二つの脅威
ビートルたちを倒し、一時間ほど山を登った。
時折、カラスや虫の魔獣が現れるが、さっきビートルを倒したせいなのか近寄ってはこない。
なんとなく監視されているような感じで、不気味だな。
物陰から、野犬のようなヘルハウンドがじっとこちらを見ている。
まあ、私たちはゴーレムの上から見下ろしているので、さほど怖くはないんだけど。
「なんだか……野犬が増えてないか?」
マルクが警戒しながら周囲を見渡している。
その時、不気味な吠え声が響いた。
狼の遠吠えみたいな、何かの合図のような声。
「何か来るぞ!」
ドッドッと魔獣が走る音が近づいてくる。
背中が真っ赤に燃えている、巨大な黒い魔獣。
「インフェルノハウンドだ!」
ニコラくんがすぐに正体を見極め、みんなに知らせる。
魔王城エリア最終あたりに出てくる、強敵だ。
ということは、魔王城はもう近いよね……
「来るぞ! 気をつけろ!」
ワルデック先生とマルクが剣を抜きながら前へ出る。
巨大ハウンドは、ギラリと目を光らせ、狂ったように突進してくる。
ニコラくんが魔方陣を展開しようとしたときに、また新たな方角から轟音がした。
現れたのは巨大な蛇だ……しかも頭がいっぱいある。
7つか8つ?
こんな敵……知らないよ!
蛇は音をたてて地面をはいながら、鋭い毒牙を見せて近づいてくる。
デカいくせに結構素早い!!
「二体同時か……どうする?」
マルクが大剣を握りしめながら、周囲を見渡す。
そのとき、蛇が尻尾を振り回して大地に打ち付けた。
ガラガラガラッっと音を立てて崖が崩れ、大きな岩が落ちてくる。
「危ないっ!」
目の前に崩れた土砂がなだれ込んできて、メンバーが二手に分かれてしまった。
「俺とマルクで、犬はなんとかする! お前らは蛇のほうを頼む!」
ワルデック先生の声だけが、向こう側から聞こえてきた。
先生とマルクと……たぶんあっち側にエヴァ先輩。
大丈夫かな……
「行くぞ、ルイーズ殿! 蛇の首を切り落とす!」
クリス先輩が剣を抜いてゴーレムから飛び降りた。
「クリストフ様! あいつ、毒吐いてますよ! 気をつけて!」
オーグストがあたり一帯に、毒の浄化をかける。
一応解毒の腕輪は装備してるけど、あれは猛毒っぽい。
紫色の息を吐きながら、大蛇が近づいてくる。
「こいつ、速すぎるよ!」
火魔法を撃ちながら、レアナが叫ぶ。
「頭……八つだな!」
クリス先輩が冷静に言い、剣で狙いながら間合いを取る。
その瞬間、頭がひとつ、クリス先輩に襲いかかった。
「援護します!」
レアナがファイアーボムを投げ、頭を爆発させた。
咆哮をあげたひとつめの頭を、クリストフ先輩が切り落とす。
お見事!
ニコラくんが魔方陣から、他の頭に向かってアイスニードルを連射する。
足止めしてはいるが、致命傷にはならないようだ。
「やった!」
「レアナ殿、次いきますぞ!」
レアナとクリストフ先輩の、即席ペア。
案外息が合っている。
私も後方から、雷撃でニコラくんに加勢する。
ビリビリと震えて、いくつかの頭が動きを止めた。
「後は任せて!」
クリス先輩とレアナが、炎と剣で蛇の頭を討ち取っていく。
苦しげに暴れた大蛇の尻尾が、再び崖を直撃した。
「レアっ! 危ないっ!」
崩れた岩の隙間から、犬の魔獣と戦っている先生とマルクの姿が見えた。
なんとか無事みたいだ。
エヴァ先輩がいれば、あの燃えてる背中、なんとかできるよね……
「やった!」
クリス先輩が五つ目の蛇の頭を切り落とした。
残るは三つ。
私とニコラくんで頭の動きを止めているんだけど、尻尾のほうが暴れているので危ない。
頭の動きを止めるのが精一杯で、一番太い胴体は暴れ放題だ。
「もう少し、もう少しだ! 頑張れ!」
オーグストから回復魔法が飛んできた。
岩の隙間から、向こう側にも回復を飛ばしている。
ナイス援護!
そして、ようやくクリス先輩の最後の一撃が頭を切り落とすと、蛇は胴体だけになった。
うねうねとまだ暴れていて気持ち悪い。
「あれ……まだ生きてる?」
「まあ……もう攻撃はしてこれないので、無害だとは思いますが」
ニコラくんが土魔法で、転がっている大岩を砕いてくれた。
マルクたちはまだインフェルノハウンドと戦ってるけど、だいぶ相手は弱っているようだ。
「こっちも大丈夫だ!」
先生が手を振って無事を知らせてくれた。
その時、エヴァ先輩とマルクが同時に、最後の一撃をたたき込んだ。
ハウンドはドサっと息絶えて、燃えていた背中の火も消えていく。
「みんな無事だな? 良かった!」
泥だらけになったメンバーに、笑顔が戻る。
ちょっと危ない敵だったけど、怪我人が出なくてよかった。
このぐらいの戦闘でこのあたりの敵を倒せるなら、私たち、結構レベル上がってる気がする!
「やれやれ、ちょっと休憩するか」
ワルデック先生が汗をぬぐいながら、岩にこしかけた。
マジックバッグから、冷たい水の入った水筒を取り出して手渡す。
後方支援組はゴーレムに乗ったままだけど、降りて戦ってる前衛は大変だよね。
みんなも水を飲んだり、汗を拭いて汚れを落としたりしている。
「さっきの戦い、私たち息が合ってましたよね!」
「いい連携だったな! 即席にしては」
レアナが笑顔で言うと、クリス先輩もうれしそうな顔になった。
ずっとひとりで戦ってきたクリス先輩は、チームで戦うのが楽しそうだ。
「この先、魔王城が待ってると思うと、気が引き締まるな」
クリス先輩のしみじみとした声に、みんなが無言でうなずいた。