錬金ゼミ②
「どうですか、デイモントさん。基礎は理解できそうですか?」
「はい、絶対に覚えます!」
「デルビー、見本を見せてあげなさい」
スワンソン先生は、順番に見回って、アドバイスをしたりしている。
すでに、いくつかのグループは、回復ポーションの作成に成功しているようだ。
ニコラくんの話では、このゼミに参加している生徒は、魔力量が少なく戦闘に向かない人が多いそうだ。
戦闘に特化した魔導士Aクラスとは違って、魔導士Bクラスは防御や回復に特化している。
ヒーリングの魔法が使えて魔力量が多い聖女様ならともかく、魔力量の少ない魔導士は錬金術を目指すしかないらしい。
適材適所ということか。
それでも、ポーションを作れたら薬師になれる道もあるので、皆真剣だ。
「では、一度やってみるので、見ていてくださいね」
魔法陣の中心に、薬草を煮詰めてこした液体が入った瓶を置く。
ニコラくんが魔力を注ぐと、魔法陣が金色に光って羊皮紙から浮かび上がった。
そして、瓶の中の液体も輝き始める。
「瓶の中身の色が変わったら、だいたいOKです」
草を煮詰めた色の液体が、透明なうっすらとピンク色の液体に変わった。
この透明度が、ポーションの質なんだそうだ。
色が濁っているものは、買わないほうがいいらしい。
「では、同じように、魔法陣に魔力を注ぐ練習をしましょう」
見ていると簡単そうだけど、魔法陣に魔力を注ぐ、というのがよくわからない。
今まではスキルを覚えたら、スキル名を詠唱すれば発動できた。
魔法陣に魔力を注ぐときって、何をイメージしたらいいんだろう?
「ルイーズさんは、回復魔法を使えるんですよね? それと同じイメージです。なんなら回復魔法を魔法陣に向かってかけてもいいですよ。魔力の消費量は増えてしまいますが」
なるほど。それならできる。
回復魔法は物心ついたときから練習してきたもの。
だけど、レアナはどうだろう…
魔法陣を燃やしてしまいそうな気がするけど。
言われたとおり、回復魔法を魔法陣に向かって少しずつ放つ。
できあがるまで、一定の魔力量を保って流すのが難しいらしい。
魔力量の少ない人ほど、少ない魔力で持続させないといけないみたいだけど、私は人より魔力量は多いので、そこは心配いらない。
やがて、薄いピンク色に液体が変わった。
できたかな?
「うん、一回目にしては上出来です。ちょっとムラがありますけどね」
ニコラくんは、出来上がった瓶を光にかざして、色の濃淡をチェックしてくれた。
ムラがあるのは、魔力の供給量が安定していないからだという。
「ちょっと、手を貸してください」
不意にニコラくんに手を握られて、びっくりする。
「多分ね、初心者の人ってこういう感じになるんですよ」
なんだか、ぶよんぶよんと波のあるような感じで、魔力が伝わってくる。
「いいですか、できるだけ少ない魔力を、静かに流す感じです」
今度は、すーっとわずかな魔力が流れてくるのを感じる。
ああ、これは全然違う、とわかった。
「よくわかりました! ありがとう! ニコラくん、すごいね。先生になれるよ」
「いえ…錬金の基礎の基礎ですから」
ニコラくんは、ハッと手を離して、少し赤くなった。
いい人だな。ニコラくん。
「私ね、騎士科だから、魔法のこと教えてくれる友達がいないんです。もしわからないことがあったら、ニコラくん、教えてくれる?」
「そうでしょうね…聖騎士が騎士科に所属しているとそういう問題がありますね。わかりました。僕でよければ、ゼミの日はたいてい早めに来ていますから」
それから何度か練習して、少しずつ質のいいポーションが作れるようになった。
最後に作ったものを、スワンソン先生がチェックしてくれて、それは持って帰ってもいいと言われた。
次の角ラビ狩りのときにでも、使ってみよう。
ニコラくんという、貴重な魔導士の知り合いもできたし、ほんと今日は収穫が多かったな。