錬金ゼミ①
20人ぐらいの魔導士科の生徒が、次々と教室に集まってくる。
魔導士科には各学年100人ぐらいの生徒がいるんだけど、このゼミは希望者が任意で参加できるようになっているそうだ。
学年は関係ないので、上級生もちらほら混ざっている。
私はやる気まんまんで、一番に教室に入って、一番前の席を陣取った。
少し遅れてスワンソン先生が入ってくる。
教卓の真ん前に座っている私を見て、少し面倒くさそうな顔をした気がする。
スワンソン先生の後ろから、小柄でおどおどした感じの生徒が、道具を両手に抱えて入ってきた。
助手だろうか。
「今日は回復薬の復習です。前回までにできるようになった人は、できない人を手伝ってあげるように。ああ、それからデルビー、その人は騎士科の人ですから、まず基礎を教えてあげなさい」
「騎士科の人ですか…はぁ、わかりました」
デルビーと呼ばれたその助手くんは、テキパキと道具を揃えて、私のところへやってきた。
「魔導士科Bクラスの、ニコラ・デルビーです。魔力持ちということは、もしかして聖騎士ですか?」
「はい、騎士科Aクラスのルイーズ・デイモントです。よろしくお願いします。ニコラくん、って呼んでもいい?」
「ど、どうぞ、お好きに」
「私は、ルイでもルイーズでも」
ニコラくんは、ひ弱な感じだけど、秀才っぽい。
助手をしているぐらいだから、スワンソン先生のお気に入りなのかな。
「ではルイーズさん、まずは魔法陣の説明をします」
大きな図面のような紙を広げたニコラくんは、魔法陣を指さして、ひとつひとつ説明してくれる。
魔法陣は古代文字で書かれていること。
書かれている文字にすべて意味があるので、覚える必要があること。
「例えば、この部分には回復の量を表す文字列があります」
「これが初級ポーションの回復量を表すってこと?」
「そうです。そして、この部分は回復魔術をポーションに錬金する文字列です」
なるほど。知りたかったのは、まさにその部分だ。
水に浸した薬草を煮詰めるだけでは、回復ポーションにはならない。
そこに魔力を注ぐやり方がわからなかった。
ニコラくんの説明では、魔法陣の力を借りると、少ない魔力量でもポーションが作れるんだそうだ。
複数の文字列の効果を、効率よく同時に発動できるらしい。
「初心者はこの魔法陣が書かれた羊皮紙を使いますが、覚えてしまえば頭の中で魔法陣を組み立てることができます」
ニコラくんは、少し頭の中で何かを思い浮かべるようにして、右手を前に出した。
空中に大きな魔法陣が、浮かび上がる。
「すごい…かっこいい」
「いやいや、僕なんてたいしたことありません。スワンソン先生は天才ですよ」
謙遜してるけど、いや、マジでこれは尊敬する。
魔導士科の人は、こんなこと勉強してるんだ。
初級のひとつだけでもいいから、ぜひとも習得したい。
これは、レアナにも覚えてもらいたいから、絶対に聞き漏らさないように必死でノートをとった。
私が一生懸命なので、ニコラくんは細かく丁寧に教えてくれる。
魔法陣の説明が終わったら、次はいよいよ実際に作ってみることになった。