ないっ!!」
「アイスランスっ!!」
するどい氷の矢が、大群になってベアファングに突き刺さる。
振り返ると、ニコラくんが空中に魔法陣を展開していた。
大きな魔法陣から、次々と氷の矢が繰り出される。
目が見えなくなって、足も切り裂かれ、頭も黒焦げになったベアファングは、今はもうただ悶え苦しんでいるように見える。
マルクが、今度こそとどめを刺しにいく。
「おうぅりゃああっ!!」
首をはねた!
ずしーん、と音をたてて、ベアファングは倒れた。
「ウォーターウェイブ」
ニコラくんが、レアナのボムで燃えている森の木に向かって、水流を放った。
そして、冷静な声で、
「森で火魔法は危ないですよ、火事になります」
と言った。