レアナ、進歩する
「ルイ、何やってるの?」
「うーん、無詠唱で発動できないかなあと思って。だってさあ。いちいち魔法名叫んだら、相手にバレるじゃない。せっかくの隠し技なのに」
「それはそうだよね…でも、詠唱しないとなんか力が入らなくない?」
「えいっ!とか、それっ!とか、無意味な掛け声でもいいみたいだよ?」
レアナは、試しに「えいっ!」とボムを放ってみる。
少し威力は弱いかもしれないけど、問題なく発動できるようだ。
やっぱりイメージの問題だけかも。
頭の中で放つ魔法のイメージさえできていたら、詠唱に意味はないんじゃないかな。
私は、声に出さずに心の中で「えいっ!」と言いながら、スラッシュを放つ練習をしてみた。
少しずつ形になっていく。うん、無詠唱でもいけそう。
これで左手でも使えるようになるのが、目標だよね。
私が左手でスラッシュの練習をしているのを見て、レアナがふと何かを思いついたように、両手を前に出した。
目を閉じて、両手で魔力を集めているようだ。
両手の前に火の玉が浮かんで、それはみるみる大きくなっていく。
レアナの身長を軽く超える大きさの炎の塊。
「ちょっ…レアっ、危ないよっ! それ」
「えっ? あっ、あっ、これどうしようっ!! えいやっ!!」
目を閉じていたレアナは、炎が巨大化したことに気付いていなかったようだ。
あわててそれを両手から放つと、炎は渦を巻きながら飛んでいって、池の真ん中あたりで大爆発を起こした。
的にしていた大きな岩は、半分ぐらい砕け散ってしまった。
「今の、何しようとしてたの…?」
「ルイが左手でスラッシュの練習してたから、両手で魔力を溜めたらもっと大きな火の玉になるかなって思って…あーびっくりした。魔力ごっそり減ったよー」
レアナはぺたんと地面に座り込んで、ステータスを開いた。
「スキル増えた…ファイアーストームだって」
「これは強力なキメ技だよ…だけど危なくてうかつに練習できないね」
「うん。でも、今無詠唱で発動できた…よね?」
「できたできた!だけど、詠唱しないと周りの人が危ないっての、初めて実感したわ」
「あははは…ごめん」
レアナは頭の中で、両手にふたつのボムを出して、それを合わせるようなイメージをしていたらしい。
直径1メートルぐらいの大きさをイメージしてたんだとか。
うっかり溜めすぎて巨大化してしまったけど、慣れたらストームの大きさは調節できるのかも。
「なんか、進歩したよねー私達」
「ほんと。私、なんだかほんとに魔導戦士になれる気がするもん」
私は回復魔法以外に、エアスラッシュと身体強化。
レアナはファイアーボムと、ファイアーストームを覚えた。
これで、剣さえ強くなったら、2人でも十分バランスのいいパーティーのような気がする。
もうちょっと真面目に剣の腕を鍛えないとなあ。
考えたら、ふたりとも騎士なのに、剣のスキルはひとつもない。
これから生えてくるんだろうか。