スワンソン先生
ゼミから戻って、さっそくレアナにポーションの作り方を説明した。
だけど、やっぱりレアナは魔法陣に魔力を注ぐ、という感覚がわからないようだ。
すぐに手から火が出てしまうので、羊皮紙を燃やしてしまいそうになる。
「やっぱり、回復魔法が使えないと、ポーション作れないのかな?」
「そんなことないよ。魔力さえあればつくれるはず、ってニコラくんが言ってたよ」
ふと思い出して、ニコラくんがやってくれたように、レアナの手を握って少しずつ魔力を流してみる。
「わー気持ちいい! ルイの魔力って温泉みたいだね。ぽかぽかする」
レアナがうっとりしたような顔になった。
「じゃあさ。レアもぽかぽかする魔力流してみてよ。ちょっとずつね!」
ぽよん、ぽよん、と弱い魔力が伝わってくる。
これは、あれだ。ニコラくんが言ってた、初心者の魔力の波かな。
「私もうまくできないけど、すーっと静かに流れる感じなんだよ。上手な人だと」
お互いに交互に練習するうちに、少しずつ上達していく。
夜遅くまで練習して、ふたりともなんとか回復ポーションをつくれるようになった。
質はわからないけど。
失敗しても毒薬になったりはしないけど、効き目には多少差が出るようだ。
レアナと作ったポーションは瓶につめて、次のゼミのときにニコラくんにチェックしてもらった。
「いいと思いますよ? このぐらいなら売ってる初級ポーションとそんなに変わらないんじゃないかなあ」
「ほんと? 売っても大丈夫?」
「ギルドには鑑定する人がいますから、ダメならダメって返されますよ。その時は、自分で使ったらいいんじゃないですか」
2度めのゼミは魔力回復ポーションの作成だった。
これは本当は上級生になってから習う内容らしい。
スワンソン先生が、私のためにゼミの内容を変更してくれたんだそうだ。
1度目のゼミで回復ポーションを完成させたので、少しはやる気を認めてくれたみたい。
魔力回復ポーションの材料には、薬草ではなく月見草という白い花が必要だ。
ポルトの森の奥にある、湖のほとりに自生しているらしい。
水辺には百足ヘビが多いので、あんまり行きたくないんだけど。
一度マルクに相談して、一緒に行ってもらおうかな。
今回は時間がなかったから、スワンソン先生に少し分けてもらった。
なんとか2回のゼミで回復ポーションと、魔力回復ポーションは作れるようになった。
だけど、私はまだこの錬金ゼミに興味がある。
戦うより、こっちの方が面白いかもしれないと思い始めている。
もっと高級なポーションにもチャレンジしてみたい。
そう思って、ゼミが終わった後で、スワンソン先生に聞いてみた。
「スワンソン先生。私、今後もゼミに参加してはいけないでしょうか?」
「デイモントさん、必要なものは作れるようになったでしょう? あなたには、今もっと他にやるべきことがあるのではないですか?」
そうだよね。騎士科の中では、私はそれほど優秀じゃない。
もっと剣の腕を磨くことの方が大事なのかもしれない。
真剣に錬金術を志す人から見ると、興味本位で参加されたら迷惑なのかな…
「このゼミはね。これで生計を立てなければならない人のために開いているんですよ。この学園の生徒は、あなたのように騎士になれる人ばかりではないのです」
騎士になれる資格がある人は、騎士を目指すべきだと、スワンソン先生は言う。
スワンソン先生は、厳しい印象だけど、決して冷たい人ではないと思った。
魔導士科の生徒には人気があって、慕われているらしい。
その気持ちが、ちょっとわかる。面倒見のいい先生なのかも。
「わかりました。じゃあ、図書館で勉強して、わからないことはニコラくんに教えてもらいます!」
「そうですか。初級の錬金のことなら、デルビーに聞くといいでしょう。どうしても困ったことがあれば、直接私のところに質問に来なさい」
「ありがとうございます! 自分で頑張ってみます!」