隠し通路
記憶を頼りに2階の西側通路を進むと、ニコラくんの索敵に反応があった。
壁の奥に空間があるらしい。
多分、隠し通路だよね。
記憶が間違ってなくてよかった。
「ここらへんが、怪しくない? 魔力の流れが変かも」
「隠し……というか、丸見えですね」
ニコラくんが指で壁をつつくと、そこにうっすらと魔方陣が浮かび上がった。
さすが。
「これは……古代魔方陣で封印されていますね」
「封印……って、どうやって開けるかわかる?」
「はい。魔力を流せばいいんですが……古代魔方陣なので、かなり魔力量が要りますよ」
「ああ……あの時みたいに? 上級職になるときに使ってた魔方陣」
「そうですね……あんな感じです、多分」
ニコラくんがそう言って、私とレアナを見る。
「まさか私たちが魔力タンク扱い?」
「まあ……それがいちばん効率的です」
「待って……確か、古代魔方陣って、勇者の魔力と相性がいいってスワンソン先生が言ってた」
「そういえば……ルイーズさん、よく覚えてましたね」
「私がやってみるわ!」
手のひらを壁の魔方陣に当てて、魔力を送り込む。
じわじわと光が広がって、カチリと音がした。
「開いた!」
壁にドアのようなものが浮かび上がり、通れるようになった。
通路の突き当たりにちょっと広めの部屋があって、古い宝箱がいくつか置いてある。
「魔王の……宝物庫かな?」
ニコラくんが、索敵で部屋の中を調べる。
「随分ほこりかぶってるなあ」
オーグストが小声でつぶやく。
ホントにかび臭い部屋だ。
何百年も使われてなかったんじゃないだろうかと思ってしまう。
部屋の中央に、ぽつんと光を放つ台座がある。
その上に、明らかに豪華な装飾のついた宝箱。
「……命環の宝珠かな」
「開けてみようぜ?」
大きな宝箱を開くと、その中に宝石箱のような小さな箱があった。
開くと水晶のような透明の石がひとつ。
その中に、小さく命の炎のようなものが揺れている。
こんな形だったんだ……実物はゲームとは全然違う。
なんだか感動した。
「わぁ……本当に、こんなのがあるんだね」
「こんな小さな石で、本当に死を回避できるのか……?」
ワルデック先生が真剣な顔で言う。
「誰が持つんだ?」
ワルデック先生に言われて、みんな顔を見合わせる。
でも、それは決まってるよ。
一番いなくなって困るのは──
「ニコラくんだよ……ニコラくんが死んだら、私たち全員帰れない」
「そうだそうだ! ニコラ、お前が持ってろよ!」
「僕ですか……? でも、そうですね……僕が預かるのがいいのかな」
全員納得したように、うなずく。
ニコラくんは、慎重に石を手に取り、それからポケットに入れた。
すぐに取り出せるようにするためかな。
「さて……じゃあ魔王の間に行くか」
「エヴァ先輩たちは、大丈夫でしょうかね」
「まあ、3階でしばらく待ってみることにしよう」
中央階段付近まで戻り、三階へと続く階段をのぼる。
そこには広い円形のホールがあり、黒い床に赤い絨毯が敷かれている。
天井は星空のような魔法灯が幾重にも輝き、左右の壁には大きな角の生えた悪魔のオブジェ。
階段からそっとのぞくと、三階には何体かの敵の姿があった。
そのうちの二体……骸骨騎士たちが、慌てた様子で通り過ぎていく。
「ガモー様にお知らせしなければ!」
「地下でゼルゼア様が……」
ガモー……
そうだっ。魔王の名前って確か『ガモー』だった!
まずい。
私たちが兄弟魔神倒したこと、バレてる。
魔王が出てくるの、時間の問題かも……
「やばい……来た!」
「まずい、見つかったぞ!」
階下から隊列になった甲冑の騎士たちが、ガチャガチャとのぼってくる。
このままだと挟み撃ちになってしまう……
「これはもう戦うしかないですね……」
「ようし! まとめてかかってこいやっ!」
マルクが叫び、トゲトゲ棍棒を持って突撃する。
その一撃で骸骨の頭が粉々にはじけ飛んだが、バラバラになった骨はすぐに再構成され、再び立ち上がった。
「再生能力まであるの!? なんで!」
「洞窟にいたやつより強いぞ! 気をつけろ!」
マルクと先生が骸骨を叩き潰していくけど、すぐに再生してしまう。
オーグストが範囲殲滅浄化で、立ち上がりかけている骸骨を浄化していくが、なかなか数が減らない。
「こいつらいっつもわらわら湧いてくるんだから!」
レアナのうんざりしたような声が響く。
火魔法はある程度効いてるけど、やはりアンデッドは聖魔法でないと完全には倒せない。
聖十字剣の使えるエヴァ先輩とクリス先輩がいないと、なにげにキツいな……
倒せるのは私とオーグストだけだ。
マルクや先生は、周囲のガイコツを叩き潰して時間稼ぎをしてくれている。
そのときだった。
『……静まれ……』
不気味な声が、空間全体に響いた。
低く威圧感のある恐ろしい声。
どこから聞こえているのかわからないのが不気味だ。
『……ひれ伏せ……皆の者……』
突然、全ての骸骨騎士がピタリと動きを止めた。
ガシャリ……
一体、また一体と、骸骨たちがその場にひざまずいていく。
「なに……? どうしたの……?」
レアナが震える声でつぶやいた。
『……我が、魔王ガモー=デビオンである……』
突然、空中にホログラムのような映像が浮かび上がった。
仮面をつけたような顔を持ち、黒と赤の装束をまとった悪魔。
これ、絶対に魔王だ。
「やばい……やばい……」
心臓がバクバク言い出す。
『……我が忠臣ゼルゼアを亡き者にしたのはお前たちか……その力、見せてもらうぞ……』
ガモーの怪しく光る視線が、ゆっくりとあたりを見渡す。
足がすくんで、動けない。
『来い……人間ども……』
幻影が手をすっとあげると、私たちの足元に魔方陣が広がった。
「や、やだ! これって!」
「転移魔法!?」
一瞬、身体がふわっと浮いたような感覚がして、目の前がぐにゃりとゆがんだ。
そして、次の瞬間——私たちは、魔王の間に転移させられていた。
背後で扉がバンッと閉まる音が鳴り響いた。
……このイベント始まったら、もうキャンセルできないやつだ……