表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

183/192

魔神兄弟

 筋肉ムキムキのグロテスクな巨体が、ズシン、ズシン……と床を踏み鳴らしながら近づいてくる。

 とんでもない大きさの斧を肩にかつぎ、口元をだらしなくゆがめて笑っている。

 バカっぽいというか……もう見た目でわかる。脳筋の弟の方だ。

 

 その後ろから、黒いマントを着た魔神が、杖を片手に歩いてくる。

 片手に杖を持ち、目が赤く光っている。

 口元には冷笑が浮かんでいて……オクラマにいた死霊と似ている……

 思い出すだけでぞっとする。


「ほほう、何か罠にかかったと思えば……人間ですか」

 嫌な声だ……

 地獄の底から響き渡るような。

「よう、兄貴、食ってもいいか? こいつら。ぶん殴ったら骨ごとイケそうだぜ」

「まあ、待ちなさい。面白いものが手に入りそうですよ……みなさい、あの青い石のついた剣……」 

 兄、と呼ばれた方の魔神が、クリス先輩の持っている剣を指さした。

「それを私に渡しなさい。そうすれば、あなたたちをこの神殿から出してあげましょう」

「……なんだって?」

 クリス先輩が怒りのこもった声をあげる。

 魔神の交渉など、信じられるわけがない。


「悪くない提案でしょう?」

「断る!」

 クリス先輩が即答した。

 その声を合図に、エヴァ先輩やマルクが剣を抜いた。

「交渉決裂、というわけですね。残念です」

 兄魔神が小さくため息をついた。

 その瞬間、二体が同時に、こっちに向かってきた。

「来るぞ、戦闘体制!」

 ワルデック先生の声に、全員が構える。


 ジャキーンッと弟魔神が振り下ろした斧を、マルクが大剣で受け止める。

 予定通り、ワルデック先生とマルクは弟魔神担当だ。

 レアナが獄炎の舞を放ち、弟魔神に黒い炎がつきまとう。

 布きれのような衣服が燃えているのに、弟魔神はまるで気にしていないようだ。

 やっぱりバカなのか、超鈍感?


「いかづち!」

 雷撃を兄魔神に向かって放ってみたけれど、なぜか目に見えない壁のようなものに弾かれる。

 通らない……!?

「アイスブレイク!」

 エヴァ先輩が続けて氷の斬撃を放ったが、それも兄魔神に届かず砕け散った。

「なるほど……強力な結界のようだな」

 クリス先輩が静かに剣を構える。

 こっちは三人対兄魔神とにらみ合ってる状態だ。


 ドカン!と音がして、ちらりと目をやると、ワルデック先生はトゲトゲ棍棒の攻撃に変えたようだ。

 マルクが斬撃剣で応戦、ニコラくんは援護射撃で金属のニードルショットを打ち続けている。

 鉄の串のようなものが、弟魔神の身体にたくさん刺さっているのがシュールだ。

 私も援護射撃で、雷魔法を弟魔神のほうへ飛ばしてやった。

 鉄の串に雷が落ちて、弟魔神は硬直して泡を吹いた。

 チャンス!

 ニコラくんが小さくこっちにVサインを送ってきた。

 マルクが大剣で飛びかかる。


 エヴァ先輩は、兄魔神の結界に向かって、いくつかの魔法を放っていた。

 しかし、どれも跳ね返されている。

 その時、クリストフ先輩が思いついたように言った。

「やはり、悪魔には……これしかあるまい」

 剣をまっすぐに兄魔神の方へ向けて、斬りかかる。

「聖十字剣!」

 光の斬撃が、一直線に結界を切り裂く。

 

 バチッ!!

 これまで攻撃はすべて弾き返していた結界が、音をたてて揺れた。

「効いてる!」

 そうか……死霊系だから、聖魔法は効くんだ。

 一瞬顔を見合わせて、私とエヴァ先輩も剣の攻撃に変えた。

「聖十字剣!」 

 やった!

 パリーンとガラスが割れるような音がして、結界が崩れた。


 結界が破られると、それまでニヤニヤしていた兄魔神が不愉快な顔になった。

 杖から魔法陣が浮かび上がり、そこから黒い鎖がうねうねと出てきた。

 ヤバい……こっちに来る!!

 

 逃げようとしたら足に巻きついた。

 冷たくて、ぬるぬるしていて気持ち悪い!

 見た目はただの鎖なのに、エイリアンみたい。

 身体が、ずるずると地面に引きずられていく。


「た、助けて……」


 鎖が伸びて腕や首にまで巻きついてくる。

 何か、身体の奥から……魔力が、吸い取られてる……みたい……


「ルイーズっ! 殲滅浄化ッ!」


 次の瞬間、まぶしい光が弾けた。

 ジュっと音を立て、巻き付いていた鎖が、黒いもやになって消えた。

 助かった……

 オーグストが駆け寄ってくる。

「ルイーズ、大丈夫かっ? なんだ今の……」

「助かった、ありがと……気をつけて、あれ、魔力吸われる」

 私は割と魔力量多いから大丈夫だけど……でもヤバかった。

 間に合ってくれて、助かった。


「こいつ、回復してる……!」

 ニコラくんが叫んだ。

 エヴァ先輩とクリス先輩が斬りかかった傷が、黒いモヤのようなもので瞬時に修復されていく。

 どうすればいい?


「俺に任せろ……死霊系なら俺の出番だぜ!」

 オーグストが杖を持って前へ出た。

 空中に、大きな魔方陣が展開される。

 そこから青い炎が現れ、ゆらゆらと広がっていく。


「煉獄浄化っ!!」

 神聖な炎が、一直線に兄魔神の胸部へ向かっていく。

 そして、兄魔神の胸を貫き、身体に燃え広がっていく。

「がっ……!? バカな、なんだこれは……っ、こんな炎、今まで……!!」

 兄魔神が、初めてうろたえたように叫んだ。

 マントの下から、青黒い光の塊――がぼんやりと透けて見えている。

 あれは何?


「クリストフ様! 今です!」

 オーグストが、振り返って叫んだ。

「……狙いは心臓か!」

 クリス先輩が剣を構えると、聖なる光が剣身に集まった。

 兄魔神は、苦痛に顔をゆがませて、胸をかばうように押さえている。

 弱点、丸わかり。


「神に代わりて、断罪する──聖十字剣!」

 クリス先輩の剣が、正確に魔神の胸を貫いた。

「グァアアアアアァッ……!」

 兄魔神の絶叫が響いたかと思うと、その身体は黒い霧になって霧散していく。

 

 勝った……?

 少し間を置いて、オーグストがその場にへたり込んだ。


「っしゃああああっ! やったね!」

 レアナが思わず叫ぶ。

「オーグスト! よくやった!」

 弟魔神を倒し終わった、ワルデック先生が駆け寄ってくる。

「ふっふっふ……クリストフ様と、連携技……出せた……」

 へたり込んだままガッツポーズしてるオーグスト。

 なんか、平常運転に戻ってる。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ