決闘を申し込まれた!
「今日の訓練は、実戦を兼ねて決闘のやり方を教える」
ワルデック先生の言葉に、クラスのみんなは「おおお!」と歓声をあげる。
なんでも、このバスティアン王国では正当な理由があれば、決闘を申し込むことが認められているんだそうだ。
親の敵とか、婚約者を奪われた、というような理由が多いらしい。
ただし、剣で戦ってもいいのは、相手も帯剣している場合のみ。
平民同士は、素手で格闘するみたい。
帯剣していると、いつどこで決闘を申し込まれるかわからないという。
知らなかった。
街に出るときには、短剣、隠して歩かないと。危ない危ない。
「まずは、決闘を申し込む方が名前を名乗る。我は騎士ナントカ、王国に正義と忠誠を誓う者なり!という感じだな。王国に正義と忠誠、という言葉さえ入っていれば、あとはまあ適当に考えていい」
ワルデック先生は、訓練用の木刀を抜いて正面に掲げながら、名乗り方を説明する。
この決闘を断る場合は、名乗らなくていいそうだ。
「断る」と言えばいい、ということなんだけど、実際そう簡単に断れるんだろうか。
受ける場合は、同じように名乗って、「受けて立つ」と言う。
ただし、すぐに戦いを始めるのではなく、公証人が必要だ。
貴族や騎士など、何かあったときに責任をとれる人が公証人になる。
その結果は、王国へ報告義務があるそうだ。
高位の貴族同士の決闘は、闘技場のような場所で王族が見物しにくることもあるらしい。
「さて、誰からいくかな。我こそは、というやつは名乗り出ろ」
ワルデック先生が見回すと、みんな目をそらす。
訓練とは言えど、貴族同士で決闘すると遺恨が残ったりしそう。
誰も申し出ない様子を見て、侯爵令嬢様が呆れたようにため息をつく。
そして、すっくと立ち上がった。
「どなたも出ないようですから、わたくしがまず、見本を見せましょう」
「ヴェルニエか。よし、相手を選べ」
公爵令嬢様がチラリとこっちを見た。
嫌な予感がする。
そして、それは的中した。
つかつかと私の前まで歩いてきて、剣を抜く。
「わたくしは騎士サンドラ・ディ・ヴェルニエ。王国に正義と忠誠を誓う者なり。あなたに決闘を申し込みますわ。ルイーズ」
もう…なんで私なのよ。
公爵令嬢様の剣の腕なら、そこらへんの男子よりよっぽど強い。
生粋の剣士志望で、5歳ぐらいから剣を振り回していたお転婆令嬢だっていうから、私なんかが勝てるわけがないよ。
もうこれは、適当に戦って、負けるしかない。
木刀だから、死ぬことはないよね。
立ち上がりつつ、こっそり身体強化魔法をかける。
ほら、無詠唱、役にたったよ。練習しといてよかった。
「聖騎士ルイーズ・デイモント!この決闘、受けて立つ!」